彼シャツチャレンジ☆



私は、315プロという芸能事務所でバイトをしている、一人暮らし中の大学生。
バイト先で出会った四季と、こっそりとお付き合い中…と言いつつ、たぶんみんなにバレているけど。

四季は隠し事が苦手なようで、私と会話している時のテンションの高さたるや…四季に尻尾が生えていたら、すごいぶんぶん動いてるんだろうな、と思うほどだから。
…まぁ、嬉しいんだけどさ。


そんな四季が、うちに泊まりにやってきた。
初めての事じゃないんだけど…今日は、なんだかやけに楽しそうだ。

四季は高校生で、さらにはあまり成績が芳しくないことから『うちに泊まりたかったら、必ず宿題を終わらせること。直近のテストで赤点を取らないこと』という条件を課していてる。
いつもはぶーぶー文句言いながら宿題をやっている四季が、今日は文句を一言も言わず、むしろ鼻歌を歌いながら宿題をしてるのだ。
絶対なんか企んでるな…

夕飯を終えて、私がお風呂に入ろうとすると「ちょーっと待った!」と声がかかった。
…なんなの。

「はいこれ!これ着て出てきてくださいっす!」
「四季、これって…」
「男のロマン!“彼シャツ”ってやつっす!」
「あぁー…そういう…」

今日ご機嫌だった理由はこれのようだ。
私に自分のワイシャツを手渡し、期待に目をキラキラ輝かせている四季。
その期待は、私には重いなぁ…

「別にいいけど…期待しない方がいいよ」

そう一言断って、私はお風呂に入った。


――そして。
お風呂上りに渡されたワイシャツを着てみると…うーん、やっぱり。これは違うと思う。
鏡に映った自分に、思わずため息をついてしまった。
まぁとりあえず、ご要望通り着ていってあげよう…

その姿を、四季に見せると…案の定。

「そ、想像してたのと違うっす…!」

…と、肩を落とされた。

「そりゃそうだよ、私と四季の体格、あんまり変わらないんだから…だぼだぼさせたかったら、信玄さんとか、葛之葉さんとか…そのくらいの体格の人のワイシャツなら、きっと理想通りになるんじゃない?」

そう。女の割に背の高い方の私と四季は、あまり身長が変わらない。
おまけに、私は小さい頃水泳をやっていたせいか、割と骨格ががっしりしていて、逆に四季は細身だから、四季のワイシャツでは、その夢は叶えてあげられなかった。
丈も余らなかったから、自分の部屋着のルームパンツ履いちゃったしね。
……あと、残念ながら、多少キツいものの…私の胸のサイズだと、前のボタンもしっかり閉まってしまった。申し訳ない。

「オレのじゃないと意味ないっすよ!!ねぇ、リベンジさせて!!これ!こっち着て!」

そう言うと今度は、別のシャツを押し付けられた。
四季がいつも着ているような、ゆるっとしたシャツ。
…四季は、何をそんなに必死になってるんだろう…?

「これって…明日着るつもりの服じゃないの?」
「いいんっすー!ね、お願い!!」
「別に、こんなことで四季が喜んでくれるならいいけどさー…」

私は再び脱衣所に戻り、押し付けられたシャツに、改めて着替え直した。
………うんまぁこれなら、四季の言う“男のロマン”とやらにも、刺さる…の、かな?
短めのワンピースくらいの丈もあるから、ルームパンツも履かない方が…いいんだろう…なぁ…
うーーーーーん。
…しょうがない、出血大サービスだ。
普段可愛い格好なんて、ほとんどしない私に、四季が望んでくれているなら。
たまには…うん。頑張ってみましょう…!


「…これでいいの?」

頑張ろうと決意したものの、さすがに恥ずかしくて、そっと部屋に戻ったら、四季が興奮して食いついてきた。

「っっっ!!!そうっすよ!これこれ!ていうか、想像よりずっといい!!反則っす…!!」
「は、反則?」

この服だと、だいぶだぼだぼだし、袖も余る。
胸元も、大きく開いているので…まぁ、“男のロマン”…かもしれない…?
そもそも、四季の言わんとすることはわからないでもないけど、その対象が自分じゃ、可愛いとか萌えるとか、そんな気持ち起きない。
けれど、四季はとても嬉しそうだ。

「四季は物好きだねぇ」
「なんでっすか!なまえっちメガカワイイっすよ!ねぇ、写真撮らせて!」
「え、それはやだ」
「なんでー!?」
「誰かに見られたら嫌だもん」
「誰にも見せないっすからー!」
「やーだ。四季だけに見せるなら、写真撮る必要ないでしょ」
「そんなことないっす!帰ってから思う存分見返すっす!」
「…それはそれで嫌なんだけど」
「ええええーなんでっすかー!!」

…誰かに見られたら、バカップル、なんて言われそうなやりとり。
私のことを「可愛い」なんて言ってくれるの、四季くらいだから…
本当はすごく嬉しいけど…素直になれなくてごめんね。

「ねー四季、これいつまで着てればいーの?明日着るものなくなっちゃうでしょ?」
「他にも持ってきたから大丈夫っす!明日の朝まで、それ着てて!」
「…まったく、変なところで準備がいいんだから」
「へへへ〜!…ね、このままイチャイチャしたいっす」
「ダメです。お風呂、先に入ってきなさい。歯も磨いてないでしょ」
「え〜…なまえっち、ホント真面目っす…そゆとこも好きっすけど。よし、ダッシュで入ってくるっす!!」

そう言って、四季はお風呂場に駆け込んで行った。
さてと…明日の朝ゆっくりできるように、今から何か作っておきますか!
パンはあるから…スープ作っておけばいいかな。

明日は、私も四季も、お仕事はないし…
いつも頑張って、私なんかのこと「可愛い」とか「好き」とか言ってくれる四季のこと…いっぱい甘やかしてあげよう!




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