24.04.16 Sun




俺のアパートは、最寄駅から徒歩で15分位かかるところにある。そのたった15分が結構きつい。その分早くアパートを出なきゃならないし、ただ歩く時間って勿体無くない?
住宅地だから、近所で遊ぶ子どもの声とアパート前の歩道を行く人の話し声が聞こえるくらいで、割と静か。駅からアパートまでの道のりに商店街もコンビニもあって便利。それと、新築だったから、ここに決めたの。キレイなほうがいいでしょ?

201号室の鍵を開けて、狭い玄関でスニーカーを脱ぐと、居間のテレビ前に置いてあるソファに直行する。スマホをポケットから取り出す。部屋に掛け時計なんて無いから、アイフォンで時間を確認する。今、12:51。それから、大量のライン通知。さっきまで一緒にいた伽菜、双子のトモと滋、バンドのドラマーの千佳、友人経由で知り合った音々、バスケサークルで一緒の宏太、国際学部の莉子とか柚樹とか菅くんとか、その他大勢。伽菜と過ごすときは、なるべくスマホを弄らないようにしてるから、いつものように通知がたまってた。

トモと滋のグループラインに返信したら、すぐに既読になって返事が来たので、少しやり取りする。内容はマジでくだらない。滋が昨日着てた服のシュミが狂ってるとか、トモのプラモデルがもう完成しそうだから写真送るとか、明日の4限のクソつまんない教授の講義の後にどこ行って何しようかって。そうこうしている間に自称寂しがりの音々からまたラインが来たので、合間に返信する。音々は今彼氏いないからって言ってるけど、こういう女のコの言うことは素直に信じるべからず。

なんとなくノドが渇いたので、ソファから起きあがって文字を打ちながらキッチンに足を運ぶ。冷蔵庫から500mlペットボトルの炭酸飲料を取り出して、口に含むとスカッとする。また指を動かす。

隼人へのライン:次の土曜夜の合コンは何時にどこ?待ち合わせできる??

喉を潤したら、腹が空いていることに気づいた。だけど、キッチンテーブルの上には、あるはずの料理が無い。

もう13時過ぎなのに。今日はおばさん家に泊まりだっけ?

ルームシェアしている伊兎の部屋に向かうと、大抵は開いている木製のドアが閉じられているので、ノックして呼びかける。

「イトぉ、居る?メシどこー?」





――反応なしです。マジで帰省中だったのかあ。それなら帰る前に俺に一言言っといてくれよ。昼飯買ってこなきゃじゃん。



財布取りにいこーと。

「ごめん、アオ。作るの忘れた」

ドア越しにくぐもった伊兎の声がした。居間に向かっていた足を止める。なんだ、いるんじゃん。

「作るの忘れたって、自分も食べてないの?」

「うん、まあそんな感じ」

「腹空かねーの?」

「なんか食べる気分じゃなくて」

伊兎が昼飯を作り忘れたなんてこと初めてじゃないか?これは何かあったかもな。でもいーや、聞くの面倒だから。

「ふーん。じゃあ俺昼飯買ってくるわ」

「うん。ほんとごめんね、アオ」

「全然いいよ。明日また作ってね」

「うん、分かった」

ドアの前を去る。居間に財布とスマホを取りに行ってから、外に出る。





俺は昔から伊兎が苦手だ。理由は単純。だって暗いから。俺とはまったく性格が合わない。口数も少ないほうで、何考えてるか全然分かんないし。

それでもルームシェアしているのは、伊兎が俺のマタイトコで、彼の心配性の母親から、蔦子さん経由で同じ大学に通う俺に一緒に住んでくれないかって頼まれたから。蔦子さんは俺の母親ね。俺たちの両親は仲良いの。
伊兎は大人しいし、干渉してこないから、ルームシェアするくらいいいかなって。だから会話は最小限で、できるだけ自分たちのプライベートにお互いを関わらせないようにしてる。

ただ、料理上手な伊兎は、俺の分もどうせだからって昼飯をいつも作ってくれる。

ただ、それだけ。
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