あの人が、私を好いてくださいました
一寸の曇りも無い 鮮烈な眼で
私を見詰め、唯今 あの人の腕に
抱かれているのだと認知した時
私の中の混沌とした総ての淀みが
緩やかな円状に成って 滑り落ち
薄闇と解け合い
充塞の内に 消失してゆく心地がしました

此まで 私に纏わり付いていた
有らゆる事象に因って産まれた 残痕は
全身が粟立つ程の 途方も無い幸福感に
聲を上げて慟哭する暇も失い
小さく蹙まり 縹渺とした闇の床上に
静臥して 死にました

何の美徳も芸才も持ち合わせていない
此の私が あの人の心に 体温に
魂を掬われている…
此の一刻は、恋心に仄めいた 甘美な夢なのか
それとも…現か?

いいえ…喩え 神様、仏様の気紛れだと識っても
此の一刻、斯うして 貴方に相見えた事だけは
後生大事に 此の 胸の内に
焼き付けさせておくんなんし


恋心


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