(私+君)÷2=?



久しぶりに、幼馴染の英雄くんとご飯を食べに行くことになった。
待ち合わせ場所に行くと、約束の時間前にも関わらず、英雄くんは既に待っていた。

「お待たせ、英雄くん!」
「よっ。じゃあ行くか」
「うん!」

英雄くんは、3つ下の幼馴染だ。
小さい頃は「なまえねーちゃん」なんて呼ばれていて、弟のような存在だった。
学生の頃の3歳差って大きかったけど…あっという間に身長は抜かされたし、社会人になると、3歳差なんて気にならなくなるもので。
最近はお互いに忙しいものの、時間があうと、こうして一緒にご飯に行っている。
今日も、近所のお店に2人でお鍋をつつきにやってきたのだった。

…というか、この間まで英雄くんは警察官だったくらいしっかりしているから、余計に歳の差を感じなくなっているのかも。
きりっとした顔立ちをしていて…人によっては怖いらしいけど、私は小さいころから見慣れているので何とも思わない。本人はかなり気にしているけど。
それでも、アイドルを始めてからは、表情が柔らかくなったと思う。

反対に、私はいつもぼんやりして見えるらしく…
一生懸命考えているのに「悩みがなくて羨ましい」なんて言われてしまうほどだ。
年相応にも見られなくて…最近は英雄くんと歩いていると「お兄さんと妹さんですか?」なんて言われてしまう。
どうしたら、年相応になるんだろ…

はあ。
そんなことを考えながら、鍋越しに英雄くんの顔をじっと見ていると、ため息が出てしまった。

「どうした?悩み事か?」

英雄くんは、私の能天気な顔からも表情の変化を読み取ってくれる、ありがたい人物だ。

「んー…別に、今にはじまったことじゃないんだけど…」

と、私はさっきまでぼんやり考えていたことを、英雄くんに話した。

「俺は逆になまえが羨ましいけどな…子供にだって、好かれるだろ?」
「うーん…まぁ…舐められてるんじゃ、って思うことも、なくはないけど」

ぐつぐつと鍋が煮えると、英雄くんは私の分も取り分けてくれた。
私の好きな具がちょっと多めだ、嬉しい。
さすが英雄くん、気が利くよねぇ。

そんな風にもぐもぐと鍋をつつきながら、私と英雄くんは話をした。

「まあ、隣の芝生は青いってやつだよな」
「そうだねぇ…でも、英雄くん、アイドル始めてから、ぐっと表情が柔らかくなったよ」
「そ、そっか?」

嬉しそうに頬をかく英雄くん。
…昔から、可愛い顔してると思うんだけどなー。

「私も仕事変えたら、キリっとするかなぁ?」
「…なまえには、今のままで居てほしいけど」

えー、なんでよぉ…似合わないかなぁ。
私がしょんぼりとすると、英雄くんは慌てたようにフォローしてきた。

「なまえは、俺の笑顔のお手本のうちの1人だからさ!これからも笑ってて欲しいんだ!」
「もう…そういうことなら、しょうがないね」

大げさに言ってへらっと笑うと、英雄くんはほっとしたようだった。

「あ、あれだね、私と英雄くん足して2で割ったら、ちょうどいいのかもね」
「えっ」

私と英雄くんは、顔だけじゃなくて実は色々なところが正反対だった。
私は辛党で、英雄くんは甘党。
私は猫派で、英雄くんは犬派。
…他にもいっぱいあるけれど、なんだかんだ今まで仲良く続いてるんだから、波長は合うんだろうな。

「私と英雄くんの子供がいたら、きりっと感もゆるっと感もちょうど…ってどうしたの、真っ赤だよ!?」

英雄くんは動きを止めて、真っ赤になると、目を逸らした。

「いや…悪い、考え過ぎた…」
「え…うん、なんか、ごめんね…?」

私、照れるようなこと言ったかな…!?
て言うか、そんなつもりじゃなかったんだけど…!
英雄くんに釣られて、私まで恥ずかしくなってしまう。もー!

「…あの、さ!」
「うん?」
「本当はもっと、雰囲気とか、シチュエーションとか、考えた方がいいのかもしんねーけど!これはこれで俺たちらしいのかなって思うし…!」

英雄くんらしからぬ、どもりっぷりで何かを言いたそうだ。
………これって、まさか。

「つまりその!俺、ずっとずっと、なまえのことが好きなんだ!俺の彼女に、なってください!」
「え…えっ!?」

今度は私が真っ赤になって、フリーズする番だった…


しばらくして…やっとの思いで、ギギギ、と口を開く。

「え、い、いつから…!?」
「ずっと前…」
「ずっと、って…」
「まだ俺がなまえのこと、“なまえねーちゃん”って呼んでた頃から…」
「そんなに!?」

英雄くんが私のことを「なまえねーちゃん」と呼ばなくなったのは、中学に入った頃だったと思う。
…ということは…小学生の頃から、ってこと!?

っていうか!
うちのお母さんはおしゃべりで、英雄くんのお母さんとも仲が良いから、私の歴代の彼氏の話とかも、バレていたと思うん…だけど……
それをしどろもどろになりながら確認すると、英雄くんは拗ねた様子で「…知ってた」と言った。

マジですかー…!
なんだか、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

「だから今…フリーだってことも、知ってる」

お母さーーーーん!!!!!
……って…もしかして!
うちのお母さんと、英雄くんのお母さん、グルなのでは…!!

「なまえが高校生になってから、少し疎遠になっちゃっただろ?あの時、すげー寂しくて…でも今は、こうやって一緒に飯を食えるようになって…嬉しいんだ」
「う、うん」
「最初は、こうやってたまに会えるだけで嬉しかったけど…やっぱり、なまえの顔見てたら、もっと一緒に居たい、って思うようになって…この間、なまえのとこのおばさんに会った時に、色々聞いて、それで…」

やっぱりお母さんが暗躍してた…!
そりゃ、英雄くんのことは嫌いじゃない、嫌いじゃないけど…
そんな風に見てなかったのは、私だけだった、ってことなのね…!

「なまえが俺のこと、そんな風に思ってないのはわかってた。飯食いに行っても『おねーさんに任せなさい』とか言って、奢ろうとするし」
「それは…大人ぶりたかっただけで、そんなに深い意味はなかったんだけど…」

英雄くんがすごく嫌がったのは、覚えてる。
割り勘でも、しばらく不服そうにしてたもんね…
それは、子ども扱いしちゃったせいかと思ってたんだけど…

「こうやって俺との時間を作ってくれるってことは、少なくとも嫌われてるんじゃないだろうけど、でももしかしたら、別の誰かに、また盗られるかもしんねーし…とか色々考えてたのに、なまえは無邪気にさっきみたいなこと言うし…」
「ご、ごめん…」

ううぅ、なんだかいたたまれなくなってきた…

「だからもう俺、はっきりさせたいんだ!俺を、なまえの彼氏にしてください!!」

そう頭を下げて片手を差し出してくる英雄くん。
…耳まで真っ赤になっているから、顔も相当赤いんだろうな。

ここまで言われたら…この手をとっちゃうよね。

「こんなニブい私でもよければ…よろしくね」
「〜〜〜〜〜〜っしゃーーーーーー!!!!!」

英雄くんはガッツポーズを決めたかと思うと、次の瞬間には、ふにゃふにゃと机に突っ伏した。

「緊張、したー…!!オーディションより緊張したぜ…!!」
「そ、そんなに…?」
「当たり前だろ!」

英雄くんはジト目でこちらを睨んだかと思ったら、ふいっと顔をそむけた。

「ふふ、英雄くんかわいい」
「はぁっ!?そうやって子供扱いするの禁止だからな!!」
「子供扱いってわけじゃないんだけど…」
「あと、英雄"くん”もやめてほしい」
「えー………英雄?」
「――っ!!」

ガタン!!と英雄くんは再び机に突っ伏した。
…なんだ、英雄くんって面白いところあるんだなぁ。

「英雄くん〜お鍋、このままだと干上がっちゃうから食べちゃお?」
「なんで元に戻すんだよ」
「そうじゃないと、英雄くんがご飯食べられなそうだから。ほらほら、残さず食べないと」

くすくすと私が笑うと、英雄くんはバツが悪そうに起き上がった。
なんだか、これから楽しくなりそうだなー…




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