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それからいくつか注意事項を言われた。
自分が異邦人だということはここに居る者以外には言ってはならないこと。
自分の周りに何か異変を感じたらすぐに言うこと。
外出する際には許可を取ること。
あと、おつるさんやガープさんからクザンさんに酷い事をされたらすぐに言うこと、と言われわたしはキョトンとしてしまった。
クザンさんが今まで酷かったことなんか一度もなかったからだ。
いつも、この人はわたしに優しくしてくれる。

「クザンさんはとっても優しい方なのでその心配はないかと…」

ポンと自然にそう言ってしまうと、室内は一気に静かになり、次の瞬間にはみんなが笑い出した。
あの、サカズキさんまでもが小さく笑っている。
何か悪いことを言ってしまっただろうかとオロオロしながらクザンさんを見上げると「参ったね」と言いながら口を手で覆っていた。

「大将に優しいだなんて、よく言えたねアンタ」

クスクスと笑った言ったおつるさんに続いて、ガープさんも「全くだ」と言って笑った。

「これで、勤務態度も治ってくれれば万々歳なんだが。なァ、クザン」
「あー、話し合いは終わり?じゃ、行こ、ユイちゃん」
「えっ、あの」

グイと手を引っ張られて、そのままわたしも扉に向かう。
扉から出るときに振り返って「お世話になります」と思い切り頭を下げてから扉を出た。





「クザンさん」
「ん、なに」

部屋まで送ってくれるというクザンさんの後ろを歩きながら口を開いた。

「わたし、…」

一体、何なんでしょうか。
そう続けようとして口を閉じた。
言葉に、音にしたら、本当に何もかも分からなくなる気がして。
今の状況も、自分もわからなくなってしまう気がした。

「どうした」

クザンさんの歩みが止まって、見上げればクザンさんは少し屈んでわたしを見ていた。
安心させるように頭を撫でてくれてわたしはギュッと拳を作った。

「わたし、あの、お腹が空きました。今日のお昼なんでしょうね!」

精一杯笑ってそう言えば、クザンさんは一瞬、訝しむような顔をしたけど、小さく笑って「食堂いこうか」とまた前を向いて歩き出した。

クザンさんは優しい人だ。
だから、心配はさせちゃいけない。
迷惑はかけちゃいけない。
わたしがこの人から貰った優しさはもうたくさんあるというのに、わたしはきっと何も返してあげられない。
だから、せめてこの人の荷物にはならないようにしなくちゃ。
優しいこの人を困らせては、いけない。

また拳を握って、少し遠くなってしまったクザンさんの背中を追いかけた。



本音はしずめて


(笑っていなくちゃ)

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