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入学式のあとポムフィオーレ寮で新入生歓迎会に参加し、やっと廃れた館へ帰ってきた。
門扉に手をかけ、敷地内へ足を踏み入れる。
自室まであと少しの距離だがお腹も適度に膨れ、非常に眠い。眠りながら歩けそうだ…。いや、男に見えるようにかけている魔法が解けてしまうから頑張れ私。
今日は200人以上の新入生の寮分けという長丁場に、毛玉の乱入(危うく火事になるところだった)、ラストの新入生はどこの寮にも配属されないというアクシデント。今年は違った意味で退屈はしなかったが立ちっぱなしというのも辛い。
兄の「式典服はきっちり着こなしなさい!」という声が頭の隅から聞こえ、反射的に少し緩んでいた胸元を整える。(これぞ兄の指導の賜物…)
部屋に着くまでが式典ですね…わかります…。
館の扉まできたところ、中から声がきこえた。異変を感じて眉間にシワがよる。
この館は廃れている他に、いたずら好きなゴーストが住み着き、生徒が誰も寄り付かないのが常。だから中から声がするのはイレギュラーなのだが、どこぞの新入生が寮を飛び出して探検しにきた可能性もなくはない。(非常にやめてほしい。こちとら眠さの限界なんだ)
眠さに任せて怒りすぎないよう意識し、扉を開けるとなんと学園長と例の非魔法族の新入生と毛玉がいた。予想外の展開すぎて驚きの声すら出なかった。
「そういえばそうでした!ここは貴女が使っていたオンボロ寮。…あ、いえ、けして忘れてはいませんでしたよ。生徒がどこで生活するか管理するのも学園長の務めですし…」
「どのようなお話でしょうか学園長」
すっかり綺麗に忘れていたであろう学園長にムッとしながらも、ここに例の新入生と毛玉がいる理由を尋ねた。
「ここ、オンボロ寮の部屋をひとつ、新入生くんとグリムくんに貸したいのです。先に住んでいる貴女に承諾を得ようかと。よろしいですね」
「断ることはありませんが、ひとつ彼らにルールをつけることは可能でしょうか」
「ええ、もちろん。先に住んでいる貴女の特権です」
「私の部屋がある、2階は出入り禁止にします。貴方の部屋は1階にしますし、談話室も1階にあるので2階に上がってくる理由はありませんが念のため」
新入生君は素直に頷いたが、毛玉は2階に何かあるのか、秘密が何かあるのかと騒ぎ始めた。あー、絶対これは来るぞ、隙を狙って2階に上がってくるパターンだ私は知っている。こいつ学園に放り出されたはずなのに戻ってきていることが証拠だ。
それにいつもならゴースト達が珍しい客だと集まってきても良いはずなのにやけに静かすぎでは?静かな分調子が狂うが良いことなので良しとしよう。学園長か新入生あたりが何かしたんだろう。
「貴女にも無事許可いただけましたし、新入生とグリムくんは明日からナイトレイブンカレッジの雑用係として励むように!」
(雑用係?!)
颯爽と出て行った学園長を見送るしかできず、唖然とする。
新入生はまだしもこの毛玉も?!雑用係だって?!
火事にしかならない気がする…!雑用できるのか?雑用の意味わかります?
「…あの、自分はどの部屋を使ったらよいでしょうか…」
おずおずと申し訳なさそうに聞いてくる新入生。1階であればどの部屋使ったっていい、と言いかけたが、どの寮にも属せず、魔法も使えず、この学園で自分がどれだけ浮いているのかわかったのだろう。自分の寮もそうだが、この時間も他の新入生は少しずつ同期と仲良くなっている。
そう思うと今は生徒同士ではないが、どうしても放っておけなくなってしまった…。
「毛玉くん、早速規則破ろうとするのやめてくれる?罰則つくるからそのつもりで。2人ともついてきて。談話室や掃除用具場所も教えるから自分でやってね」
隙を狙っていこうとする毛玉の後ろ首を掴んで、新入生を連れていく。
あちこちぼろぼろだが、まだ状態良さそうな部屋を選び、魔法でベットだけホコリを払ってあげた。彼もアクシデント続きで疲れているだろうし、これくらい手出しはしても良いだろう。
「お前がオンボロ寮に住んでいるのに、あちこちホコリまみれできったねーんだゾ。ゴーストもいるのによくここにいられるなー」
灰色の毛玉が自分の前足の裏側をみて、あまりの白さにギョッとしていた。
不覚にも可愛いと思ってしまう。どこか遠い海のお話で、黒猫がホコリだらけの部屋で真っ白になってしまうと慌ている話を思い出した。同じシチュエーションで笑いがこみ上げる。
「逆だよ。ゴースト達がいるからこのままにしているのさ」
「ゴースト達がいるから?」
新入生がクローゼットを開けて中をチェックしていた。
扉が閉じていたお陰でホコリは少なそうだ。先ほど学園長からもらった寝巻に着替え、来ていた服をクローゼットにかけた。
「ゴースト達が先に住みついていたから、私が、一緒に住まわせてもらっているのさ。先輩を追い出すのはおかしな話だろう?」
先輩、という言葉に二人は怪訝な顔をする。
中にはナイトカレッジの卒業生だっているぞ。あながち間違いじゃない。
「オレ様、こいつとゴースト追い払っちまったゾ」
ふふん!と胸張っている猫の向こうで、新入生が事情を話してくれた。
ゴーストたちが脅してきたので、毛玉(グリム)が火を吐き、追い出してしまったらしい。
まあ彼らのことだ。明日には何事もなかったかのように戻ってくるだろう。
ベットに座りながらうつらうつらしている新入生が目に入った。
だいぶ夜も深い。やっとの思いで雑用係を任されたんだ、早々遅刻はさせられない。
「風呂場は明日起きたら案内するから、君はもうおやすみ。ちょっとカビくさいかもしれないけど今は我慢だ」
グリムに新入生を任せて自分は部屋に戻る。
明日は登校時だけでも見張っているべきだろうか、いや、そこまでする必要はあるのか?
また何かしでかして巻き込まれるのがオチな気がする。
明日のことは明日考えよう。おやすみなさい。