ヨモツヘグイ 05




100匹もの異形が、『あははははははは!』と高らかに笑いながら、通り過ぎて行く。

もし、出会ってしまって、鬼達に気付かれようものならば、其の者の命に、明日はない。

驚異で脅威の暴走集団、其れが【百鬼夜行】だ。



##NAME1##が毎晩見ると言う悪夢は、まさしく此れだった。





「――――ッ!」





頬を、ユラリと、ねっとりとした、嫌な生温さを持った風が撫でたのを切っ掛けに、目を覚ました。

短く息を呑み、目を開けると、一気に鳥肌が立った。





「(また、此の夢だ。)」





顔を上げ、前方を見上げると、奇妙な空気は押し寄せて来る。

息苦しい様な、不愉快感の塊の様な、不気味な気配を肌で感じ取る。


辺りは、闇が濃い。まるで、墨を零した様な…と、まさに其れだった。

黒く、深い。そして何より、ドロリと、重い。漆黒を通り越して、暗黒の世界。


ヴヴウ、と獣が低く唸って居る様な、恐怖を煽り立てる様な風の音。

……否(イナ)、其れは風では無かった。此の辺り一帯の漆黒の空気が、どよめいて居る。

草木を蹂躙する如く吹く暴風の、“風力の無い”野分(ノワキ)が訪れたかの如く。

音だけが唸り、響く。其れだけが、暗澹冥濛(アンタンメイモウ)の世界を轟(トドロ)かせ、体を震えさす。


世界の闇より濃い、闇の塊が近付いて来る。走って、向かって来る。そして、声が聞こえた。高らかに、笑って、嗤って居た。

耳の鼓膜を突き破ろうとするかの様な、遠く近く、キンキンと響く哄笑(コウショウ)。





「う、ぐ……!」





堪らず、耳を強く手で塞ぐ。

其れでも、声は防ぎきれず、容赦無しに耳に届いては、攻撃をして来る。

あははははっ、と。高らか過ぎる音域で、笑い続けながら、鬼達が来る。


薄闇の塊が、幾つも宙を駆ける。鬼や亡霊の首だ。ドス黒い気を纏いながら、狂った様に飛び交う。

金砕棒を持った赤鬼、矛を持った青鬼、巨大な海蛇、山伏の服装の天狗、一つ目一本足の一本ダタラ、鮫に似て大きな尾鰭には無数の細かな針が付いて居る魚等、人成らざるモノ達。

巨大な顔の付いた網代車(アジロクルマ)、火を吐く偽物の太陽、羽の生えた盥(タライ)、手足の生えた釜や瓢箪、尼の恰好(カッコウ)をした針鼠や猿…そんな狩衣や袿を纏った獣面人体なモノ達。





「ヒ……ッ」





そんな驚異で脅威の暴走集団を目にして、短過ぎて吐息にしかならない悲鳴を上げ、大きく後ずさるが、もう遅い。

彼等の無数の目が、一斉に、恐怖で青褪め、引き攣った表情をする##NAME1##を捉(トラ)える。


##NAME1##に気付いた集団は、オオオオオ、ウォオオオオ!と、低くドスのきいた歓喜の雄叫(オタケ)びを上げる。

低く、高く、ネットリとした唸り声達が、世界に響く。地響きは、一層、大きくなった。



冷たく、鋭く、ネバネバとした気。負の感情を集結させた様な、不快な気。

其れが、ズシリと容赦なく押し寄せて来る。

激しい頭痛と耳鳴りに、##NAME1##は眉間をきつく引き絞った。





「(逃げなきゃ…!!)」





そう思った途端、急に、足元の闇が、グジュリと泥濘(ヌカル)んだ。

足首までが、其処に沈み、呑み込まれ、闇地に囚われる。

其処から、鮮血の緋色が、ゴボリ…と、溢れて来た。



……ベシャリ、

……ベシャリ、



そして、真っ赤に滴り染まった闇の泥地から、ボロボロの亡者達が這い出して来る。

骸骨となった其の顔が、嗤って居る様に歪んで居た。空洞となった目の窪みの奥で、チラチラと光が揺れて居る。悪しき心だけを集めて燃やした様な光だ。





「……ッ」





其処へ、百鬼夜行も到着してしまった。





「嫌ぁッ!!」





飛び掛かって来た小鬼を、手で振り払う。其の拍子に、鋭い爪が二の腕を裂いた。

パッと血が飛ぶ。泥地の闇の塊から、夥(オビタダ)しい数の腕が飛び出し、##NAME1##を捕らえた。

様々な形を成した指達は肌へと食い込み、髪を鷲掴み、口を何重にも塞ぎ、首を締め上げた。



足元から這い出る手足の数も、瞬く間に増えて行く。

生身の、腐りかけの、白骨の、魚の鱗に覆われた様なの、蛙の様な、手や足や尾に似た、不気味な身体の一部達。

其れ等は、にじり寄って来て、其の侭、脚へと這い上がって来る。


己を引き千切ろうと、喰らおうと、近付いて来る牙や手。

だが、##NAME1##は動く事も騒ぐ事も出来ない。

此の侭、喰い殺される!と、意識の片隅で呟いた、時。





「おい、」





―――――声が、





「簡単に諦めてんじゃ、」





耳元で聞こえた。





「ねーよッ!」





そして…―――、





グサリ…!



銀色が、鋭く閃いた。

##NAME1##の顔の横、数ミリの所を銀色の何かが、通り抜ける。

風を切って走った其れは、##NAME1##の顔の横、数ミリを寸分の狂いなく通り抜けると、眼前まで迫って居た、鬼の大口に、グサリと、音を立てて突き刺さった。















And that's all・・・?
(それでおしまい・・・?)

- 67 -

*前次#


ページ:








解せぬ花