03


「なるほど、うーむ、これはまた偉いことになった…」

センゴクさんはわたしから得た情報を紙にまとめながら小さく唸った。
それを見ながらわたしは息を吐き出した。


わたしが分かっていること、覚えていることを話せば、それに対するセンゴクさんからの質問があり、それにわたしが答えると、またセンゴクさんからの質問が…というように質問と応答は繰り返され、結果的に色々なことを聞かれた。

様々な質問が飛んできて、それに答えて行くうちにわたしは、いやきっとセンゴクさんも、クザンさんも違和感を覚えたハズだ。
何より、話が噛み合わない。

出身地のことを聞かれたときは、センゴクさんたちは日本を知らなかったし、逆にノースブルーやイーストブルーなどの名前で出身地を聞かれたときはわたしが答えられなかった。
そもそも二人から出てくる単語は、わたしの分からないものが多かったし、二人もわたしの出す単語に首をよく傾げていた。

わたしは徐々に近づいてきた答えに冷や汗を浮かべていた。
二人と話が噛み合わないのは言語の壁とかの問題ではなく、単に世界が違うのではないか。
わたしの生きてきた世界ではない、異世界なのではないか。

ぶっ飛んでいる。
頭のおかしい答えだというのに、それしか答えが見つからない。
逃げ道を探すわたしに、センゴクさんは「おそらく」と口を開いた。

「ユイ、君と我々の世界は、違う」

ガン、と頭を殴られたようなショックだった。
自分で導き出した答えもそれだったというのに、違う答えを望んでいた。
だって、それが答えならわたしは、どこにいればいいというのだ。

「君は異世界の者、『異邦人』だ」
「…え?」
「君のような人物は過去に例がある」
「え!?」
「何それ、俺しらないけど」
「最近はめっきり現れなかったからな、昔はよく現れていた」

センゴクさんの言葉に耳を疑う。
私以外にも、同じ境遇の人達が居た。
それはある意味救いでもあった。
帰る方法がちゃんとあるかもしれない。

「ただ、今までの異邦人と違うのは君が何も分かっていないということだ。過去の異邦人は何か明確な理由を持って、自らこちらへ来ていた」
「そ、その人たちは今どうしているんですか…!」
「皆、帰る方法を知っていて目的を果たすと次の日には消えていたよ」
「そんな…」

ということは、目的も帰る方法も持っていないわたしはどうなるのか。
救いだった存在が音を立てガラガラと崩れて行く。
次第に視界が歪んでゆくのを必死で堪えて、センゴクさんに頭を下げた。

「す、すいません…!異邦人と分かったとは言え、怪しいものに変わりはありません、で、ですが、あの、しばらくここにいさせてもらえないでしょうか…!帰る手がかりが分かるまででいいんです、迷惑なのは承知です、でも、」

ああもう、支離滅裂だ。
ここがどんな場所かは分からないけれど、居場所のないわたしが頼れるのはここしか無い。
幸いにも、センゴクさんは過去の異邦人について知っている。
帰る方法自体がわからなくとも、手がかりだけでも見つけられるかもしれない。
厚かましいかもしれないが、しぬのはいやだし、一人もいやだ。
何としてでもここにいさせてもらわないといけない。

頭を下げたまま言葉を続けようとすると、センゴクさんの困ったような声音が聞こえてきた。

「顔を上げてくれ。頼まれなくともそのつもりだ」
「え!?ほ、ほんとです…か?」
「ああ、何も分からない者を放りなげるほどこの世界の政府は冷たくはない」
「せ、政府…?」
「そう、ここはマリンフォード。ここに集う我々は誇り高き海軍だ」

バサリとセンゴクさんが立ち上がり、羽織っていた白いマントを翻すとそこには『正義』の二文字が大きく書かれていた。
それに見惚れていると、振り返ったセンゴクさんが「だから安心してここに居なさい」と言ってくれた。

「まあ、そうゆうことだからもっと気ィ抜きなさいよ」

ポンポンとあやすようにクザンさんに頭を叩かれて、わたしは涙が溢れそうになるのを抑えて、「お世話になります!」と再び、頭を下げたのだった。



不安のなかで


(あたたかい人たちに出会えました)

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