05
「こーら、唯!いつまで寝てんのー!テスト今日からでしょう!」
意識の隅っこのほうで聞こえてくる母の声にううんと身をよじった。
まだ寝てたい。
そうか、テスト今日からなんだっけ。
「テスト!?」
テストという単語に意識が一気に覚醒したわたしはベッドから飛び起きた。
机を見るとノートたちが散乱したままで急いで支度を始めた。
アレ?わたしこれでいいんだっけ?
ふ、と違和感に手を止めてしまったが結局わからずにまあいいかと片付ける手を進めた。
全て用意し終えて、お母さんが出してくれた朝ごはんを急いで食べて、玄関を出た。
「、え」
フッと玄関の先の地面が消えて気づくとジャボンと水の中に居た。
驚いて足掻きながらまだあいている玄関を目指すわたしを弾くように玄関の扉は閉まり、ドンドン水中へと沈んでいく。
苦しいよ、やだよ、助けて、助けて、
「助けて!」
ハッと目を覚ますと見慣れない天井が見えて、息を荒くしたまま自分がどこにいるのかを思い出した。
「…はぁ、なんだ、夢」
背中のベッドに身を預けながら額に浮かんだ汗を拭った。
まあ、できればこっちも夢であって欲しかったんだけど。
心の中で少しごちりながら部屋を見渡した。
見慣れない豪華な部屋にため息をついた。
一人には広すぎるこの部屋は昨晩、クザンさんがわたしに与えてくれた部屋だ。
トイレバス、洗面所、クローゼット、ベッドにドレッサーまで備え付けたこの部屋はさしずめ、一流ホテルの一室、といったところでクザンさんが「好きに使って」と言ったときには首をちぎれんばかりに振ったものだ。
こんな広い立派な部屋使えません、と言えば申し訳なさそうに「これが一番狭いんだけど」と言われてしまい、わたしは黙るしかなくなった。
落ち着かない部屋でずっとソワソワして、なかなか寝付けなかったのもあんな夢を見てしまった原因なのかもしれない。
備え付けられていた時計を見るとまだ8時前で、クザンさんが「9時には起こしにくる」という話をしてくれたのを思い出して、汗だくになってしまった体を洗おうとシャワーを浴びることにした。
「……さすが政府…お金持ってるんだなぁ」
バスルームも一番狭いと言われる部屋についてるようなものではなく、高そうなシャワーヘッドやシャンプーにいちいちビビりながら慎重にシャワーを浴びた。
「疲れた…」
まだ起きて、シャワーを浴びて、身支度を整えただけだというのに、体はどっぷり疲れていて、ベッドにうつむきに倒れこんだ。
フワフワの柔らかいベッドに安心してまた眠りについてしまいそうだ。
「ユイちゃーん、起きてる?」
「うっ!?は、はははハイッ!」
ウトウトとし始めた頃に扉をノックする音とともに、扉越しにクザンさんの声が聞こえて、慌てて飛び起きた。
急いで、鍵を開けると扉が開いて「おはよ」と昨日よりも眠そうなクザンさんが居た。
「お、おはようございます」
「ん、どう?ちゃんと寝れた?」
「あ…えと、ハイ!よく寝れました!」
なんて今朝を思い出せば、嘘なんだけども、部屋を借りてる身分で失礼なことも言えない。
無理やり作った笑顔でそう言えば、クザンさんは困ったように笑って「そう、」とだけ言った。
「お腹空いてるでしょ、朝メシ食いに行こう」
「あ…はい!」
クザンさんの言ったとおりお腹が空いてるのは本当で、っていうのも、昨日の夜はどうも食べ物が喉を通る気がしなくて遠慮したのだ。
それを思うと昨日は一日なにも口にしていないから流石にお腹が空いた。
わたしの返事にクザンさんは頷いて、歩き出した為わたしもそれを追いかけた。
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