SS詰め

原作知識のみ。
1.キッド
2.コビー
3.スモーカー
4.アイスバーグ




「魔女」(キッド)
※キッドの口紅の由来を捏造


ソイツは魔女みたい、ではなく魔女であった。
魔法使いなんて可愛いものでもなく、正しく禍々しい魔女であった。

その女は唐突に俺の目の前に現れて、俺の口に赤を残した。
まだ年端も行かない頃の俺に、年齢さえ明かさない女はその口をにんまりと上げ愉快そうに俺の人生を狂わせた。
細い指が小さな容器から赤を掬い上げ俺の口をなぞる。
俺は指ひとつ、瞬きひとつ動く事が出来なかった。
人生においてこれ程身動きが取れないのは、この魔女の前だけであった。
恐らくそれは魔女の使う力に違いない。
この俺が動けないなんてそれ以外にあり得ない。

俺の口が赤く彩られているのを怪しく楽しそうに笑う魔女はきっと俺の天敵なのだ。

「貴方にはこの赤が似合うと思ったのよ。」

なんて意味の分からない事を言う魔女を野放しには出来ないから、敵にならない内に魔女を手元に置いてやる事にした。
毎日毎日、飽きもせずその赤で俺を彩る魔女は俺の動きを止める力しか使えなかった。
魔女は魔女でも出来損ないなのだ。
そんな放っておけば死にそうな魔女は、気付けば海賊になった俺の船にまで着いて来ていた。

船の上でも飽きもせず、毎日船の揺れをものともせずに、ただ楽しそうに丁寧にその赤を俺に彩った。
どれだけ年月が経っても俺がこの時動けた試しはなかった。

ああ、なんて忌々しい魔女か。
こいつはいつまでも俺の天敵なのだ。



ある船員曰く。

「あの日のキッドを俺はたまたま見ていたんだが、塗られた口紅に負けないぐらい全身真っ赤だったぞ、ファッファッファッ。名前さんの年齢?さぁ…年上ってことしか知らないが、若く見えるのはただの童顔らしい。」







「英雄」(コビー)
※ロッキーポート事件とその時のコビーの階級捏造


実際の戦場に出てる彼等には失礼かも知れないが、食堂だって私にとっては戦場同然だ。

朝から晩まで絶えず必要になる食事。
それも海軍なんて身体が資本なもんだから一人一人の食べる量も尋常じゃない。
階級によって空く時間もバラバラだから何時でも食事を提供出来る様にしなければ成らない。
毎日毎日筋肉痛になりそうな程、ひたすらに大量の料理を朝から晩まで作り続ける。
おばちゃん達の指示や叱咤が飛び交い、海賊と変わらない騒ぎ方や罵声を飛ばす海兵。
食器が宙を舞うなんて日常茶飯事だ。

私の戦場。
それは職場でもある、この海軍本部の食堂だ。

私がここで働いている理由は親が海兵だから、ただそれだけだ。
このマリンフォードで生まれ育ち、他の島のことなんて殆ど知らない箱入りの娘を心配した親が決めただけ。
本当は他の島にだって行ってみたかったし食堂に現れる大柄な海兵も怖くて直ぐ辞めたかった。
それでも数年経った今もこの仕事を続けられているのは、荒んだ毎日をちょっとだけ救ってくれる彼のお陰でしかない。

「いつもありがとうございます!」
「お、お疲れ様です…!」

誰もが好きに食事を手にして配膳してる人に微塵の興味もない中、毎回素敵な笑顔と共にお礼を言ってくれる海兵さん。
別に感謝されたい訳じゃないけど、でも海兵さんの「ありがとうございます」を聞く度に私はまた少し頑張れるのだ。
よく一緒に居る金髪の人が彼をコビーと呼んでいたから、実際に呼んだ事は無いけれど勝手に名前を覚えてしまう程には好印象。
毎日、今日は来るかなと楽しみにしてるのも事実。
最早最近はコビーさんに会えるかと思いながら働いてしまっている。

「ロッキーポートの話は聞いた?なんでもコビー少佐が大活躍だったらしいわよ。まるで英雄の様だったって。まあ、流石に結構な怪我を負ったって聞いたわ。」

だから唐突にそんな風に、なんて事のない様に同僚のおばちゃんが言った言葉に私の背筋は凍りついた。

どの程度の怪我なのか、意識はあるのか。
何か私に出来ることはないだろうか。
そんな親密な関係でもないのに烏滸がましくも彼を心配をし、碌に仕事も手に付かなかった。
一介の食堂で働く人間に、ただ1人の海兵の情報など知りようが無い。
何日も現れないコビーさんを、今日こそは来るだろうかと思うことしかできない。

毎日、何日も、何週間も現れないコビーさんに不安ばかりが募っていたから。

「あっ、」
「あ!お久しぶりです!今日もありがとうございます!」

そう言って数週間振りに唐突に現れたコビーさんを見て泣きそうになった事は許して欲しい。
幸いにも昼過ぎの今は然程人も居ないから、思わず普段はそれ以上の事なんて話さないのに久しぶりに会えたコビーさんとの会話が惜しくなった私はつい口を開いてしまった。

「けっ怪我は…大丈夫ですか?」
「はいっ、本当はもう少し早く復帰出来る予定だったんですが…ガープ中将に鍛え方が足りん!と扱かれて傷が開いちゃったんですよね…。でもこの通り。もうすっかり治りましたので!ご心配ありがとうございます。」
「…ロッキーポートでは英雄の様な活躍だったと聞きました、お疲れ様です。」
「いえっ、そんな!英雄だなんて畏れ多いです…僕は当たり前の事をしただけなので。」

彼はそう謙遜した。けれど。

「コビーさんは英雄ですよ、私にとっては前から。」
「えっ、」
「コビーさんの下さる"ありがとう"に救われてるんです。それが嬉しくてここで働けてるんです。私こそ、いつもありがとうございます。」
「、」

ポカンとしてるコビーさんはいつもより幾分か幼く見える。
そんな様子が失礼だが可愛く思えて思わず笑ってしまう。

「…なら名前さんは食堂の英雄ですね。」
「えっ、何がです!?というか、え!?何で名前っ…!?」

その時の私はろくに会話した事がないのに自分の名前を知られていた衝撃や覚えのない呼ばれのせいで、その時のコビーさんの優しい笑顔を目に焼き付けるのをすっかり忘れてしまったのだ。







「意気地なし」(スモーカー)


「たしぎちゃーーーん!」

そう叫びながらスモーカーの執務室に入って来たのは少将、名前であった。

「コレ、お土産。W7の新しい名産らしいよ。」
「え、わっ、ありがとうございます!遠征お疲れ様でした。」

名前はたしぎの綺麗な敬礼を解かせるとそのまま抱き着いた。
ままよくある事なのだが勤務中な事がたしぎの動揺を誘う。

名前はたしぎを妹の様に可愛がってくれている。
それはたしぎが新兵として上官である名前に出会った頃からずっとだ。
女として、海兵としての歩み方を教え、鍛え、そして可愛がってくれて来た。
ただでさえ少ない女海兵の中でも歳の近い親切な名前にたしぎが懐くのは必然で、たしぎも姉の様に慕っていた。
たしぎにとって名前は尊敬する上官であり、憧れの姉なのだ。

「…おい、誰の部屋だと思ってるんだ。」
「す、すみません!」
「私はたしぎちゃんにお土産渡したくて来たのよ。貴方に用はないわ。」
「ぁあ?」

そう、ここはスモーカーの執務室。
例えスモーカーと名前が昔馴染みであってもスモーカーの方が階級は上。
直属とは言え上司の目の前で、自分だけお土産を渡され抱きつかれているたしぎは一応勤務中だ。
スモーカーが怒るのも仕方がないが、たしぎは自分を挟んで喧嘩は始めないで欲しいと逃げたかった。

「何?スモーカーもお土産欲しかったの?」
「そういう話じゃねえ!」
「後でクッキー分けてあげるから、ね?3人でお茶しましょう。」

しかし、たしぎは知っていた。
スモーカーが本当はお土産がない事を気にして、たしぎに嫉妬している事を。
だからいつも名前からお土産を貰う時、たしぎは嬉しさと同時に上官からの視線で胃が痛くなる。

「大体お前はいつになったらこっちの隊に移動するんだ。」
「だからしないってば。」
「おい、たしぎからも言ってやれ。」
「え、えぇ!?無理ですよ!!そりゃ名前さんが居たら嬉しいですけど…。」
「…ほら妹もこう言ってるぞ。」
「たしぎちゃんとは働きたいけど、嫌よ。貴方の下は。」
「チッ…。」
「ほら、たしぎちゃん。お茶淹れに行きましょう。」
「はいっ。」
「おい!うちの部下を使うな!」

スモーカーの怒鳴り声を聞きながら名前に連れられて執務室を出る。

たしぎは知っている。
スモーカーが名前を好きな事を。
だから昔馴染みだから、戦い易いから、たしぎの姉だから、仕事が出来るからと何かと理由を付けて自隊に引き込もうと何度も申請だってしている。
けれどそれは名前本人からの辞退により通った事が無かった。
言い合いをしていても仲が悪い訳では無かった。
お互いただの軽口でそれが2人のコミュニケーションだった。
偶々同じ戦場に立った時も息がピッタリで後ろから見ていたたしぎは惚れ惚れとしたぐらいだ。
態々執務室に来るぐらいだ。
名前だってスモーカーを嫌いではないだろう。
なのに何故、頑なにスモーカーの部下になる事を断るのか。
何故、移動はしないのに昇級も断っているのか。

「…名前さんは何でスモーカーさんに、お土産、用意しないんですか?」
「だって渡しちゃうとお茶が出来ないじゃない。スモーカーに渡すと一人で食べちゃうわよ。」
「じゃあ、何で移動の件断るんですか?」
「……私、スモーカーが私の事好きなの気付いてるの。」
「えっ、」
「私も好きなのよ。」
「えぇ!?」

給湯室に向かう途中の静かな廊下なのに、思わず声を上げてしまい慌てて口を手で塞ぐが突然の事実に無関係のたしぎの心臓がバクバクと鳴り出した。
両思いなのであれば、尚のこと何故という疑問が尽きない。

「私ね、自分からは言いたくないのよ。でもあの男も言う気が無いでしょ?なのに部下になれって、手元に置いてそれで満足しちゃうでしょ。そんなの嫌よ。」

いつも強く凛々しく美しい姉が初めて見せる恋する乙女の顔。
なんとなくこれを、思いを告げずに部下にしようとする上官に見せるのは勿体無い気がした。

「だから絶対今はスモーカーの部下になんてなってやらないわ。もし…ちゃんと言えたら部下になってあげるの。」

悪戯げに笑う姉はとても可愛くてもう暫くこの事は上官には秘密にしようと思った。







「新秘書問題」(アイスバーグ)
※新秘書就任後


ここは水の都ウォーターセブンの造船会社、ガレーラカンパニー。
トンテンカントンテンカンとトンカチが音を奏でる中、今日も今日とて社長のアイスバーグは業務に励んでいた。

「ンマー、飽きた。」

若き秘書に睨まれながら一枚、二枚と書類を捌く最中、社長室の外がバタバタと騒がしくなる。
そしてその正体は一体なんだと考える前に扉を開けて現れた。

「アイスバーグさん!どうして新しい秘書が私じゃなくてこんな女なんですか!?」
「…とりあえずノックはしなさい。あと子供に向かって女とか言わない。」
「でもその女アイスバーグさんの秘書なんですよね!?仕事ですよね!?なら一人前として話をします!なんですかこの女!あとノックはすみません、やり直します。」
「……悪いな、名前が。」
「問題ありません、この後の予定はキャンセルでよろしいですか?」
「本当に出来る秘書だよお前は……。」

コンコン

「失礼します!」
「入れ。」
「秘書を新しくしたと聞きましたが何処の馬の骨とも知らない女より私の方が良く無いですか!?というか私も秘書やりたかった!!」
「最初より酷くなってないか。」
「コントですか。」

名は名前。
女ながら男に負けず造船に携わるガレーラカンパニーの一社員である。

「どうして!私じゃ駄目なんですか?」
「ンマー…、確かにお前は美人で気立もいいし何より良い足をしてるが。」
「セクハラです社長。」
「なら…!」
「だが頭が良く無いだろう。」
「っ!!!!!」
「しゃちょー、馬鹿が来てませんか。」
「パウリーか、名前ならここだぞ。」
「オラ、帰るぞ馬鹿。」
「パウリーだって馬鹿でしょう!」
「うるせえ!馬鹿は秘書なんて諦めて船造りやがれ!」
「だってぇ〜っ……!」
「諦めろ、お前の恋は実らんっ。」
「これ俺は聞いてて良いのか?」
「ハッ…!」
「あ、悪い。」

全く悪びれた様子のないパウリーを腹いせに叩くが羞恥で力が入らないそれは威力半減だ。
名前は別に側に居れればそれで良かったのだ。
それでも近い方が良いと言う我儘で秘書に憧れた。
告白するつもりなんて無かったのにパウリーに暴露されてしまった。
この男あまりにも乙女心への理解が無い。

「なんだ名前、俺の事が好きなのか。」
「うっ、うぅ〜好きです…すみませんっ。」
「何にせよ秘書は無理だが…恋人なら良いぞ。」
「えっ。」
「は?」
「何だ、ならないのか?」
「なっなります!ならせてください!」
「アイスバーグさんあんた趣味悪いぞ…。」
「コントですか?」