船に乗って数日が経った。
と言っても部屋に篭って廃材として集めた新聞や本を読んでるだけの毎日だ。船内での行動は制限されて無いが、無闇矢鱈に出歩いて私を警戒している人たちに無駄な心労を掛けるのは申し訳なかった。勿論エースや船長さん、他にも私の事など全然気にしてない人達も多いが警戒する人が居るのも当たり前だった。ご飯を食べに行く以外、殆どこの部屋で過ごしていた。そうなると体力が有り余って仕方ない。これで仕事を与えてくれればやり様もあったが特別何かしろとも言われなかった。もう数日で島に着くとは聞いているけれど部屋に篭って座ってばかりも身体が鈍り、立つだけで節々から音が鳴る。私は招かれざる客だからと遠慮していたがそれも限界だった。そもそもジッとしているのがあまり得意じゃないのだ。当てもなく部屋を飛び出し、誰かしら見つけて仕事を貰おうと一先ず甲板を目指した。近付くに連れて喧しさが増して行くのだから目的地として間違っていなかったのだろう。甲板に出て目につくのは何かを囲う人の群れだった。
「何してるんですか?」
近くに居た人に声を掛けると興奮した様子が窺えた。彼だけでなく皆んなが熱く、何やらヤジを飛ばしていた。
「手合わせだよ!」
「手合わせ?」
「なかなか島に着かねえ、戦闘も無えと身体が鈍るからな。訓練みてえなもんだよ。」
「成程。」
軍に居るのだからそれには理解があった。そして丁度良いところに私の体も鈍って居た。
「私も混ぜてください。」
「なにぃ!?」
「ワハハハッ嬢ちゃん流石にねえぜ!」
「この前は不意打ち突かれただけだからな!!」
こういう返答にも慣れて居た。そして嫌いだった。
「小娘1人にムキになるなって。」
「おいおい、あんま煽んなよ……、」
ドンッ
「次。」
「「「………ハルタが投げられたーっ!?」」」
プッツリと切れた堪忍袋の勢いのまま近くに居たハルタさんを放り投げる。それでも怒りは収まらない。呆然としたハルタさんと立っている私に向けて甲板中から視線が向けられる。騒ぎの中心はいつの間にか私に代わっていた。
「舐めんじゃねえぞー!」
そう言って突っ込んでくる動きは単調で避けやすい事この上ない。突進を横に少しだけズレる事で避け、彼の勢いをそのままに後ろから頭を地に落とす。
「っが……!」
「弱いっ!次!!」
ハルタさんと隊員の1人が倒れた事によっていよいよ戦闘体制の人に囲まれた。自ら招いた事ではあるがやり過ぎだだろうかと少しの後悔と、久々の運動に思わず楽しくなってきている。先の2人を皮切りに次々と迫ってくる人をちぎっては投げ、ちぎっては投げる。
「俺も混ぜろ!」
「エース、船燃やすなよい!」
周りが死屍累々の様になっていくと人の輪の中からエースが飛び出してきた。前回は不意打ちで呆気ない終わり方だったから私としても再戦は胸が高鳴る。
「嬢ちゃんもなかなかに変だねい……。」
目の前に立つ強敵に思わず笑った私にマルコさんがそんな事を言ってるのも気付かなかった。
「手加減すんなよ!」
「エースこそ!」
真っ直ぐ向かってくるままに右腕が振られるのが見えたから、しゃがみで避けそのまま顎を狙う。が、前に進む勢いで私が顎を当てるより早く私の上を飛び越えられる。背後から狙われるのを足を後ろに振り上げて防ぎ、側転の要領で向き合い直す。
エースは私程小さく無いとはいえ体格を活かした素早く型に嵌らない、所謂野生児的な動きだ。エースの攻撃を避ける事は可能だがそれは向こうも同じ。となると持久戦になりやすくその場合体力の差で私が負ける。だからと言って素直に負ける気はないけれど。
短期決戦、尚且つ一撃必殺。
一か八か。
「フンッ!!」
エースから再び距離を取ると同時にジョズさんの前に滑り込み足を引っ掛ける。前に傾いた勢いを利用してそのまま渾身の力で背負い投げの要領でエースに投げる。
「は、おい、嘘だろ!?」
ドンっと大きな音が鳴り下敷きになったエースの動く気配が無いのを確認すると漸く息を吐いた。中央に行くたびに巨体の少佐に絡まれ、鎧の弟を投げる日々を送っているのだ。造作もない。
「勝者、ナマエー!」
「うぉぉおおジョズが投げられたぞ!?」
いつの間にか倒れていた人たちも復活して見物人が増えていた様だ。大立ち回りし過ぎたのか騒がしい、と言うかこの人達はお祭り騒ぎにするのが好きなのだろう。
「お前らぁ、だらしがないな。」
「っ!」
「親父ィ!」
「ナマエ超強えんだよ!!」
「ジョズも投げられたんだぜ!?」
「あぁ見てたぞ。」
見られてたのか。気配を隠されたのもあるだろうけど、楽しみ過ぎて全然気付かなかった。いくらこの船が寛大だとはいえそれなりの人数を伸してしまったのは流石にまずいだろうか。
「随分楽しそうだったな。」
「あっはは…いやぁ〜…。」
「どうだ、船降りるまでこいつら鍛え直しちゃくれねえか。」
「えっ。」
「そりゃいいな!」
「次は俺が勝つぜ!」
「いやいや、やるなんて一言も、」
「やれよ!勝ち逃げなんて許さねえぞ!」
一際大きな声で叫ぶのはなんとかジョズさんの下から這い出てきたエースだ。怒ってる様にすら見えるが、逃げるも何も近々私は船からは降りるというのに。
「俺が勝つまでやれ!」
「嫌よ、負ける気しないもの。」
「次は俺が勝つ!」
「そんな直ぐ私が降りるまでに勝てるわけないでしょう。」
「じゃあ降りんな!」
「んな無茶な…。」
「エースはこうなったら頑固だぞ〜。」
「…。」
知ってる。この短い期間でもそれは分かった事だ。そういうところ、本当にそっくりだと思う。真剣な目だ。
「はぁ〜…分かった、分かりました。降りるまで。船の人達と特訓、しても良いですよ。」
「よっしゃあ!」
「折れるのが早いねぃ。」
「口で勝てる気しないんですよ、エースみたいなタイプ。」
「良かったなぁエース。お前この小娘が降りるまでみっちり扱いてもらえよ。」
「もう負けねえよ!」
「最初から負けてたやつが何を言う……おいお前らもだぞ!」
「「「ゲッ…。」」」
「じゃあ降りるまでのお嬢さんの仕事は教官だねぃ。」
「教官って…軍じゃないんだから…。」
「でもあんたは軍人なんだろ?」
「そう言われるとですねぇ…。」
否定は出来ないのだけれど。仕事を与えられてこの船に馴染めて来たかななんて思ってしまうから。船を降りてから、私はどこに行くのだろうか。
教官
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