高校を無事に卒業した私は、あの冷えきった家から逃げ出した。

アルバイトで稼いだお金で電車をいくらも乗り継ぎ、
家があった土地から遠く離れた、横浜に辿り着いた。
心が早くに大人になってしまった私は、
やりたいことをこの大都会でなら、
見つけられるんじゃないか、なんて浅はかな事を夢見ていた。

美しいものも、目を塞ぎたくなる程に汚いものもたくさん見た、

この大きな街には、飽和した幸せと不幸が入り交じっていた。

私は、小さな喫茶店に勤め、生活は苦しいながらも、小さなアパートで一人暮らしをしていた。

この平穏がずっと続けば、それでいい、そう思っていた。
終わりは突然だった、ある日届いた手紙を読んで、
母が亡くなった事を知ったことより、
触れた手紙から、あの父の手紙を書いている映像が流れてきている今に呆然とした。

それからは早かった、無機物有機物関係無く、素手で触れればもの物質の記憶が頭に流れ込んで来るのだ。

頭は、母が死んだ理由すらも理解していた。
雨が降っている、家のドアを開ける父。
二階に上がり足元にできた不自然に揺れる影。
手紙には書いていないけれど、
母は自殺したのだろう。

私は座り込んで、手を握りしめた。




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