Please kiss me!!



今日は、High×Jokerと、その妹分のアイドルであるなまえが、旬の家で勉強会を開くことになっていた。
なまえは、High×Jokerの5人が通う城南第一高校を第一志望の高校にしている中学3年生であるため、自然と彼らの勉強会に混ぜてもらうことが多くなり、今に至る。

なまえ以外の4人は、他の用事を済ませてから合流予定なので、今は旬となまえの2人きりだ。
静かなので、課題がスムーズに進んでいく。

「…終わりましたー!採点お願いします、旬センパイ!」
「はい」

なまえの解答に、さらさらと丸を付けていく旬。

「…全問正解です。さすがですね、なまえさん」
「わーい!ありがとうございます!これなら、城南第一、大丈夫でしょうか?」
「無責任なことは言えませんが…恐らく大丈夫じゃないですか?むしろ、なまえさんはもっと上のランクを目指せるんじゃ…」
「私は城南第一がいいんですー!公立高校行かなきゃだし、あんまり無理して難しい学校入っちゃうと、アイドル活動との両立が大変そうですし…何より、旬センパイたちと青春したいです!」
「青春って…2学年も違うんじゃ、接点もないでしょうに…」
「それは無理やり作りますから!迷惑にならない程度に!」
「はあ…」

なまえは、初対面で旬に「好きです!」と言ってきたり、やたらくっつこうとしてくる等、基本的なノリが四季や春名寄りなのに、何故か成績がよいので注意をしづらく、旬は扱いに困っていた。
何度も好きと言って来られて、最初は困惑していたが、段々と麻痺していき、今では「はいはい」と受け流すまでになってしまった。慣れとは恐ろしいものだ。


「ところで旬センパイ、旬センパイは、キスしたことありますか?」
「………は?なんなんですか、いきなり」

なまえの突拍子もない発言は今に始まったことではないが…また意味の分からないことを言ってきたぞ、と旬は眉をひそめる。

「私も旬センパイも、アイドルじゃないですか。お仕事で、いつキスシーンを求められてもおかしくないわけですよ!」
「はあ…」
「お仕事である以上、拒否したりするつもりはないんですけど…でも私やっぱり、ファーストキスは好きな人としたいんです!なのでセンパイ!キスしてもらえませんか!」
「そっ…そういうのは、恋人同士でするものでしょう!」
「じゃあまず、旬センパイの恋人にしてください!」
「ダメです!」

顔を赤くして拒否する旬、その旬の拒否具合に不満そうななまえ。
止める人がいないので、不毛な会話の応酬は続いた。

「なんでですかー!私、旬センパイのこと好きだから問題ないです!」
「ありますよ!」
「も、もしかして!!旬センパイは好きな人がいるんですか?!」
「そういうわけじゃありませんけど…」
「だったらいいじゃないですか!」
「よくないです!だいたい、軽々しく“好き”なんて言うものじゃないです!」
「軽々しくなんて言ってませんよー!気持ちは、言える時に言っておかないと、絶対後悔するんですから…!」

そういうなまえの表情に、影が落ちる。
なまえは、歳の離れた弟妹のため、お金のためにアイドルになった、と言っていたことを思い出す。
いつも明るく振る舞っているが、年の割に生き急いでいるような雰囲気のあるなまえ。
その理由が、もしかしたら起因しているのかもしれない…と、旬は言葉を詰まらせた。

しかし、なまえはめげずに顔を上げると、旬を真っ直ぐ見据えた。

「もっと1回ずつに重みをつけろってことですね!?」
「……そういうつもりではないんですが」
「ううー旬センパイが手強いー…どうしてもダメですか?」
「当たり前でしょう」
「いいじゃないですか、減るもんじゃないですし…」

ぶー、と頬を膨らますなまえ。
何の話をしてるんだか、わからなくなってきた、と旬はため息をついた。

「なまえさんはファーストキスを大事にしてるのかしてないのか、どっちなんですか…」
「大事ですよぉ!」
「だったら、そのまま大事にしておいたらどうですか」
「むーー大事だから旬センパイに頼んでるのにーー…旬センパイがそんなに嫌なら、仕事でいきなり知らない人とするよりは、四季センパイとか春名センパイとかと、しておいた方がいいです…」
「どうしてそうなるんです!?」

別のメンバーに飛び火して、旬はますます混乱した。

「だって、一番好きな旬センパイに断られたら、全然知らない人よりは、旬センパイほどではないにしろ、ある程度は好きな人としておきたいというか…」
「…大概失礼ですよね、なまえさんも」
「北斗さんとか類先生とか適任っぽいけど…まだそんなに仲良くないし…」
「やめなさい」
「じゃあ旬センパイは、私に知らない人といきなりキスしろって言うんですかー…」

段々涙目になってきたなまえに、呆れて頭を抱える旬。

「まだ具体的に、そういう仕事が来たわけじゃないんですよね?」
「それはそうですけど!いつくるかわからないじゃないですか!代役で今からしろ、なんて言われたら…断れません!旬センパイだって、いつそういう仕事が来るかわからないですよ!」
「それはそうかもしれませんが…その時は、仕事として、受け入れます」
「ええええ、なんでそっちはOKなんですか…!」
「仕事でしょう」

そうは言ったものの…
仕事でしろと言われても、自分にはきっと、すぐには受け入られない可能性の方が高い…という自覚はある。
むしろ、プロ意識という点では、なまえの方がよっぽど腹が据わっているかもしれない。
…が、それを言うとこの場がますますまとまらなくなるので、冷静なふりをしておくことにした。

「それはそうですけど〜…!!仕事で出来るなら、私としてくれたっていいじゃないですか!!そりゃあ、ビジネスじゃなくて、ちゃんとしてくれた方が嬉しいですけど…」
「それとこれとは話が全然違うでしょう」
「じゃあ、お金払ったらしてくれますか?」
「何を言ってるんですか、君は…」

そろそろ課題に戻りたいんですけど、と旬がこぼすと、なまえはハッ!と何かを思いついたようだった。
…きっとまたロクでもないことだろうけど、と旬は再びため息をついた。

「そうですよ!初めてが仕事だったら、無様な姿を人様に見せることになるかもしれないんですよ!だから練習しておきましょう、ね!」
「なんでそんなに食いついてくるんですか…」
「だって、初めては旬センパイがいいんですもん〜〜〜〜〜〜」

自分のよく言う言葉に絡めてまで食い下がり、駄々っ子のようにごねて、ついには実力行使とまでにくっついてきたなまえをひきはがす旬。
…というか冷静に考えてみれば、そもそも、プロデューサーが自分たちにそういう仕事を持ってくるとも思えない。

「もうこの話は終わりです」
「うぅ、旬センパイが冷たい…じゃあじゃあ!私が城南第一に受かったら、お願いします!!」
「はぁっ!?」
「いいじゃないですか、合格祝いということで!」
「本当に、意味が分からないんですけど…!」
「私は旬センパイが大好きってことですー!」
「はいはい…」

…きっと、なまえは無事に合格するのだろう。
その時どうするか、今から考えておかなくては…と、旬の悩みの種が、また1つ増えたのだった。




Main TOPへ

サイトTOPへ