06


「わあ…すごい…」
「ここが食堂ね、腹減ったらここに来ればいい」

キョロキョロと辺りを見渡すわたしを他所にクザンさんは食堂を進んでいく。
かなり広い食堂は白い服を着た海兵さん達でごった返していて、軍の大きさを物語っていた。

「おはようございます!青雉大将殿!」
「おはようございます!」
「あーハイハイ」

さらに驚いたのは食堂を進むと、海兵さんがみんなクザンさんに敬礼をしていくのだ。
ご飯を食べていた海兵さんも、食べるのを中断してきちんと立ち上がり敬礼をしている。
当の本人はめんどくさそうにあしらっていたがもしかして、クザンさんってすごくお偉い人なのではないだろうか。
周りの海兵さん達が言っている『青雉大将』っていうのはクザンさんの呼び名、だろうか。

もしかして、わたしとんでもない人に面倒を見させている?

それだけでも縮こまりたいというのに、クザンさんに敬礼した海兵さん達は皆、後ろに居るわたしの存在に気づいて目を丸くする。
「あれはなんだ」
「何故青雉大将と一緒に」
「あんな奴見たことないぞ」
ザワザワと囁かれる話が体にチクチク刺さる。
ごめんなさいごめんなさいと心の中で謝りながらなるべく視線が合わないように下を向いてクザンさんについて行った。




「ごめんね」
「え、えっと、何が…」

食事中、クザンさんが少し申し訳なさそうにわたしに話しかけた。
当のわたしは何について謝られているのかサッパリで聞き返せば「ここよ」と、フォークで後ろらへんをさした。

「時間ずらしゃァよかった」
「あ、ああ…いえ、別に大丈夫です」

さっきのことを言ってるのだろうか、と思って首を振ればクザンさんは難しそうな顔をしていた。

「あ、そういえば、クザンさ…じゃなかった、青雉大将さんはぐ、軍ではかなり偉い方ですよね…?」
「あーほらやっぱ、ね。まあそうっちゃそうだけど気にしないで。それとクザンでいいから」

そう言いながらウィンナーを咀嚼したクザンさんは「やっぱ時間ずらしゃよかったな」とボソボソ呟いていた。

「あの、その、わたしなんかにお手を煩わせてしまってすいません…」

小さくなりながら謝罪を述べた。
きっとクザンさんほどの偉い方がわたしなんかの面倒を見てくれるのはわたしを見つけてくれたのがクザンさんだったから、というだけなのだ。
きっと、面倒だって思っているだろうし、偉い方なら仕事だってたくさんあるだろう。
そこによく分からないお荷物が積まれた状態なのだ。
邪魔、でないはずがない。

「あー…気にしないでよ、俺も朝メシ食べに来ただけだし」

クザンさんは、優しい。
わたしはそう言ったクザンさんにもう一度、謝って、残った朝ごはんを食べ進めた。

「散歩、行かない?」

黙々と食べていると、ふいにクザンさんがそんなことを言い出して口の中のものを嚥下して思わず聞き返した。

「散歩、ですか?」
「そ。散歩。これは俺が行きたいことだから。ユイちゃんにはそれに付き合ってほしいんだけど」

「俺のワガママに」と付け足された言葉にほんわり胸が熱くなった。
クザンさんは本当に優しい人なんだ。
わたしが気を遣わないようにああいうことを言ってくれる。
わたしが頷けば、クザンさんは嬉しそうに「決まりね」と小さく笑った。

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