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「入れ」

クザンさんが扉に向かってそう言うと勢い良く扉が開いてびっくりした。
「失礼しますッ!」と大きな声が部屋の中を響いて、紙の束を持った海兵さんが敬礼をしてから入ってきた。

「定期の手配書をお届けに参りました!」
「あーはいはい」

クザンさんは適当にあしらって、その束を受け取っていた。
手配書。
というと、やはりこの世界でも悪は絶えないということか。
しかも、あんな紙の束ができあがるほどだ。
机の上にバサリと置かれたそれがすごく気になってしまった。

「それとッ!センゴク元帥殿からの書類もお届けに参りました!」
「センゴクさんから?」

もうひとつの紙の束をクザンさんは訝しげに見つめてから受け取って、書類に目を通し始めた。
その顔つきは最初は無表情だったが読んでいくうちにどんどん眉間にシワが寄っていって、なんとも怖い顔になってしまっている。
それを見た海兵さんは少し怯みながら「し、失礼いたしました!」と、最初より小さな声でそう言って部屋から出て行った。
海兵さんが出て行ってもクザンさんは、まだ書類を読んでいた。
それを見てわたしはソッと先ほどの手配書に手を伸ばした。
書類はダメでも、手配書くらいなら許してくれるだろう。
案の定、書類を読んでいるクザンさんはわたしには気付いていなくてちょっといたずらが成功したような気分だ。

早速手に取った手配書を見てみた。
紙の上の方にWANTEDの文字と、その下に犯罪者の写真。
それからその下に、DEAD OR ALIVEの文字と懸賞金の金額が記載されていた。
これは、英語なんだ、と思いつつ懸賞金の数を数えて見る。
これもこの間、街に行って分かったことで基本的にお金の読み方はわたしの世界と相違なかった。
円という単位がこちらではベリーになるのだ(ただ、どのお札を使えばいいのか分からなくて苦労したのはいい思い出だ。)
ひい、ふう、みいとゼロの数を数えてびっくりした。
BUGGY と書かれているその手配書の人物、おそらくバギーという読み方だろうか。
鼻の頭が赤くて額に骨でバツ印、少し目つきの悪いその人の懸賞金はなんと、1500万ベリーだった。
わたしの世界でこんな大きな金額かけられたのを見たことがあっただろうか。
少しピエロのようで楽しそうな人に見えるがもしかしたら、とんでもない殺人犯なのかもしれない。
その後もペラペラとめくって読んでいくと、『アビルダ 5000万ベリー』『ドン・クリーク 1700万ベリー』『アーロン 2000万ベリー』などなど…。
この世界の警察はお金持ちなのだ、と驚く金額設定に無理やり納得することにした。

そして、ふと思った。
そういえばここは海軍だと聞いているけれど、相手はもしかして海賊だったりするのだろうか?
こんなファンタジーな世界で、わたしの世界みたいに違法漁法で、なんて訳がないと思うし、手配書に載ってる人の格好もなんだか海賊に見えなくもない。
海賊、というと某ネズミの空飛ぶ少年のマヌケな鉤爪の海賊だとか長い髪にとてもダンディな(わたしはあの俳優さんが、大好きだ。)ずる賢い愉快な海賊だとか。
懸賞金をかけるほどの極悪さをわたしはまだ感じることができなかった。
どちらかというと少し楽しい集団のような。
ああ、そういえば海賊王に俺はなる!なんていうのが名言の海賊アニメもあったなあ。
わたしはちゃんと見てはいなかったが、面白い面白いと友人がよくはなしてくれていたのを思い出す。
確か友人は三本の刀を使う海賊が好きだと言っていた。
緑色の髪型で、結構目つきの悪そうな…名前はなんだっただろうか。
ペラペラと手配書をめくりながら、うーんと唸っているとある文字が飛び込んできた。

「あ、そうそう。ゾロだ……ッ!?!?」

わたしは大きな声で叫びそうになるのを咄嗟に押さえ込んだ。
心臓がバクバクと鳴っている。
写真の中の目つきの悪い目がわたしを見つめていた。
それは、わたしが友人に見せてもらった漫画、ワンピースの『ゾロ』だった。
似ているだけかも、と手配書の文字を見直してみたものの、名前はしっかりゾロと書いてある。
一体どういうことだというのか。
彼は、漫画の中での一登場人物であったハズだ。
例え、世界が違くても、というか世界が違うのだからワンピースだって存在していないはずではないか。
はたと、そこまでいってある考えも浮上した。
『ここがワンピースの世界だとしたら』
あり得ない話だけど、それならゾロが存在することにも、都合がつく。
もしそうだったとしても、どうして知識もあやふやなわたしがそのワンピースの世界に飛ばされたのかは、全然予想もつかないけれど。
もう少し情報が欲しくてわたしは手配書を次々めくった。
ゾロが居るのなら彼も居るはずなのだ。
このワンピースの物語の主人公。
誰でも知っている、麦わら帽子の。
パラリと最後の手配書をめくった。

「…居た、ルフィ…だ…」

そこには屈託のない笑顔をこちらに向けているあの彼がいて、わたしは思わず声に出してしまっていた。

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