俺たちのプロデューサー!



今日は315プロの新年会である。
ステージのある会場を貸し切り、立食形式のパーティーで行われていた。

「1人1ネタ披露ってことだったけど…プロデューサーさんたちもやるのかな?」

と、翔太がもぐもぐとからあげを頬張りながら言うと。

「プロデューサーならやるだろ。オッサンもやりそうだよな…お、このからあげ美味いな。スパイスが効いてる」

と、冬馬は返した。
冬馬は出されている料理のチェックも余念がない。

「プロデューサーは、少し前に席を外したみたいだね」
「……準備に入ったんだろうか…?」
「社長と賢もいないのぉー」

既にアイドルたちは、あらかたネタを披露し終わっている。
北斗は、プロデューサーの不在に少し前から気付いていたようだった。
一希と大吾もまわりを見回し、大吾は他にもいない人がいることを指摘した。
同じテーブルにいたJupiterとF-LAGSの面々がキョロキョロし出すと、会場の電気が消え、涼が声を上げた。

「わっ、電気が…!何か始まるのかな…?」

すると、315プロのメンバーには聞き慣れた音楽が流れてきた。
DRAMATIC STARSの『MOON NIGHTのせいにして』である。

「うおっ、なんだなんだ?」
「…僕は何も聞いていないが」
「もしかしてドッキリとかでしょうか!?」

当然のようにDRAMATIC STARSに視線が集まるが、本人たちも何も聞いておらず、3人がどうしたものかとワタワタしていると、バッ!!とステージにライトが当たった。
そしてそこには。

「番長さん!?」
「社長も…けんさんもいるじゃねーかッ!!」

そう神速一魂の2人が叫んだ通り、普段は315プロの裏方であるプロデューサーのなまえ、事務員である山村、そして社長である齋藤がステージに立っていた。

「今日は私たちがこの曲を奪わせてもらったぞぉっっ!!」

そう社長が叫んだところで、イントロが終わり…そこで、なまえはニヤリと笑い、歌い始めた。
もちろん、振り付きである。
普段見たことのないなまえの艶っぽいパフォーマンスに、一同が目を見張った。

「…プロデューサーさんの奏でる旋律…とても、心地いいな」
「プロデューサーさんに、こんな才能が…」

先ほどまでうとうととしていた圭が、目を丸くして見入り、隣にいた麗もステージに釘づけになるレベルの歌唱力を発揮するなまえ。

「あんなに踊れるとはな…まあ、ちゃんと踊ってるのはプロデューサーだけだが」
「社長は…あれ、正しい振りをする気、ないよねー」
「しかし、歌がとてもお上手です…!私も見習わなくては!」

Legendersの3人も、プロデューサーと社長のパフォーマンスに圧倒されていた。
その隣で見ていたFRAMEは、賢をハラハラとしながら見つめていた。

「賢は、頑張ってはいるが…まだまだ訓練が足りないようだな」
「うわっ、転びそう!」
「プロデューサーのレベルが高すぎるだろ…賢、頑張れ…!」

また、彩の3人は、興奮しつつも冷静にステージを見ていた。

「プロデューサーちゃんがセンター…きっと発起人だからなんだろうねェ」
「社長が柏木さんの立ち位置なのは…御三方の中で、一番身長がお高いからでしょうか?」
「けんけんクンは、メガネだから…かおるクンのポジションなんでにゃんすね!」


「あれ、そういえばみのりさんは…」

こんな時に一番騒ぎそうなのに、とさっきまで隣にいたみのりを恭二が探すと、ピエールがステージ前のセンターを指差し「みのり、あそこ!」と恭二に教えた。

「微動をだにせずスマホを構えてる…あれは間違いなく、動画撮ってるな…邪魔しないようにしよう…」
「みのり…しんけん、だね!」

そう言うと、恭二とピエールは頷き合った。
その隣では。

「プロデューサーちゃんとカラオケに行っても、女の子アイドルの歌ばっかで、うちの事務所の曲は歌ってくれなかったのにー!この日のためだったっすか!?」
「封印されし力が今、解き放たれているのかッ…!主の秘められし真の力が、斯様にも強いものだったとは…!」

不満げに四季が唇を尖らせ、アスランがなまえのパフォーマンスに興奮していた。

「このために衣装も作った…っちゅーことやんな、あれ」
「賢さんと社長のは、薫さんと翼さんのサイズと色違いって感じですよね。これのために作るなんてすごいなぁ!」
「プロデューサーさんの衣装は、輝さんのものをベースにアレンジしてるんだろうな」
「あの衣装、セクシーだし、カワイイーー!!あのロングブーツとホットパンツのバランスも、絶妙だよー!」

荘一郎が衣装に言及すると、巻緒、幸広が反応する。
そして、咲は目をキラキラとさせ、ステージ上のなまえに羨望の眼差しを送っていた。
一方で。

「あのホットパンツえっろいな…!!ヘソ出しまで…!」
「胸元もヤバすぎるよ…プロデューサー、あんな胸大きかったのか…」

と、思春期男子ならではの反応する、春名と隼人。
その2人にため息をつきながら、旬はその準備のよさに感心していた。
周囲の誰もが驚いていることから、誰にもバレていなかったのだろうことが伺える。
旬の発言に、夏来も頷いた。

「メイクもヘアメイクもばっちりですし…本当に誰も知らなかったんですよね?これ…」
「…プロデューサーさん、忙しいのに…俺たちに秘密で…あんなに準備と、練習してて…すごい…」


そして、もふもふえんの3人はステージ前、最前列で、プロデューサーのパフォーマンスに見とれていた。

「プロデューサーさん、かわいいし、かっこいい…!」
「す、すげー…!プロデューサー、かっけー…!!」
「ボ、ボクもプロデューサーさんみたいになりたい…!」

興奮しすぎて口がぽかんと開いてしまっている3人に気付き、なまえは歌いながら少し笑ってしまった。


「お、思わず見入ってたけど!享介、コールしようぜ!」
「そ、そうだな!」

はっと気付いたWの2人が、ステージに駆け寄り、普段客席から聞こえるようなコールを送ると、周りもそれに便乗する。
そのコールに気付いたプロデューサーは、嬉しそうにその集団にウィンクした。

「うわ…監督すっげーーー!!」
「監督…何者なの!?」

みなの興奮を煽りながら曲は進み、2番もサビに入ろうとするところで「もうすぐあれが来るぞ…!」と誰かが言い、そして。

「おいで」

「うっ」
「「「キャーーーーー!!!!」」」

なまえによる「おいで」に、DRAMATIC STARSのステージに負けず劣らずの歓声と、ごく一部による呻き声が上がった。

その状況に、恭二が改めてみのりの姿を確認しようとすると、近くにいた春名、四季、隼人も興味津々でみのりを見た。

「み、みのりさんは…うっ!」
「すごい、耐えてる…!でも表情がやばい!」
「今のみのりっちは、アイドルじゃないっす!完全にドルオタモードっすよ!!」
「ファンには絶対に見せられないやつだ…!」
「み、みのり、やばい?アイドルだめ?」

ピエールがどうしよう、と心配そうにみのりと恭二を交互に見るが、恭二はそっと手で制するしかできなかった。


そして間奏に入り、妖艶な笑みで会場を見渡すなまえ。
普段見せないなまえの表情に、アイドルの面々の視線は釘づけだ。

「今日はみんなのハートを奪わせてもらうよーーー!!!」

となまえが言えば。

「「「うぉぉぉぉおおお!!!!!」」」」と再び歓声があがった。

「これが、アイドルの力か…!」
「俺…プロデューサーちゃんになら抱かれてもいいな…!」
「ちょっ、るい…気持ちはわからないでもないけど…」

若者たちの反応に、道夫も食い入るようにステージを見る。
紅潮した顔で類がこぼすと、次郎が未成年もいるんだからね?と釘を刺した。



――そして、最後のコールはほとんどのメンバーが参加し…会場を熱狂の渦に巻き込んだまま、なまえたちの出し物は終わった。
歌い終わると「はーーー楽しかった!!!」と言い、はにかんだように笑うなまえ。
そのなまえを、アイドルたちが興奮おさまらず、といった様子で囲んだ。

「素晴らしいパフォーマンスだった…この曲をカバーさせてもらう者として、プロデューサーのパフォーマンスに負けないものを、ファンや若者に届けることを約束しよう」
「えー、本気ですか、はざまさん…相当ハイレベルだった気がするんですけど…」
「ふふ、みなさんは本業アイドルでしょう?頑張ってくださいね♪」
「Of course!!任せてよ!プロデューサーちゃんのことも、メロメロにしちゃうよ!」

とS.E.Mは次の仕事への決意を込めて言った。
次にTHE虎牙道がなまえに話しかけた。

「すごかった…俺たちのプロデューサーは、こんなにすごい人だったんだな」
「自分たちも、師匠に負けてらんないッス!!」
「フン、あのくらいオレ様なら楽勝だっつーの!」

わかり辛いものの、興奮した様子のタケルと、尊敬度が増した!と言わんばかりの道流。
漣は相変わらずの態度だったが、なまえのパフォーマンス中、がつがつと食べていた手を止め、目を丸くしてステージに見入っていたことを、周りは知っていた。

そして持ち歌である『MOON NIGHTのせいにして』を奪われた、DRAMATIC STARSの面々がやってきた。
彼らを見て、いたずらっ子のような顔をして、笑うなまえ。

「えへへ、すいません、歌わせてもらっちゃいました」
「いや…俺たちはすげー曲を歌わせてもらってたんだな、って改めて思ったよ」
「自分たちの曲を、客観的に見ることができた…山村君のパフォーマンスには、苦言を呈したいがな」
「あはは、すみません…」
「まあまあ、薫さん…良いもの見せてもらいましたし」

自分のポジションに居た山村のクオリティがどうにも気になる薫を、翼が宥める。

「しかし、あれほどのパフォーマンスが出来るのであれば、DRAMATIC STARSのセンターは君の方がいいんじゃないか」
「おい!でも俺も、一瞬考えちまったけどよ!!」
「あははっ、それもちょっと面白いかもしれませんね」
「翼まで言うのかよ!」

他のメンバーも口々にプロデューサーたちを讃え…
そして、最後に…恭二とピエールに脇を支えられながら、みのりがなまえの前にやってきた。

「み、みのりさん!?大丈夫ですか…!?」
「大丈夫じゃない、全然大丈夫じゃないよ…!!なんで言っておいてくれなかったの!?言っておいてくれれば、もっといいカメラを用意したのに…!でもありがとう、最高だったよ…!!!」

その後、みのりによる熱い語りが続き…
「アンコールお願いしてもいいかな!?」と前のめりにみのりが言うと、DRAMATIC STARSの3人となまえという変則的なユニットで、アンコールが行なわれることになり。
みのりは、恭二にスマホを託し録画を頼むと、今度は全力でコールに参加したのだった。



この日のパフォーマンスは、よくも悪くも315プロダクションに大きな爪痕を残した。
アイドルたちのプロデューサーへの信頼度は格段にあがり、また負けず嫌いな面々に火をつけ、315プロのレベルはまたランクアップしたのであった――




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