カフェテリアで食事をしていると、必ずと言っていいほど、ベレトさんがくる。私がベレトさんの指輪をつけていないときでも、ふわふわと浮遊したあと、じーっと料理を見て、満足そうに帰っていく。ベレトさんは紋章士だから、食べることはできない。なんでも、もといた世界では、かなりの大食らいだったようだから、食べられなくて悲しいのかもしれない。だから、せめてその料理を眺めることで、食欲を発散させようとしているのだろう。今日のおやつはアップルパイだ。少しでも、食べられないものかと模索して、ベレトさんに話しかけた。
「ベレトさん!」
「どうした、ソフィー」
「これ……どうしても、食べられないでしょうか?」
手を仰いでアップルパイに向けた。料理当番だったボネさんが作ってくれた、今日一番のおやつ。きっと、頬が落ちるくらい美味しいはずだ。しかし、ベレトさんは顎を掴んで、難しい顔をした。
「それは君のものだ。俺が食べるものではない」
「ですが……ベレトさんは、すごくいっぱい食べるって……」
口を開こうとする私に、ベレトさんは首を横に振った。
「いいんだ。それよりも、君が食べているところが見たい」
「え?」
「あっちの世界でも、生徒たちは毎日美味しそうに食べていた。俺が見たいのは、美味しいと言って笑顔になっているところなんだ。君がその菓子を食べればいい。君が喜んでくれたら、俺も嬉しい」
「ベレトさん……」
「もっと、わかりやすく言ったほうがいいか? ……君の笑顔が見たい」
思わず、言葉を失った。紅潮していく顔を隠すように俯いたけれど、ベレトさんはじっと覗き込んできた。
「ソフィー? 眠たいのか?」
「違います……ベレトさんはずるいです……」
「ずるい? なぜだ?」
本当に意味をわかっていないようだから、自分ばかりが恥ずかしくなっている状況になってしまっている。ベレトさんは教師としても名を馳せた英明な人だ。こんな天然でかっこいい人が先生だったなんて、エーデルガルトさんたちが羨ましい。
「ソフィー、さっきからどうしたんだ? 疲れているのなら、茶会でもするか」
「お茶会?」
「ああ、よくやってたんだ。楽しいぞ」
「や、やってみたいです!」
ベレトさんに反撃したくて、そう啖呵を切ってみたものの、やはり私は無意識のベレトさんの話術に乗せられ、顔を赤くするのだった__。