ふわふわとすごく気持ちのいい眠りだ。

最近こんな気持ちのいい眠りについたことがあっただろうか。
気分もふわふわ、手触りもふわふわ。
まるで、雲の上にいるような。
って、待て。
手触りもふわふわ?
パチリと目を開けると目の前が真っ白で、何度か瞬きをする。
さわさわと目の前のそれを触ってみると、「ふふふふ」という声と共にそれが動いた。
「くすぐったいよ、リナリア」
その声に顔をあげれば、ベポが笑いながらこちらを見ていた。
はて。
いつの間にベポと一緒に寝ていたのだったか。
今日な天気が良くて、甲板に寝転んだのは覚えてる。
そこからぱったり記憶がないからきっとわたしは寝てしまったんだろうと思うけど、わたしは一人だったと思う。
起き上がってわたしのそばで寝転ぶベポを見ると「気持ちよかったー、俺も寝ちゃった」とあくびをしたので合点がいった。
おそらく、わたしが寝ているのを見てベポも寝転んで、寝ちゃったのだろう。
「わたしもベポのおかげでもっと気持ち良く寝れた」
笑って、ベポの頭を撫でるとベポが嬉しそうに笑った。
「リナリアとお昼寝するの久しぶりだったから嬉しい!」
「そうだねえ」
返事をしながら、そういえば、と思った。
ベポとはよく昼寝をしていた。
わたしもベポも寝るのがだいすきなのだ。
でも最近は甲板にいるとアイリスたちを嫌でも見ることになるから、昼寝するにも自室でというのが多かった。
「俺、リナリアとお昼寝したかったのに」
小さく言われた言葉に苦笑して「ごめんね」とまた頭を撫でた。
「それにね、前みたいにもっとリナリアといたいのに…最近リナリアすぐどっか行っちゃう」
それにも、「ごめんね」と返した。
ベポはすごい悲しそうに言ってくれた。
わたしもベポともっと一緒にいたいよ。
けど。
頭をチラつくのはアイリスを囲む笑顔のみんな。
シャチも、ベポも、ペンギンも、船長も。
それを見ていると自分との差を感じて、妬む嫌な女になってしまうのだ。
わたしはあの子みたいに可愛くない。
わたしはあの子みたいにみんなを笑顔にできると思えない。
わたしは、あの子みたいに彼の興味を惹ける存在にはなれない。
ドロドロときたない感情ばっかり生まれては胸の中に溜まっていく。
そうして、いつも最後には捨てられ、一人ぼっちになる自分ばかりがそこにいるのだ。
「リナリア?」
ベポに話しかけられて、我にかえる。
ごめんねと言って笑うとベポが「この間も」と口を開いた。
「俺、リナリアが行くと思ったからアイリスたちとスイーツ行くって言ったのに」
「え?」
「スイーツも好きだけど、リナリアがいないからちょっとつまんなかった」
ぶす、と拗ねたように言うベポに驚く。
まさかこのシロクマがそんなことを思っているなんて。
「でも、みんなはアイリスが大好きでしょう?」
なんて、ベポ相手だしと思って性格悪く言ってもみる。
ベポはわたしのその言葉に「うーん」と悩むような声をだした。
「アイリスも好きだけど、いいこだし、かわいいし。でも、俺はリナリアとの方が一緒にいたい!」
笑いながらそう言われて、わたしは思わずポロポロと泣いた。
だって、そんな言葉言われると思っただろうか?
こんなにも嬉しい言葉があっただろうか。
声も出さず涙だけ流すわたしにベポは起き上がって、アワアワと慌てていた。
「ええ!?リナリア?お、おれなんか言っちゃった?ど、どうしよう、」
「んもー!違うよ!ばかベポ!」
泣きながら、笑ってベポに思い切り抱きつくとバランスを崩したベポがドスンと後ろに倒れこんだ。
そのままベポの上に乗っかって笑う。
「嬉しかったの!」
「え?なにが?」
「わかんなくていいやい!」
そう言ってベポのお腹に頭をグリグリと擦り付けると、ベポがまたくすぐったいよ!と大笑いした。
しばらくそうして遊んでいると、ベポが突然静かになった。
疲れたのかな、と思って顔を覗くとまさか。
「…寝てるし」
幸せそうな顔をして、スヤスヤと眠っていた。
それを見てわたしもベポに抱きついたまま、瞼を閉じた。
わたしも、寝ちゃえ。
今ならすごくいい夢が見れる気がした。


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