グッバイ、ハッピーエンド

※ 「ハロー、ナイトメア」の2人の出会い編です。



「ツナ、就任おめでとう。」
「名前さん。来て下さってありがとうございます。」
「そんなかしこまらないでよ。家光さんから聞いてると思うけど俺もボンゴレ10代目のファミリー、ツナの部下って事だからさ、何でも言って。」
「すみません父さんが好き放題言ってて…でも名前さんが来てくれて心強いです。」
「あはは、そりゃ良かった。」

煌びやかな装飾と豪華な食事。沢山の人々が仕立てのいいスーツやドレスで着飾り今日という日を祝っていた。今日は、ボンゴレ10代目就任記念パーティ。日本好きのボンゴレと10代目当主が日本人な事もあって開催は日本で行われた。ボンゴレの人間は勿論、ヴァリアーやCEDEF、同盟ファミリーももれなく勢揃いしている。平和な日本にこれだけの人間が集まる事は早々ない。中でも注目されるは今日の主役である本日付でボンゴレ10代目になった沢田綱吉ことツナとその守護者達であった。

「守護者の人らとは俺会ったことないんだよねぇ…。」
「じゃあ紹介しますね。」

ボス直々の引率で挨拶回りという何とも贅沢な事をしていると嵐の守護者である獄寺に怒られた。雨の守護者の山本もマフィアなんか向いてないだろって思わせるようないい奴だった。まあボスであるツナも大人になったとは言え根は優しいままでマフィアには到底向いているとは思えない。だからこそ集まった守護者達なのだろうし俺が呼ばれたのだろう。

晴れの守護者の笹川は煩いぐらいに明るくて、雷の守護者のランボはまだ幼いのにきちんと自分の役割を理解しているようだった。霧の守護者である骸は不在で代わりにと可愛らしい女の子を紹介された。健気にボスであるツナを慕っている様で微笑ましいなと年寄り臭いことを思ってしまう。どうしてもCEDEFだと歳が近いのはバジルぐらいしか居なくて、彼とは仲も良かったがいくつか年は離れていた。そのせいで弟の様に思って扱ってしまっては良く彼にその都度子供扱いを怒られたものだ。多少歳下とは言えこうして同世代が多いと言うのは新鮮で慣れない。

「あれ、雲雀さん居ないな…。」
「雲の?」
「はい…どこ行ったんだろ。」

ツナの言う通りそれらしき人は周りに見当たらない。ツナと共に探して見るけれど俺はその雲の人を知らないからイマイチ探しにくい。辺りを見回し、ふと、テラスが目に入った。大きなガラス越しにテラスの手摺に凭れ外を眺めている人を見つける。建物内の漏れた光が艶やかな黒髪を綺麗に染めていた。遠くからでもその顔がとても整っているのが分かる。きっと彼が。

「ツナ、あの人じゃない?」

そう言いながらテラスの方を指差すと横のツナが安心した様な溜息を洩らした。

「雲雀さん。」

ツナに続いて建物からテラスに出て雲の守護者らしき人に近く。近付けばより鮮明に彼の顔が見える。背後に夜空を背負うその姿はなんとも神秘的で今日この空は彼の為にあるんじゃないだろうか、なんて馬鹿なことを思ってしまう。闇に溶けそうな黒を纏いながら存在感が絶対的過ぎる。

あ、駄目だ心臓がバクバクしてる。

「誰、それ。」
「えっと、苗字名前さんです。元CEDEFでこれからはボンゴレのサポート、と言うか俺のサポートお願いする人です。これから顔を合わせることもあると思うので…。」
「ふぅん…?強いの?」
「えっ、いや、俺そこは詳しくないです…。」
「じゃあ興味ない。」
「相変わらずですね……名前さん、こちらが雲雀さんです…って名前さん?」

目の前が遮られてからようやく自分が彼に見惚れていたと気付いた。心配そうに俺の目の前で手を振るツナに気付かない程だったなんて恥ずかし過ぎる。

「雲雀…下の名前は?」
「…恭弥。」
「そう、恭弥。良い名前だね。」

雲雀恭弥。見た目に違わず綺麗な字の羅列をしている。多分いくつか年下の筈なのに自分が情けなるぐらいに背は高いし体は綺麗なラインを描いている。恐ろしいぐらいにカッコいいと思ってしまった。今まで自分は女性が好きだった筈なのに一瞬で塗り替えられてしまった。いや男が好きと言うわけでもないけれど。ただ目の前の彼に俺は、いわゆる一目惚れというやつだ。

俺は日本人だけれど生憎海外生活の方が長かった。奥ゆかしい性格なんて持ち合わせていない。好きになったらガンガン押せだ。男だろうが関係ない。好きにさせればこっちのもの。名前は聴けたから馴れ馴れしく行くぞ俺は。

「ねぇ、いつまで僕の目の前を彷徨く気?」
「ひっ。」
「これから一緒にボンゴレファミリーの一員になるんだから親睦を深めようと思ってね。」
「…は?僕はボンゴレなんて組織に入った事なんて無いけど。」
「ん?」

俺の軽いはずの一言に恭弥は一瞬で空気を凍りつかせた。助けを求める様にツナを見ると彼は焦りつつも慣れたように説明し出した。

「雲雀さんは…その、風紀財団という組織で…。必要な時に仕事をお願いしていると言うか……。」
「へっ?」

詰まる所ボンゴレに居ても恭弥と一緒に居られないらしい。出会った瞬間自分達が同じ仕事で組織で感謝したら違いますなんて事あるのか。ボンゴレのパーティじゃないのかこれは。と言うかそれで良いのか守護者なのに。まあそこはツナがボスだからと言うのも大きいのだろう。優しいツナがボスだとこう言う自由が許されてしまう。けれど今更そこを嘆いても仕方ない。俺もツナのそういう所は気に入っているし全く恭弥もボンゴレと無関係な訳ではない。俺は決めた事には一直線なんだ。

「なら俺もその風紀財団とやらに入れてよ。」
「何言ってるんですか!?」
「これ以上人が増えるのは御免だ。」
「でも恭弥のこと好きになったから側に居たい。」
「はぁっ!??」
「君頭おかしいんじゃない。」
「一目惚れだよ。抗えるものじゃない。」
「抗ってくれない?」
「名前さん本気で言ってます!?」

肯定の意を込めてニッコリと笑う。ツナからは「父さんになんて言えば…。」なんて聞こえる。いや、申し訳ないと思うよ。所属初日で転勤願いなんて。俺もそんなつもりなかったけれど。ボンゴレに生涯尽くすつもりだったけれど、そんなの構わないと思ってしまう人に出会ってしまった。この格好良さにはきっと誰も敵わない。彼程俺を惹きつける人はきっと現れない。それはもう本能的に。

「俺、自分で言うのもあれだけど家光さんに育てられただけあってそこそこ強いと思うよ。」

さっき薄っすらと聞こえたツナと恭弥の会話を参考にどうにか恭弥の気を引こうとする。案の定、見た目の割に幾分か単純な思考をしているらしい恭弥は俺を見定めようとしている。

「……。」
「悩むんですか!?」
「まあ何にしても引く気は無いよ。」
「僕も君なんかを入れる気は無いよ。」

悩んだけれど流石に納得はしてくれないみたいだ。確かについさっき会ったばかりだしお互いの事を全然知らない。俺もろくに自己紹介もしていない。惚れた相手に礼儀知らずの大人なんて思われて堪るか。早鐘を打つ心臓に気付かれない様に顔は赤く見せない様に、余裕ぶって年上の威厳をなんとか保たねば。

「改めて自己紹介でもしようか。俺は苗字名前。元CEDEFからボンゴレに移動。今は風紀財団への移籍を希望中。恋人は居ないけど恋人にしたい人は居るよ。好きな人は雲雀恭弥。よろしくね。」

そんな嫌そうな顔になんか負けないぞ俺は。