『遅くなってすみません!』


お洒落なカフェには見合わない大きな袋を2つ肩に掛けて、慌てた様子でやってきた名字さん。
急いで来てくれたのかほんのり赤い頬に、少しばかり罪悪感を感じる。


北「忙しいのに無理言って時間作ってもらっちゃってすみません」
『あ、そんなそんな!むしろ松村さんも仕事の合間なのにこっちまで来ていただいてしまって、』
北「いや、それは全然。次の仕事まで結構時間ありますし。」


お互いペコペコと頭を下げ合って、日本人ぽいなぁなんてどうでもいいことを思った。


北「名字さん、お昼食べました?」
『さっきの撮影の時にお菓子があって、それを。』
北「いや、それお昼って言います?」
『あはは。この仕事してると不規則なんでご飯食べるタイミングなんか難しいんですよね。』
北「じゃあ、今食べてください。ここのパスタうまいですよ。」


じゃあ、とメニューに目を落とす名字さん。
睫毛、長いな。ナチュラルなメイクが、彼女の顔立ちの良さをより際立たせている。
文字を辿るその指は綺麗に彩られていて、忙しい仕事なのに指先まで抜かりのない美意識に感心した。


『おいしー!』
北「でしょ?俺もここの大好きなんですよね。」
『私、ここお茶するのでしか使ってなかったなぁ。おいしい情報ありがとうございます。』


他愛もない話をしながら、名字さんは無事パスタを完食。
そこで、ようやく本題に。


『あ、これ。探されてた物のとは違うんですけど、よかったら、』
「うわー!ありがとうございます。めちゃくちゃ嬉しい」


受け取ったTシャツを広げて、まじまじと眺める。
Tシャツ自体も嬉しいが、名字さんが俺を思い出して見つけてくれたことが何よりも嬉しくて、口元がつい緩む。


「あ、これいくらでした?お金返します。」
『え?あ、大丈夫です!私が勝手に買ってきただけなんで、』
「いや、でも、俺が頼んでたわけだし、それはダメですよ」
『一緒にお仕事させていただく記念にって感じで!』


なかなか折れてくれない名字さん。
このままでは男としていかがなものかと思い、賭けに出る。


「そしたら、また今度食事とか…どうでしょうか。
お礼させてください。」


きょとんとする名字さんと、少しの沈黙。
いきなり積極的すぎたか、引かれてしまったか、なんてぐるぐると余計な考えが頭を巡る。


『私、結構大食いなんで、覚悟しといてくださいね』


予想外の返事と悪戯っぽく笑ったその顔に、胸がキュンと高鳴り思わず声が出そうになったのをぐっと堪えた。