深夜の癒し



つっかれたぁぁ!!!!
今週は怒涛の一週間だった…
担当アイドルのライブの準備が佳境なことや、色々な資料提出などが重なって、あまり記憶がない…
でも、好きでやっている仕事だし、やりがいもあることだから、普段なら乗り切れないことではないのだけれど。
さっきまで参加していた飲み会に、精神的にやられた。

お世話になった人から業界の交流会がある…なんて誘われたから、顔を売りに行かなければ、と疲れた体に鞭打って行ったけど、ただのマウンティング大会だった。
…うちは小さな事務所だけど、所属してるアイドルはみんなすっごいんだから…!
それに加え、オッサンたちは下ネタ全開で…早く記憶から消したい。

参加人数が多かったこともあって、途中で抜け出せたのが不幸中の幸いかな…
顔は出したから義理は果たしたはずだ。
目的は果たせなかったけれど!

…そんな感じでトドメを刺され、疲れがMAX振り切った…うぅ。
癒されたい…でももうこんな時間だからなぁ……あっ、そうだ!
いいことを思いついて、時計を見る。
これなら間に合うかな?

癒しを求めて、私はある場所へ向かった――



目的地の扉をガラガラと扉を開けると「らっしゃーい…あ、師匠!」と、元気な声が私を出迎えてくれた。

「こんばんはー…ごめん、遅い時間に。まだ大丈夫?」
「もちろんッス!」

私が来たのは男道らーめん!
閉店が近いためか、お店には道流だけだった。
タケルと漣がいないと静かだなぁ…まぁこんな時間だしね。

そんな時間にラーメンとか超ギルティなのはわかってるけれど、今日は心の平穏を取り戻すために許して欲しい。
……誰に許しを乞うているのかは知らないけど。

くだらないことを考えながらカウンターに座り、道流にラーメンを注文すると、これまた元気に笑って「はいッス!」と注文を受けてくれた。
これだけでも癒されるわ。

「…師匠はこんな時間までお仕事ッスか?」
水を出してくれた道流は、そのまま流れるように作業をこなしながら話す。
「そうーって言っても飲み会だったんだけどね。それに、仕事なのは道流も同じじゃない?」
「はは、確かにそうッスね!」

コップの水を飲みながら、道流の動きを眺める。
いつも思うけど、ほんと器用だなぁ。
その上、今日は朝から夕方までみっちりレッスンが入ってたのに…体力もあるよなぁ。
器用さも体力も、私に分けて欲しいくらいだよ。


そして雑談をしつつ待っていると、10分ほどで注文したラーメンが出てきた。

「お待たせしました、ラーメンッス!」
「わーい、待ってました!…ってあれ?いつものラーメンじゃないよね、これ」
普通のラーメン頼んだつもりだったんだけど…間違えたっけ?

「師匠、お疲れみたいなんで、師匠専用の特製ラーメンッス!これを食べて、リキつけてほしいッス!」
「あはは、わかっちゃうかー。今週、色々重なっちゃって忙しかったんだよねー!さっきの飲み会も偉い人がいっぱいいて、気疲れしちゃってさー」
「そういう場って、気を遣うッスよね…お疲れさまッス」
「ありがとーーー」

相手は担当アイドルだ、弱音もあくまで、さらっとぼやっと伝えるのみ!
セクハラの嵐でした、とは言いづらいし、ね。
それにしても…同じ男性でも、道流だけじゃなく、315プロの男性陣はいい人ばっかりだよね…雲泥の差だよ…

「それでは、いただきます!」
…あー濃いめのスープが沁みわたる…いつもより濃いめかな?疲れた身体にちょうどいい塩分だ。
さらにトッピングには、私の好きな海苔とチャーシューがマシマシで乗ってる。
まさに私向けの特製ラーメンだ。さすが道流。

「にんにくを普段よりキツめにしてあるんで、食べ終わったらこれもどうぞ。りんごの皮がにんにくの臭いをおさえてくれるんスよ!」
しばらく黙々と食べ進めてた私にそう言って出してくれたのは、うさちゃんりんご。
なんて気遣いなの…!
私も見習わないとなぁ…

「…それと、よかったらこれもどうぞ。もちろんサービスッスよ!」
道流の気遣いコンボはまだ続いていた!
出てきたのは、手作りプリン…!
やばい、嬉しい。何この幸せのコンボ。
…この心遣いの前に、カロリーは気にしたら野暮だよね!

「道流はいい奥さんになるね…!」
「お、奥さんッスか!?」
「うん、胃袋がっちり掴んだ上に、こんな気遣いしてもらったら、どんな人でも落ちるでしょー」

「…師匠は、落ちてくれないっすか?」
ブロォオオオオオオオオ!!!!
道流の言葉と同時に、爆音を立てて改造バイクらしきものが走り去っていった。
なんか、すごい言葉が聞こえたような気がするんだけど…
き、気のせい?

「ご、ごめん、なんて?」
「あ、いや…その、えーと……せ、せめて、いい旦那さんがいいなあ、と!」
「そ、そっか、そうだよね!ごめんごめん。主夫も似合うと思うよ!道流は家事も完璧っぽいもんなー!」

ははは、と笑い合ったけど、なんとなく話し続けづらくて、私は目の前のラーメンとデザートに集中することにした。
…うん、おいしい。

×××

「ふーお腹いっぱい!ごちそうさまでした!!おいしかったよ!いつもおいしいけど、今日はカクベツ!色々ありがとうね」
「いつもお世話になってる師匠に、自分ができるのはこれくらいッスから!」
「おかげさまで癒されました!」
「それならよかったッス!…あの、師匠はこのまま帰るッスよね?」
「うん」
「家まで送っていくッスよ!店を閉めるまで、ちょっと待ってもらうことになるッスけど」
「え!いいよいいよ、まだ電車あるし!道流も疲れてるでしょ?」
「店に来てもらっておいて、こんな時間に女性を一人で帰せないッスよ!急いで片付けるんで、待っててください!」

…さらっと女性とか言うんだからなー…参っちゃうわー。
あまり固辞するのも気が引けるし、お言葉に甘えてしまおうかな…

「じゃあ、お願いしようかな…でもただ待ってるのも申し訳ないし、手伝えることあればやるからね!」
「はい!ありがとうございます!」

×××

「お待たせしました!帰りましょう!」
「お疲れさまー」

お店の片付けを終わらせた道流と、話しながら帰る。
送ってくれるって言うから、てっきり駅までかと思ったのに、なんと家まで送ってくれるそうだ。
どんどん遅くなっちゃうし、さすがにそれは、と断ったけど「ダメッス!」と押し切られてしまった。

なんだよー!
癒されに行ったのは事実だけど、こんなに優しくされると戸惑うぞー!!
我ながら自分勝手な戸惑いだ。
…そんなに疲れてるように見えたのかな。だとしたら、修業が足りないなぁ…
担当アイドルに心配かけてちゃ、プロデューサー失格だ。

…けれど。

「そうそう、次のライブなんだけど、やりたいって言ってた演出、出来そうだよ!」
「ほんとッスか!?」
「今最終調整中だけど、ほぼほぼ大丈夫だって!」
「よっしゃ!ありがとうございます、師匠!」
「いえいえ。また何かいい案思い付いたら教えてね」

そんな会話をしながら帰る帰り道は、いつもよりずっと楽しかった。
仕事の話をしてるはずなのに、まるで学生の頃みたい。
今週の疲れも、吹き飛んだ感じがする。


明日からもまた頑張るぞー!
………今日摂取したカロリー消費も、ね…!




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