幸福の扉が、閉じる音がした ずっと、体中が、痛い。 手も足も、上手く動かせない。 其れに加え、闇達の核を視通す霊眼(レイガン)が、利(キ)かなくなって来て居た。 何故、体が奇怪しいのか? 其の心当たりと成るものが、Hatiには、たった1つある。 けれど、其の事を自ら口に出して、Sköllに告げる事は、出来ない。 心苦しい。 いや、言葉にするだけの勇気がないだけだ。 其れ以前に、自分自身が、認めたくないのだ。 (?)『――――汝、理ニ従イ、滅スルベシ』 暗く低く太い1つの闇の意志の声が、耳に突き刺さる。 背後から耳元へ直接、聞こえた声に、全身がギリギリと痛んで、後ろを振り返る所か、指先1つ動かす事すらも出来ないHatiは、ビクリッと、体を震わせた。 バチンッ 闇の声を、たたっ斬るかの様に、大きな音がした。 Hatiは、其れを合図に、ギュッと、閉じていた目を開ける。 (Sköll)「俺を放置プレイなんて真似するから、そんな目に遭うんだよ。」 白昼夢の悪夢から助けてくれたのは、仕込錫杖と言う鞘(サヤ)から抜かれた、灼熱色の刀身を構えるSköllの姿があった。 Sköllは、そう言って、Hatiの手足や首筋に絡まって居る、呪詛(ジュソ)で作られた、黒く細い闇の光の糸を、次々に刃で、焼き斬って行く。 (Hati)「御免(ゴメン)ぞよ。有難(アリガト)うぞよ。」 (Sköll)「Hatiは、只(タダ)でさえ弱っちいのに、隙だらけなんだら、気を付けて貰わなくっちゃ。」 (Hati)「酷い言い方ぞよね。」 (Sköll)「俺、何か間違った事、言った?」 (Hati)「間違った事と言うか、もっと他にオブラートに包んだ言い方とかあるでしょーぞよ。」 (Sköll)「必要ないだろ?どっちにしたって、同じ事を述べてるだけなんだから。回りくどい言い方は、時間や労力の無駄。」 (Hati)「……返す言葉も御座居ませんぞよ。」 (Sköll)「うん、素直で宜しい♪…で、回りくどいって、言えばさぁ、コレ。」 そう言って、Sköllは、先程、Hatiに巻き付いて居て、自身が切った黒い糸を1本、焼き斬らず、普通に切ったのか、其れを物珍(モノメズラ)しそうに、暗雲立ち込める空に、高く掲げて見せた。 (Sköll)「こう言う、いけ好かない、ちょっかい出されると、思いの外(ホカ)、イライラするね?」 (Hati)「大物は、次で、最後なんだから、相手も慎重に成ってるぞよよ。」 (Sköll)「あれ?なんか勘違いしてない?」 Sköllは、きょとん、と目を丸くする。 だが、其れは、すぐに、暗く冷ややかな笑顔に変わった。 (Hati)「ぞよ?」 Sköllは、掲げていた黒い糸を、グッと握り締める。 其の瞬間、黒い糸は、真っ赤な炎に包まれ、跡形も無く、燃えた。 シャッ ザクリ! 再び剥き出しに成った、反(ソ)りの無い、直刀が、Sköllの手に、あった。 其れは、Hatiが寄り掛かって居た桜の木の、ちょうど、首筋の、あと数ミリずれて居たら、刃の餌食(エジキ)と成って居たであろう事は、簡単に分かる程の位置に、深々と突き刺さって居た。 (Hati)「ひィーーーーーーーーッ!」 突然の出来事に驚きと恐怖の入り混じった叫び声をあげた。 刺された桜の木も、一斉に、ざわめいて、葉擦れの音が悲愴(ヒソウ)な悲鳴を、あげている気がする。 (Sköll)「こんな子供騙しの呪詛(ジュソ)なんて、どうでもいい。」 (Hati)「……Sköll。」 (Sköll)「駄目だよ。まだ負けちゃ。」 (Hati)「う〜ん…其れは、分からないぞよ。」 (Sköll)「え?何て言ったの??」 (Hati)「いたたたたた!抓(ツネ)らないで、引っ張らないで、捻(ネジ)じらないで!頬、取れひゃうぞよ!!!」 曖昧な返事をしたHatiに対して、Sköllは怒ったのか、其れでも笑顔の仮面を顔に張り付けた侭、自身の頬より、白くて柔らかい水饅頭の様な頬を抓り上げた。 (Sköll)「で、何だって?」 (Hati)「大丈夫ぞよ。だって…最強の旦那様が付いて居らっしゃいますぞよから。」 不貞腐(フテクサ)れた様に、プイッと、Sköllから顔を背け、抓られた頬を擦(サス)りながら、其れでも、Sköllの所望する肯定の返事を、殊勝に答える。 (Sköll)「なら大丈夫だネ。」 (Hati)「でしょうとも、ぞよ。」 (Sköll)「例え、相手が、アイツの作った俺達の始祖神以上の力を持ち、尚且(ナオカ)つ、37564の集合体であり、不自然で強引な解決をもたらすと言われる最高に巫山戯(フザケ)た傑作神、Deus ex machinaでもね?」 アイツとは、“至高の存在”の事。 37564は、HatiとSköllの2人が皆殺しにした怨念と言う名の呪の種の数。 そして、Deus ex machina(デウス エクス マキナ)とは、“至高の存在”が、37564もの数の呪の種と、太陽と月の始祖神に与えた力以上の能力を混ぜ合わせた機械仕掛けの神様。 つまり、“至高の存在”は、HatiとSköllとの対立を…いや、抹殺する事に決めたのだ。 そして、きっと、“至高の存在”自身が、最も納得する世界を、創造し直すのだろう。 (Sköll)「巫山戯た話だよネ。」 (Hati)「えぇ…そうぞよね。」 Hatiは、足元に落ちて来た、白から桃色をした桜の花びらを拾った。 5枚から100枚以上の物まで様々な花びらの枚数が、ある中で、拾った花びらの枚数は4枚だった。 (Hati)「(コレが四つ葉のクローバーだったら、幸せを、運んで来てくれたぞよか?)」 And that's all…? (それでおしまい…?) |