自分らしい言葉で



「ただいま〜〜〜」

我が家の扉を開き、部屋に入れば外の冷たい空気ともおさらばだ。
はぁ、今日も疲れたー。
でも今日は、私より早く恋人である誠司さんが帰ってきていたので、鍵も開けてもらえたし、何より部屋があったかい。ありがたい。

「お、おかえり…」
「…んん?どうかしました?」

出迎えてくれた誠司さんが、なんだか挙動不審だ。
いつもまっすぐ目が合わせて出迎えてくれるのに…今日は視線がふわふわと彷徨っている。

「い、いや…なんでもないんだ」
「気になるじゃないですかー」

コートを脱いで、重い荷物を下ろして、手洗いうがい。
ジャケットを脱いで、愛用の半纏を着れば、仕事モードは完全にオフ。
今日もお疲れ様でした、私!

…で、誠司さんに詰め寄ると、視線を合わせないまま、歯切れ悪く返された。

「……その、だな。新曲の試聴が、はじまって、だな…」
「えっ、そうだったんですか!?」

いつもFRAMEの情報はまめにチェックしてるのに、今日に限って…!
…今日は仕事忙しくて、帰りの電車でSNSをチェックする気力もなかったからなぁ…うぅ。

「ごめんなさい、まだ聞いてないです!すぐチェックしなきゃ!!」

と私が返すと、「しまった」という顔をする誠司さん。
…ははーん。私に聞いて欲しくないわけですね?
そこでやめる私ではないですよ!

「では早速…」
「じ、自分の前で聞くのはやめてくれ!!」
「えー、いつかファンの前でも歌うんじゃないんですかー?」
「それはそうかもしれないが…!」

この誠司さんの狼狽えっぷり…そんなの、余計に聞きたくなるに決まってるじゃないか!
大きな釣り針にしか思えませんよ!!

「じゃあ、誠司さんはお風呂にでも入ってきてくださいよー。その間に聞きます!」
「うっ…」
「ほら早く〜じゃないと、目の前で聞きながら感想を実況しますよ!」
「ぐっ…わかった…」

誠司さんは観念したように、お風呂に入りに行った。
誠司さんがあんな風になるということは…まあ、間違いなくラブソングでしょうね!

さてさて、スマホを開いて、SNSをチェック。
えーっと…あ、あったあった。これね。
ぽちぽちと進めていけば、試聴の動画が見つかった。
早速、再生ボタンを押す。
FRAMEが1曲目なんだね…お、はじまった。

……

…………

………………

なっ…ななななな!!!!なにコレーー!!!???
めっちゃ大人なラブソングじゃないですかーーーー!?
いやもうなんていうか、ラブっていうか、愛のスケールが大きい感じ!!?

…も、もう1回FRAMEをお願いします!!!
シークバーを最初に戻して、2回目突入。
ひゃ、ひゃああ………



……ダメだ、FRAMEばっかりリピートしちゃう!
他のユニットさんのは、後でゆっくり聞かせていただきますので、今は誠司さんのところを堪能させてください…!

うわーーなんでフルで聞けないの!?
早くフルで聞きたいんですけどーーー!!!
誠司さん、歌ってくれたりしないかな!?

というか、誠司さんだけじゃなくて、握野さんも、木村さんも、いつもの雰囲気からは想像できない…!
この歌を歌うことになった時の3人の反応を、目の前で見てみたかった…!



私が、何回目かわからない悶絶をしていると、誠司さんがお風呂から出てきた。
そして、おそるおそる、と言った感じで私に聞いてきた。

「…ど、どうだった…?」
「めっっっっちゃくちゃカッコイイです!!カッコよすぎてヤバイ!!!サビの『当たり前に君の世界の一部になりたいんだ』ってとこ、めっちゃ好きです!!歌詞がたまんない!!」

興奮のままに、誠司さんに畳みかけるように感想を伝える。

「作詞家さんってすごいですね……!!私もそんな風に言われてみたーーい!!」

この感謝をお伝えするには、どこに振り込めばいいんですかね!?
誠司さんたちのプロデューサーさんも、FRAMEにこんな歌を歌わせてくださってありがとうございます…!

「………実はそれ、自分の言葉なんだ」
「…えっ!?」
「あ、いや、正確には、自分が話したものを、作詞家の人が綺麗にまとめてくれたものなんだが…」

誠司さんは赤くなって、頬をかきながら教えてくれた。

「今回、曲作りの段階で、FRAME全員と作詞家さんで打ち合わせがあって…その時に、その…あれだ……れ、恋愛観を、聞かれてな…自分たちでは上手く言葉にすることができなかったんだが、とても聞き上手な人でな…話したことをまとめてもらった言葉なんだ」
「なるほど…そういう風に曲を作ったりするんですね」

誠司さんとお付き合いさせてもらってるものの、一般人の私には未知の世界だから、興味深い話だ。
FRAMEの3人が作詞してるわけじゃないことはわかってたけど、本人たちの曲になるように、取材的なことをした上で作ってるってことなのねー。

「もちろん、自分だけの言葉ではなくて、英雄や龍の言葉も入っているが…」
「この部分は、誠司さんの恋愛観が、多大に反映されている、と」
「…あ、ああ」
「ということは、誠司さんは私に対して、そう思ってくれてる、ってコトですか?」

誠司さんの顔を覗き込んでそう言うと、誠司さんはさらに顔を真っ赤にして、頷いてくれた。

「そ…そういうことに、なる…な」
「…えへへへへへへ」

やばい。やばいやばい。
顔がニヤけて、気持ち悪い笑いしか出てこないけど!!
誠司さんが、そんな風に思ってくれてるなんて!

「ばっちり!なってますよ!!私はもう誠司さんのいない世界なんて、考えられませんから!!誠司さんなしでは生きていけません!!」

私はそう言いながら、ぎゅっと誠司さんに抱きついた。
もしかしたら、誠司さんのソロパートにも、誠司さんの恋愛観が詰まってるのかな!?
やだ、早くフルで聞きたい…!!
あ、あとできたら…

「ね、誠司さんの口から、直接聞きたいです」
「へっ!?」
「打ち合わせの時には、なんて言ったんですか?まとまってなくていいから、誠司さんの言葉で、聞かせてほしいです」
「そ、それは…」
「ね…お願いします」

誠司さんは、私の“お願い”に弱い。
上目遣いでじぃっと見つめれば、赤くなってあちこちに視線を彷徨わせたあと、覚悟を決めた、という感じで話してくれた。

歌詞にもあったように、饒舌ではない誠司さん。
それを不満に思うことはないけど、こんな話を聞いてしまったら、ねだらずにはいられなかった。

そして。
誠司さん自身の言葉で紡がれた気持ちは、綺麗にまとまっていないかもしれないけど…
歌詞にも劣らない、素敵な言葉たちだった。
…言わせておいて、私も照れてしまったけれど。

「…やっぱり言葉で伝えてもらえるって、いいですね」
「……善処、しよう」
「はいっ、ぜひお願いします!私も語彙力ないですけど…いっぱい、言葉に出して伝えますね。誠司さんが大好きだって!!」
「っ…なまえには敵わないな…」

これ以上ないくらい真っ赤になった誠司さんは、困ったように笑いながら私を抱きしめ返してくれた。

…はぁ…幸せだなぁ。
CD、予約しなきゃ…!!




『Swing Your Leaves』より引用




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