お見合い狂想曲〜THE 虎牙道編〜



仕事を終えた、とある夜。
いつものようにTHE 虎牙道とその担当プロデューサーは、男道らーめんに集まっていた。
他の客がいないので、ラーメンを食べた後、それぞれマイペースに過ごしていると、道流が何かを思い出したように「あ」と口を開いた。

「そうだ、師匠、次の土曜日は空いてます?よければみんなで、次の仕事の参考に、映画を観に行けたらと思ってるんスけど」
「土曜日?あー…ごめん、その日は無理だわ。お見合い入ってる」

「え?」
「ハァ?」
「へ?」

反応は三者三様だが、タイミングが同時で、それが少し可笑しい。
プロデューサーは小さく笑いを噛み殺し、話を続けた。

「この間仕事一緒にした社長さんにね、どうしてもお見合いをしてほしい人がいる、会ってくれるだけでいいからって拝み倒されて…まぁ、人生経験として1回くらいしてみるのも面白いかなーって」
「そ、それは…なんというか、師匠らしい、っスね」

面白そうじゃない?と軽いノリのプロデューサーに、道流は苦笑する。

「見合いだァ?…果し合いみたいなもんか」
「違うだろ…」
「んだとコラ」
「はいはいストップ。お見合いって言うのは、結婚したい人同士が顔あわせて、結婚できる相手か見極めるため、色々お話するやつよ。今回の場合は、私に結婚の意思はないけど」
「…いいのか?それで」
「こっちにはそんな気はないけど大丈夫か。って聞いたらOKって言われたから、へーきへーき」

そう言ってへらりと笑うプロデューサーに、3人はそれ以上その話をすることができなかった。



――そして、プロデューサーのお見合い当日。
なんとなく、映画を観に行くのは延期になったため、男道らーめんは通常営業中だった。

「うっす」
「おお、タケル。いらっしゃい」
「ゲ、なんでチビが来んだよ」
「俺の勝手だろ」

図らずも、THE 虎牙道の3人が男道らーめんに揃った。
よくある光景ではあるものの、いつもとはなんとなく空気が違う。

出されたラーメンを食べ終わっても、タケルも漣も、口数少なくその場に残っていた。

(2人とも、なんだかんだいって、師匠が気になるんだな…自分もだけど)

THE 虎牙道にしては、珍しい雰囲気が漂う。
そして、そのまま時間は過ぎ、食事としては微妙な時間帯に…その空気を打ち壊す声が店に響いた。

「こんにちは〜〜…もうこんばんは、かな?」
「師匠!!」
「アァ?」
「…うっす」

いつもと変わらぬ調子でのれんをくぐってきたプロデューサーだったが、いつもとは違うその場の空気に首をかしげた。

「みんな揃ってる…って、何この空気」

いつもとは違ったのはその場の空気だけではなく、プロデューサーの格好もだった。
珍しいものを見る3人の視線に気づいたプロデューサーは苦笑した。

「あー…いつもパンツスーツだもんね。久しぶりにスカート履いたけど、すーすーして落ち着かないよ」
「ハッ、オマエにンなヒラヒラした服、似合わねーっての」
「れーんー?思っても言わないのが大人ってもんだぞーー??」
「なにしやがるテメエ!」

顔は笑いながら目が笑っていないプロデューサーが漣の頬を引っ張る。
その様子に、少しホッとする道流。

「師匠、なんか食べます?」
「あ、ごめんね、注文してなかったね!えーっと…愛増ラーメンお願いします!」
「了解ッス!」

道流は笑顔で返事を返すと、早速作業にとりかかった。

「はー疲れた!」
「…見合いって、大変なのか?」
「そうだねぇ…相手にもよるんだろうけど…今日会った人、自分からぜーんぜん喋んなくってさー…あれこれ話しかけたけど、だいたい返事が一言で終わっちゃうし、ありゃダメだわー」

私は仕事柄、初対面の人とも話すし、色んな職業や年齢の人ともかかわるから頑張ってみたけど、普通の女子だったら、途中で帰られてもおかしくないような人だったの、とプロデューサーは息をつく。

「初対面の人と話すための実験台にされた気分…そんなだったから、無駄に疲れたかも。会うだけでいいって話だったから、その場で断ってきたよ。しかしお見合いって、あんなに気を遣うもんなんだね!1回すれば十分だわ!」

そう言って笑うプロデューサーの姿に、3人ともひっそりと胸を撫で下ろした。
…2人は、無自覚だったかもしれないが。

「おいらーめん屋!オレ様にもらーめんだ!」
「俺も、頼む」
「あれ、2人とも食べてなかったの??」
「はは、安心したら腹減った、ってやつッスよ!な、2人とも!ちょっと待っててくれよ!」

その後ラーメンが出されると、タケルと漣はいつものように競いながら食べだした。
その様子を、仕方ないなぁという風に優しく見守る道流。
男道らーめんに、いつもの空気が戻っていく。

(…私にはうるさいくらいが、ちょうどいいや。私の居場所はここだもん)

心の中で呟いて笑い、プロデューサーは最後に残しておいた卵をほおばった。




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