01.05.16 Sun
友だちと会うのが、こわい。
知り合いと会うのが、恐い。
学校にいくのが、怖い。
他人に頭のなかを読み取られてる気がして。
24時間、自分のことを監視されている気がして。
おれの秘密が暴かれている気がして。
BMI、脳科学、思考盗聴、ほのめかし、組織、人権侵害、人体実験。
統合失調症。
そうなの、へぇ、ふぅん、そっかぁ。
言うべき言葉が、重たい単語たちの下に埋もれてしまった。
伊兎の話を聞いたあと、奴の異変を即座に蔦子さんに報告。俺の手に負えないし、みゆきおばさんが心配しているだろうから。
ーー俺は、伊兎が頭のなかでそんなことを考えていたなんて、今まで全く知らなかった。
正直、ドン引きした。
「あっ、アンニュイな葵もイイねークルねー!頬杖なんかついて遠い目しちゃってぇ、ちょう萌えるぅそのまま、ストップ・モーション!!」
俺は滋の言いなりに動きを止め、昨日の回想を中断する。
滋の手元に目をやると、ノートブック上をすばやく走る鉛筆は、ひとの輪郭を描いていた。大胆に黒い線が引かれていく。
俺たち3人がいるのは午後3時のスターバックス。それぞれがスタバラテ、アメリカーノ、焼きマシマロのフラペチーノを頼み、角のテーブルを陣取っている。
「はぁ、かわいい、マジでかわいいよー葵。なんで野性味ダダ漏れのくせに危うい幼さも残ってんのぉ!?」
「......なあ、そういうカマっぽい発言やめてくれる?」
滋は動かしていた右手を止め、目を細めて隣のトモを見遣る。全身をチェックするようにジロジロ眺めると、溜息をひとつつく。その視線にも関わらず平然とアメリカーノを啜るトモは、黒のシンプルなジャケットを羽織り、ダメージジーンズを履いている。指や耳には、ゴツゴツとしたシルバーのもの。
「あーあ、葵と違ってウチのおにいちゃんはシュミ悪いなあ、センスってものが感じられないよ。ブランド物着てりゃあそれでいいと思ってんでしょ」
「はあ?おまえのセンス≠アそ生理的にムリだね。そのカマっぽいピンクのトップスどうにかしてくれよ、そのヘンなダテメガネも、それから何か黒光りしてるそのピチピチズボンはもう履くな」
「これはスキニーパンツっていうの、シャイニー素材で可愛いじゃん!トップスだって、クマちゃん柄でキュートでしょ、ねえ、葵?」
「ねえねえ、ケンカはじめちゃったよー、イケメンくんたち」
「はあ、イライラしてる姿も絵になるわぁ、モデルみたい」
「どっちがタイプ?私断然黒いほう!」
「私ピンクかな。ずるいよねー、男のくせにあんなキレイな顔であの可愛さ」
「こっそり写真撮らせてもらお」
周りのJKとオトナ女子の視線をくぎ付けにするイケメンっぷり。まるで芸能人か何かのようだ。声を落としていても彼女たちの言葉はバッチリ聞こえているが、これが双子の日常なので、倶嗣も滋も女の子たちをまったく気にしていない。
俺は例によってちょっと落ちこむ。
「ねえ、葵、聞いてる?」
滋は小首を傾げて俺の顔を覗きこむ。
イエローの、二重の円形レンズから、すずやかな目元が透けて見える。
「聞いてる聞いてる。可愛いよ、滋。そのトップス、×××のやつでしょ?滋っぽくていいね。スキニーも、足細いから似合うよ」
「ほんとに?......葵ぃ......」
滋は俺が撫でやすいようにこちらに頭を傾けてきたので、金髪を掬いながら撫でてやる。
「チッ......、なあ、さっきから周りうっさくねぇか?」
そこで初めて倶嗣が周りを気にしだした。俺たちと同年代くらいの女の子のグループを目でロックオン。倶嗣がひとりの女の子(グループのなかで一番可愛い)に目配せすると、嬉しそうな彼女とトモの視線がかち合う。
「葵、いっしょにいくぞ。」
ドリップコーヒーを置いた倶嗣は即座に席を立つ。
俺も滋の髪をいじっていた手を引っこめる。
「喜んでー」
二人して席を立つ。すみっこに取り残された滋は、瞳を書きこんでいた鉛筆を置いた。
「ちぇーっ」
甘ったるいフラペチーノを啜りながら、二人に囲まれるロングヘアの女の子を睨めつける。
「おれのほうがカワイイもーん」
さっきまで撫でられていたピンク色の毛先に指で触れる。手のひらの感触が、残っている気がして。
「......おれの葵、とらないでよぉ......」
誰にも聞かれない本音が、口から滑り落ちた。
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