誰がために



今日はHigh×Jokerのオーディションの日。
会場入りする前、プロデューサーであるなまえは、それぞれに向けてアドバイスを送り、最後に5人を激励した。

「今日のオーディション、決まればあの有名音楽番組に出演できるからね!気合入れて頑張ってきて!」
「「「「「はい!!」」」」」

(正直、今のHigh×Jokerには、少しレベル高めのオーディションだけど…きっと5人なら行けるはず…!もし万が一ダメだったとしても、得るものはある!)と考えながら、なまえは気合入れのため5人の背を叩き、送り出す。

「私も、挨拶回りしてから、オーディション会場に向かうからね。いってらっしゃい!」


×××


受付を済ませた隼人たちは、まず着替えのためにロッカールームに向かった。

「今日のオーディション、なんかいつもと雰囲気が違うっすね〜…」
「知ってるアイドルがいっぱいいるな」
「や、やめろよー…余計緊張するだろ」
「う、うぅ…」

ひそひそと会話をする四季、春名、隼人。
少し青い顔をして、黙り込む夏来。
その様子を見て、呆れる旬。

「いつも通り以上の力を発揮できなければ、今回のオーディションに受かるのは難しいのに…今からそんな風でどうするんです?」
「さすがジュンだぜ…」
「頼もしいっす!」

そんな会話を5人でしていると、ロッカーを挟んだ向こう側から、知らないアイドルの会話が聞こえてきた。
耳に飛び込んできたその会話は…

「なあなあ、さっき受付のとこにいた315プロ?とかいう事務所の女、やっばくねー?」
「今回のオーディション、対象は男だけだし、ぜってー枕要員だよな!」

という下世話なものだった。

その会話を聞いたHigh×Jokerの5人は、むっとして黙り込んだ。
315プロという名前が出たのはもちろんだが…下卑た会話に出てきた人物は、間違いなく彼らのプロデューサーの、なまえのことであろうことが想像できたからだ。

――なまえは、初対面であれば、必ずその胸元に目がいってしまうような容姿をしていた。
最初に声をかけられた時も、その容姿に隼人がドギマギしてしまい、上手く返答できなかったほどだ。

それでも、知り合って、プロデューサーとアイドルとして関わっていくことで人となりを知り、プロデューサーとしての実力も間違いなく。
今では、彼らが一番信頼できる大人だ。

ちなみに、自分がアイドルをやった方がいいんじゃ…と思うこともしばしばで。
実際にそう四季が伝えた時には、苦笑いして「絶望的に音痴でね、リズム感もないの…」とスキップすらできない事を告白してきたのだった。

ともあれ。
その容姿のせいで苦労していることを、High×Jokerの5人は知っていたし、ましてや自分たちのプロデューサーが変な目で見られていることが不快でならず、ロッカーの向こう側から聞こえてくる会話を苦々しく思った。

しかし、そんなことは向こう側にいる輩に伝わるはずもなく…低俗な会話は続いた。

「真面目なスーツなんか着てたけど、あの身体エロすぎんだろ」
「俺も一発お願いしてーなー」
「あんなん居たらぜってー受かるだろー!うらやましーよなぁ?」

ギャハハ、と笑う声に、ついに我慢ならない、と立ち上がる四季。
それを真っ先に止めたのは春名だった。

「おい、やめとけってシキ」
「で、でも…!」
「こんなところで…喧嘩になったら…ダメ、だよ…」
「俺だって、同じ気持ちだけど…ここは落ち着こう?なっ?」
「…そうですよ」

静かにロッカーを閉めながら旬が発した冷えた声に、他の4人はビクっとして、恐る恐る振り返る。

「あんな低レベルな人たちの相手をして、同じレベルに成り下がりたいんですか?何と言われようと、僕達が実力を見せつけて合格して、叩きのめせばいいだけの話です」
「ひぇっ…」
「ジュ、ジュン…?」
「目が全然笑ってないっす…」
「ジュン…怖い…」

旬は、持っていたペットボトルの水を握った。
中身があるため潰れはしないが、めきょっと不快な音を鳴らすと、ヒッ!と他の4人は身をすくませた。

「ほら、さっさと準備して行きますよ。これ以上、あんな不快な会話を聞いていたくありません」
「は、はいっす!!」

わたわたと四季は荷物をまとめて、ロッカーに詰め込んだ。

「気持ちはわかるけど…オーディションの時にそんな顔してちゃまずいぞ…?」
「わ、笑って…?」

隼人は、冷たいオーラを纏った旬をなだめようとした。
続けて夏来もフォローを試みた。

「大丈夫ですよ…僕たちはアイドルなんですから」
「だから目が笑ってねーって…」

オレたちのこと怒ってる時より、よっぽどこえー…っと春名は身を震わせた。


いつもとは違い、オーディション会場に向かって、先頭を歩くのは旬だ。
最後尾についた春名と四季は、ひそひそと会話する。

「ジュンっちが怖すぎて、ムカついてたのどっか行っちゃったっす…」
「オレも…ジュンのこと、絶対、本気で怒らせないようにしような…」

怒られることに心当たりのある二人は、そっと頷き合った。
その前にいた、隼人と夏来は苦笑いしか出ない。

「ジュン、プロデューサーさんのこと…大好きだから…」
「…だな。今も一番怒ってるし」

そう二人が話すと、旬は振り返った。

「ごちゃごちゃうるさいですよ」
「うっ…ごめん」
「ジュン…落ち着いて…」
「ジュ、ジュンっち、あのその…アイドルなんだから、ハッピースマイル!っすよ!」
「そうだぞー今日は歌って踊るオーディションなんだからな!」
「わかってます」

ふう、と息をつくと、旬は4人に向き直った。
そして(僕らのプロデューサーさんを侮った罪の重さを思い知らせてやります…!)と心の中で呟くと、視線を尖らせる。

「今日は絶対に受かりますよ」
「おう!」
「はいっす!」
「ああ!」
「…うん」


×××


(な、なんか今日の5人すごい…けど、なんか鬼気迫る、というか、ちょっと求められてるものと違うような…何かあったのかな…)

発破かけすぎた…?そんなつもりはなかったんだけど…と、なまえは、はらはらしながら、オーディションを見守っていた。

オーディションが終わってからもそれは続いていて、声をかけても、いつものHigh×Jokerにはない雰囲気で戸惑った。
何かあったのか聞いても「なんでもないです」とぴしゃりと旬に言われてしまい、他の4人も苦笑するだけだった。

オーディションは見事合格し、なまえの心配は杞憂に過ぎなかったものの…
思春期の男の子の扱いって難しいなぁ、となまえはため息をついたのだった。




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