3.無意識のゼロセンチ
「こっち…いや、こっちかな 」
眉間にしわを寄せながら彼女は考える。顔を見てぱっと衣装が決まった他のメンバー。それに対してぼくの時は結構悩んでくれてる気がする。この前聞いてみたら「他のメンバーさんは早く決めないと怒られる気がするからお家で決めてくるんです。錦戸さんとか特に、ね?」なんて言うから亮ちゃんからおい!って笑い混じりの怒鳴り声が飛んできた。
みんなお茶目な名前ちゃんが大好き。それがLoveなんかLikeなんかはイマイチわからないけど僕は素直に恋愛として大好き。あの愛のある怒鳴り声を聞くと亮ちゃんも気持ちは一緒なんかな、って最近気づいた。
「ちょーっと失礼しますね 」
後ろから手を回して紺色のニットを合わせる。鏡でぼくも確認できるように配慮してくれてるようやけどバックハグみたいでドキドキする。ちっちゃいから背伸びして腕もめいっぱい伸ばしてそれでもギリギリでぼくの背中と名前ちゃんの上半身がくっついてる状態。鼻を掠めるラベンダーの匂いに酔いそう。どうですか?なんて聞かれるから好きですって言いそうになった。嘘。
「名前ちゃんはどう思うん? 」
「んー、秋ですしね。カーキもいいと思うんですけどやっぱネイビーも外せないな。ベルトはもう決まってるんです。だからあとパンツと… 」
真剣な眼差しにやっぱり仕事なんやな、って現実を思い知らされる。鏡に映るぼくは目に見えて肩が下がっていてじつに情けない。まだ迷っているみたいでカーキのTシャツをまた名前ちゃん手法で合わせてくれる。でもさっきよりかはテンションが上がらない。Tシャツかニットかでいうとニットの方がしっくりきたらしくまたニットを合わせる。ぴたっとくっつく体が心地いい。そんな悩まんでええのに、って言うと彼女は笑って、でもまっすぐな目で。
「丸山さんのは私がじっくり選びたいんです! 」
下がった肩はいつのまにか上がっていて、体温も上がってかおが漫画のようにピンクに染まった。その言葉に脈があるのかないのかはさておきぼくにとっての特別な時間であったのは確かでした。
無意識のゼロセンチ
( 丸、顔キモいで )
( むふふ )