HBD仙石2018

「仙石っ。」

廊下にパタパタと上靴を弾かせた音を鳴らしながら赤い頭を目指して小走りをする。俺の声に気付いた仙石は振り返るとグッと眉間に皺を寄せた。

「苗字くん、廊下は走るな。」
「仙石が走ってるのたまに見るよ。」
「……。」

俺の切り返しにぐうの音も出ないらしく先程まで真っ直ぐこちらを見ていた視線は彷徨い出した。宮村を追っかけたり堀さんに追われたりで走ってるのを何度か見かけているしあれらは割と全力だろう。それに比べれば今の俺なんて全然マシだ。と、ここで仙石に話しかけた理由を思い出す。

「って、そうだ。仙石今日誕生日なんだって?井浦から聞いた。」
「あ、あぁ…うん。」
「何も用意出来なくてさ、今度飯でも行こうぜ。」
「わざわざいいのに。」
「いやいや、お祝いさせてください。」

少し照れたようで黙り込まれる。仙石の律儀な反応は話してて嫌いじゃなかった。喜んでいるし遠慮もしている。これが他の奴らなら遠慮のかけらも無いだろう。だからこそこんな仙石に何かしてやりたいと思うのだ。

「…苗字くんの都合が悪くないのなら今日の帰りにでも行かないか。」
「えっ。」
「いや!都合が悪いなら全然…!」
「別に、余裕だけど…。」

焦る仙石のフォローも曖昧になるほど今の俺に余裕はなくて、まさかの誘いに見開いた目を戻すのに僅かに時間を要した。しかし冷静になればなるほど仙石の誘いを受け入れるべきでない事実を思い出し、先程とは別の意味で焦る。

「違う、待て、おい。」
「な、何だ。」
「お前、レミ、家っ!」
「はあ?」
「レミと祝わないのかって…!」
「放課後みんな生徒会室来るんだろう?レミはその時に祝ってくれるだろう。」
「それでいいのか……。」

忘れてた。この2人が変だということを。普通みんなで祝っても2人きりでお祝いしたいとか思うだろ。それがないのかこの2人には。それでいいのか。しかしレミと祝わないとしても仙石には一人息子を大変可愛がってる親がきちんといたはずなんだ。

「でもお前親と祝わなくて良いのかよ。待ってんじゃないの?」
「18歳の誕生日をあんなハイテンションで祝われても…。あれ喜ばれるの精々小学生までだぞ。」

不意に遠くを見つめトリップしそうになる仙石は余程家での祝われ方に問題があるらしい。勿論仙石も感謝していない訳ではないだろうが疲れるのも本音らしい。まあ17年間そんなお祝いをされてきたんだ、一度ぐらいは違った日があっても悪くはないかもしれない。

「分かった、仙石がいいなら行こうか今日。」
「ああ、…ありがとう苗字くん。」

僅かに微笑む仙石に俺は満面の笑みで返す。何を食べに行こうか。とりあえずデザートにケーキを頼んでやろう。