一番星も、その先も



「そろそろ撤収しますよー」

ファーストライブという夢の舞台が終わり、簡単な打ち上げも着替えも終わった。
だが、ライブの余韻でまだふわふわとしているアイドルたちに、声をかけてまわるなまえ。
それぞれのユニットのリーダーに、メンバーをまとめるように声をかけたが…輝が見つからない。

「薫さん、翼さん。そろそろ撤収の時間なんですけど…輝さん知りませんか?」
「さっきまでここにいたんですけど…」
「…客席の方を見てくると言っていたが」
「ありがとうございます、ちょっと探してきますね。お二人も、帰れるように準備しておいてくださいね!」

薫と翼にそう声をかけると、なまえは小走りで客席へ向かった。

(輝さんはどこかな…あ、いたいた)

客席の1つに座り、輝はステージを見つめていた。
輝の目線の先にあるステージは、さっきまでファンの熱い視線を受けとめ、輝たちが歌い、踊っていた場所だ。
しかし今は片付けがほぼ終わり、がらんとして、さっきまでのライブの熱気が嘘のようだった。

「輝さん」
「…プロデューサー」

なまえが声をかけると、輝は現実に引き戻されたかのように、身を跳ねさせた。

「…セットって、あっという間にバラし終わるんだな」
「そうですね。作るときに比べたら、本当にあっという間で…なんだかちょっと切ないですよね」

なまえは隣に座り、ステージを見つめている輝を見た。

「…さっきまで、ステージで俺たちが歌ってて…ここがファンで埋まってたんだよな…?」
「そうですね」
「なんていうか…上手く言葉にできねぇんだけど…すごく楽しかったし、まだ頭の中にファンのみんなの歓声が響いてて、確かにここに熱いものはあるんだけど…夢を見てたんじゃないか、なんて気持ちもあって…」

そう言って、胸の前でぎゅっと拳を握る輝。

「…はい」
「だけど、早く次のライブをやりたい、って気持ちもあるんだ」
「はい」
「あと、とにかく、ありがとうって、色んな人に伝えたい。今すぐ叫びたいくらいだぜ」
「…その気持ち、大事にしてください」

なまえは、静かに微笑みながら頷いた。
そして、胸の前で握られた輝の手を、そっと握った。

「なんというか…今は、とにかくいろんなものを食べて、お腹いっぱいな状況だと思うんです。具体的な言葉には出来なくても…きっと、少しずつ消化できていくと思います。それが輝さんの栄養になって、これからのお仕事に生きていくと思うんです」

なまえはぽつりぽつりと、なまえらしい言葉で輝に語りかける。
その瞳を、輝も見つめ返した。

「またこんな…ううん、もっと大きなライブが出来るように、私も頑張りますから!きっと、輝さんを一番星にしてみせます!一番星の、その先にだって!」

なまえはアイドルに負けない、輝く笑顔でそう言いきった。

「〜〜〜〜〜っっっっ!!!!!」

その言葉に、輝は思わず抱きしめそうになって、すんでのところで踏みとどまった。
そんなことには気づかず、なまえはニコニコと笑っていた。

「実は、年明けに輝さん好みのお仕事も来てるんですよ〜」
「えっ!なんだよそれ!」
「ふふ〜さていったいなんでしょう〜?とりあえず今は、撤収ですよ!みんなと合流しましょ!」
「なんだよ、もったいぶるなよー!」
「ふふふーお楽しみに!…これからもがんばりましょうね!!」
「…おう!」

そう言うと二人は立ち上がり、控室に戻るべく客席を歩き出した。
輝は出入り口の前で立ち止まって振り返り、改めてステージを、客席を見渡した。
前を歩いていたなまえは、それに気づき、黙って見守った。

何かを噛み締めるように頷いた後、ステージに向かってぐっと握った拳を翳す輝。
そして「よし!」と叫んで、握り振り返ると、輝は強いまなざしで、なまえを見た。
その視線を受けて、なまえもきゅっと姿勢を正す。

「なあ、プロデューサー」
「はい」
「俺たちをここに立たせてくれてありがとうな。そして改めて…これからもよろしくな、プロデューサー!!」




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