今日は恋人であるなまえと、久しぶりのデートだ。
と言っても、なまえの仕事終わりを待っての、夜デートだけどな…
会いたい気持ちが気を逸らせて、待ち合わせ時間よりだいぶ早く待ち合わせのカフェに着いてしまった。
…あの新曲の公開日に、歌と同じ状況になるなんて、運命的だよなぁ…なんて感慨にふけってしまう。
なまえを待つのは、嫌いじゃない。
というか、なまえは時間にルーズなわけではないので、つい約束よりも早く着すぎてしまう自分のせいで、待っていることが多いだけだ。
カレンダー通りに仕事が休みのなまえと、土日にイベントが多いアイドルである俺の休みは、なかなか合わない。
それに最近はお互い忙しくて…今日だって、なまえの仕事が終わってからで、しかも明日もお互い仕事があるから、あまり長い時間は一緒に居られない。
いっそ、一緒に暮らしてしまえば…とも思うが、生活サイクルが合わないから、それはそれで気を遣わせてしまうだろうし。
だからこそ、少しでも一緒に居られる時間を大事にしたくて…少しでも、長く一緒に居たくて。
その気持ちのせいでこうしていつも、約束の時間よりもだいぶ前に来てしまうのだった。
なまえと出会って、付き合いはじめて…だいぶ経つ。
それでも、飽きることなんてなくて…
アイドルを始めて、どんどん世界が広がっていく感じがしてるが、なまえと過ごしている時も同じだ。
それぞれ別の視点で、世界が広がっていく。
なまえと居ると…なんていうか、身近な世界に違う見方が生まれていって…大事なものが増えていく感じがするんだよな。
そんな風にとりとめなくなまえのことを考えていると、待ち合わせ時間の少し前に、スマホが震えた。
なまえからのメッセージだ。
『今駅着いたよ!もうちょっとだけ待っててね!』
なまえらしい、可愛いキャラクターが急いでいるスタンプ付きだ。
思わず笑って『ゆっくりでいいからな。転ぶなよ』と返すと、俺は席を立って、カフェの外に出た。
「英雄くん!」
「よっ、なまえ。仕事お疲れ」
「ありがとう…ていうか、中で待っててよかったのに!寒いでしょ?」
「少しでも早くなまえの顔が見たくてさ」
「…う…でもアイドルが風邪ひいたら困るよ」
「大丈夫だって。さ、行こうぜ」
俺の言葉に照れて少し顔を赤くしたなまえの手を引いて、俺は歩き出した。
そして、予約しておいたレストランに入る。
ここは個室があってゆっくり過ごせるから、俺もなまえもお気に入りの場所だった。
「改めて、仕事お疲れ」
「英雄くんもお疲れさま。時間作ってくれてありがとう」
そっとお互いを労って乾杯をして、料理を食べながら、他愛ない話をする。
この穏やかな時間が好きだ。
「あ、そうそう。英雄くんたちの新曲聞いたよ」
「もう聞いてくれたのか?今日の昼に試聴が出たばっかりなのに」
「FRAMEの情報は逐一チェックしてますから!うちの職場、音楽聞きながら作業しても大丈夫だしね。新曲、FRAMEには初めての方向性だよね…聞きながら、ニヤニヤしちゃってやばかったよぉ〜〜。マスクしててよかったー!」
…面と向かって言われると、照れるな。
なまえは、こうしてアイドルの仕事も受け入れて、応援してくれて、時に厳しい指摘もしてくれる。
そんななまえが褒めてくれるなら、一安心だぜ。
「英雄くんにあんな風に想われる人は、幸せ者だね」
「…は?いや…お前、俺の何なの…?」
「何…って…彼女、のつもりだけど」
「だったら、お前に決まってるだろ!」
「はっ!!…そ、そっか、わ、私なんだね…!」
普段はしっかりしているなまえだが、たまにとんでもないボケをかます。
それが今発動されたらしい…なまえは耳まで真っ赤になって、顔を覆っていた。
…可愛いヤツ。
面白さと愛しさで頬が緩んで、ふはっ、と息を吐き出すと、なまえはやや涙目になって睨んできた。
迫力ないけどな。
笑ったのは別に、馬鹿にしてるわけじゃないぞ?
「あの歌、さ」
「…うん」
「まさか俺たちに、ラブソングがくるなんて思ってなくて…最初はガチガチで歌えなくて、何度もリテイク出されて…行き詰ったんだよ」
あの時の俺たちは、ほんとひどい状態だったと思う。
今だから笑って話せるけどな。
「そしたら、プロデューサーから『大事な人を思い浮かべて、その人に向かって歌ってみて』ってアドバイスもらってさ。それで、なまえのこと想いながら歌ったら…それまでのが嘘みたいに、一発でOKもらえたんだ」
「そ、そう、なんだ…」
「だから、お礼が言いたくてさ。ありがとな」
「私、何もしてないのに」
謙遜するように首を振るなまえに、俺は笑いかけた。
「なまえが俺の恋人で居てくれてることも、こうして時間を作ってくれることも…全部が、俺の力になってるから、何もしてないなんてことねーぞ。俺はなまえがいなくちゃダメなんだ」
「そんなこと言ったら…私だってそうだよ。いつも、ありがとう」
「へへ、そっか…俺たち、両想いだな」
「ずっと前からそう…でしょ?」
「…そうだな」
食事が終わって、飲み物だけになったテーブルの上で手を繋ぐ。
この距離すら、もどかしくなってる。
…ダメだな、明日も早いのに。
なまえと離れたくない。
そう思っていたら、なまえが口を開いた。
「英雄くん、明日も早いんだよね…?」
「え…ああ。そうなんだよな…」
「…ご飯だけで帰りたくない…って言ったら、ダメ…かな?」
頬を赤らめながら、おそるおそると言った感じで想いを伝えてれるなまえ。
…どこまで俺たち、両想いなんだろうな。
嬉しさで自然と笑顔がこぼれる。
きっと…今の俺は最高の笑顔が出来てると思うぜ。
「ダメなわけないだろ?…俺も、そう思ってたし」
「ほんと…?」
「ああ。なまえの家、泊まってもいいか?」
頬を染めてこくりと頷くなまえも、最高の笑顔だった。
二人で同じ場所に帰って、ゆっくり過ごそう。
離れていても、俺たちの気持ちは同じだけど…一緒にいられる方が、もっと幸せだからな。
こんな時間を大事にしたいし、これからも積み重ねていきたい。
そう思ってなまえの手をぎゅっと握ると、なまえも握り返してくれた。
ずっとこうして過ごせるように…これからも、頑張らなきゃな…!