とある日。
打ち合わせが終わり、スマホを開いたプロデューサーは、それまでのしゃっきりとした仕事姿から一変して、肩を落として大きなため息をついた。
そんな姿は珍しいので、その場にいたF-LAGSのメンバーは心配そうに顔を見合わせた。
「…何か、あったのか?」
「うぅぅ…みんなぁぁ助けてぇぇ〜〜〜!!」
「ど、どうしたんじゃ、ボス?」
「お、落ち着いてくださいー!」
プロデューサーは3人に泣きつくと、ぽつぽつと話し出した。
「実はね…」
かくかくしかじか。
プロデューサーは『親からお見合いを強制されており、そのお見合いが今週末に迫っていること』を3人に説明した。
「――というわけで大ピンチなの…!」
「なるほどのぉ…」
「どうしたら逃げられるかな…!」
どうやらプロデューサーは、如何に逃げるかで頭がいっぱいなようだった。
その様子を見た涼が真面目な表情で
「じゃあ今から『プロデューサーさんがお見合いに行かなくていいようにするにはどうしたらいいか』会議、ですね!」
と宣言すると、他の2人も頷いた。
「ありがとう…!」
そして早速『プロデューサーのお見合い対策会議』がはじまった。
「…逃げる、と言っていたが…そもそも、断れないのか?」
「散々断ってたんだけど、聞き入れてもらえなくて…もう今週の日曜日なんだよぉ…」
「うーん…あ!結婚式だと、花嫁さんをさらいに現れる男の人がいたりしますよね!ああいうの、カッコイイですよね!」
キラキラと目を輝かせる涼。
「私のこと、さらいに来てくれるー…?」
「おー、それなら、舎弟たちに手伝ってもらうけぇ…」
「…それは大事(おおごと)になりそうな気がするから、やめておいた方がいい」
「そうかー…」
大吾の申し出は有難いが、確かに通報されそうな図しか想像できない…とプロデューサーは乾いた笑いを浮かべた。
「そうじゃのぉ…実は隠し子がいて…とか、どうじゃ?」
「…かのんくんに頼んだらいいのかな…」
「…その後が大変になるんじゃないのか?」
「だよねぇ…」
それにあんなに小さい子を、こんなことに巻き込むわけにもいかないもんね…、とプロデューサーは再び肩を落とす。
「うーん…実は、女の人が好きで、男性と結婚はできない、っていうのはどうでしょう?」
「…涼くん、女装してくれる?」
「ぎゃおおおおん!ぼ、僕ですか!?…ううう…で、でも、プロデューサーさんのためなら…!」
一瞬悩んだが、涼はぐっと拳を握った。
それを見て、一希が首を振る。
「…ウソはよくないと思う…彼氏を紹介すれば、納得してもらえるんじゃないか?」
「いると思う!?」
「……すまない」
提案に食い気味に反応するプロデューサーに、反射的に一希は謝った。
しかし、大吾がその案に乗っかった。
「いや、今からでも作ればセーフじゃ!」
「なるほど、その手が!」
「というわけで、ワシはどうじゃ?」
そう言ってにかっと笑う大吾に、申し訳なさそうにプロデューサーは告げた。
「…ご、ごめん、大吾くんや涼くんは、年齢的に両親に紹介したら冗談はやめろって怒られるだけだと思う…」
「そうじゃのぉ…悔しいが、先生!ボスのために一肌脱いでくれ!」
ぱん!と手を合わせて、一希に頼む大吾。
しかしそれに、意味深に一希は返した。
「…いいのか?」
その返事には、大吾だけではなく、涼への問いかけも含まれているようで。
大吾と涼は顔をあわせると
「やっぱりダメじゃ!」
「ダメですー!」
と、声を揃えた。
プロデューサーは、そんな3人のやりとりに疑問符を浮かべ、そして打開策が見つからないことにうなだれた。
「…ここまできたら、会うだけ会って、普通に断るのが一番いいんじゃないのか」
「わあ、なんてまっとうな回答!」
「そうじゃ!ボス、腹くくるんじゃ!」
「頑張ってきてください!応援してますから!!」
そうして3人に背中を押されたプロデューサーは、ついに覚悟を決め、お見合いという戦場へ赴く決意を固めたのだった――