27.04.16 Wed
窓から吹きこむ春風のあたたかさに微睡みながら、伽菜の肩を優しく抱いてやる。耳元で囁く。伽菜が世界で一番大事だって。そうする度に、俺の腕にちいさく収まっている彼女は、知ってる、と呟く。
彼女の部屋で、ふたりだけの時間。
「わたしね、両想いになれたの、葵が初めてだよ」
「あ、そうなんだ。知らなかった。......それ、超嬉しいね」
「だからすごく幸せなの。......ラブソング弾いてるとね、自然と葵の姿が思い浮かぶよ」
「マジ?」
「かなりハズいけど」
「あはは。可愛い、伽菜」
素直にそう思ったので告げると、おもむろに伽菜が俺から離れて、何故か姿勢を正した。これから大事な話をします、みたいな。え、なにを言われるんだろう、俺。
「......あの、えっと、だから......、葵の前で、......葵のこと想って、弾き語りをしてもいいですか」
え、なにそれ。......いま、内心超テンション上がってる自分がいるんですけど。。
「ほんとに?歌ってくれるの?......これは動画に収めなくては」
「ヤメテ。ただでさえ恥ずかしいのに」
伽菜は部屋の片隅に置いてあったギターを持ってきて、再び俺の横に腰掛ける。
「マジで超幸せ。なに歌ってくれんの?」
「えっとーー。今練習中の、The Only Exception。パラモアの」
「伽菜好きだもんね、パラモア」
「この曲が特に好きなの。メロディー優しいし、歌詞にすごく共感できて。......じゃあ、弾くね」
ギターを構えた伽菜は、白くて綺麗な指で弦を弾く。美しい和音が2人の空間に満ちて、澄んだ透明感のある声がそれに混ざり合う。
歌声が伝えてくる。あなただけは例外なの、私のたったひとりの特別なひとーー。
4月の麗らかなこの午後、彼女のこのアパートで、俺のために歌っている伽菜の姿を目に焼き付ける。
そう、ふたりきりの時間だったのに。
サビのメロディーラインをぶち壊す、スマホの着信音。
雰囲気を台無しにされた旋律が止む。伽菜が切れ長の目で恨めしげに俺を見つめる。
「うわ、伽菜、ごめん!すぐ切るから!」
「......いつも電源切ってくれるのに、今日は忘れちゃったの?」
「マジでごめん、伽菜」
「いいけど......」
鳴っているアイフォンをバックパックから取り出して、電源を切ろうとするが、ディスプレイに映るやや珍しい相手の名前に、切るべきかどうか一瞬戸惑う。
画面に表示されている名前は蔦子さん、俺の母親だ。
ーー本当に重要な用件のときにしか、電話してこないのに、どうしたんだろう。
だけどその迷いは一瞬で、俺は今目の前にいる大事なひとを優先させることにした。蔦子さんには申し訳ないけど。
電源ボタンを長押しする。
「出なくていいの?」
「いいよ、後でかけ直せばいいから」
「......なんかごめんね」
「いや、謝んないで、完全に俺が悪いから。......もしよければ、もう一回、俺だけのために弾いてくれる?」
伽菜は、気を遣わせないようにか、仕方ないなあ、葵は人気者だもんね、皆のものだもんね、と拗ねたように呟きながら再度構える。
「......仕切り直し。葵のために」
謝罪と感謝の気持ちを感じながら、愛の唄に心を委ねる穏やかな春の午後。
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