成長期



今日のF-LAGSの仕事は、音楽番組のリハ出演だ。
本番は生放送なので、事前に出来るだけ本番に近い形でリハを行う、というものだった。
そのため、当日と同じメイク、衣装で臨んだのだが…リハ中の涼くんの動きに、私は小さな違和感を覚えた。
…とは言え、リハの流れを止めるほどではなかったので、リハが終わったところで、私は涼くんに声をかけた。

「涼くん、なんだか今日動きが小さいね。体調悪い?」
「そうだったんか!?ワシはちぃとも気付かんかったわ…涼、大丈夫か?」
「…おれもだ…いつもと変わらないように、思っていたんだが」

大吾くんと一希くんが心配そうに涼くんに声をかけると、涼くんは「違うんです!」と首を大きく振った。

「ううっ!すみません…体調に問題はないんですけど…実は、その…衣装の肩まわりとかきつくて…太っちゃったのかもしれません…ごめんなさい」
「いやいや、涼くん成長期なんだから。普通に大きくなったんじゃないの?」

しょぼんと申し訳なさそうに肩を落とす涼くんに、間髪入れずに返す。
そしてぺたぺたと身体を触ると驚かれたけど…うん、やっぱり太った感じはしない。

「そ、そっか…!言われてみれば、そうかもしれません!」
「いいことだからね、変に気に病まないで、これからも遠慮なく大きくなってね!あ、でも次からは、衣装に違和感感じたら、早めに言ってね」
「はい!ありがとうございます、プロデューサーさん!」

そう言って涼くんはいつもの笑顔になった。よかったー。

我が315プロのアイドルたちには、若いメンバーが多いから、成長によるサイズアップは想定の範囲内のことだ。
とはいえ、中学や高校の入学時に大きめの制服を買って対処するようなことは、さすがに、アイドルの衣装でするわけにはいかないので、一旦はジャストサイズで作ってもらい、あとで出来るだけ調整できるようにお願いしてあるのだ。

…ちなみに、成長期を終えた成人男性の筋肉的な成長は別の話である。
そちらに自由を与えると、際限がないからね…!

「…そういうことだったのか」
「デカくなっとるなんてえぇのぉ!ワシも負けてられんわ!」
「えへへ、うれしいな。どのくらい身長伸びたかな…!」

顔をあわせる機会が多いから、さすがにパッと見で大きくなった、とまではいかないけれど。
“男性”らしさを気にしている涼くんには、嬉しいことなんだろう。

「…しかし、よく気付いたな、プロデューサー。本当に、些細な違いだったと思うが」
「さっすがワシらのボスじゃな!」
「ふっふっふー、みんなのことを一番見てる自信はあるからね!」

なんてドヤ顔をしてみれば、みんなは少しはにかんだ様に笑った。
さて、生放送の本番の日まで時間がない。
衣装さんに早速電話しなくては。


「――はい、お手数をおかけしますけど、お願いします!事務所でお待ちしております!」

電話が終わり、着替えを終えた涼くんに「今から事務所に来て、調整に入ってくれるって!」と伝えれば、安心したように笑った。
涼くんを連れて、急いで事務所に戻らなくちゃ。
…あぁでも、今日の反省会も…と考えると、みんなで事務所に戻った方がいいか。
リハはスムーズに終わったし、まだそんなに遅い時間じゃないしね。

…と、考えるのを終えたところで、涼くんが話かけてきた。

「プロデューサーさん、僕…いえ、僕たちのことを、いつも見ていてくれてありがとうございます!」
「どういたしまして。プロデューサーとして当然のことをしてるだけだよ」

876プロではセルフプロデュースだったそうだから、涼くんはきっと『プロデューサー』という存在の大きさを、他の人より重く感じているはずだ。
私は、何よりその気持ちを裏切らない『プロデューサー』でありたい。
安心して、アイドルに専念してもらいたい。
そのためには、私のできることは全部しなくっちゃね!

「もっともっと、プロデューサーさんが目を離せないようなアイドルになってみせますから!」

そう言った涼くんの笑顔は、いつもより少し大人びて見えた――




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