「ナマエには関係ねえだろ!」
後にも先にも喧嘩をしたのはこの時だけだ。
「…そうだね、うん、マスタングもごめん。コーヒー淹れてきます。」
笑い続ける自信が無いから私は執務室から逃げる様に飛び出した。エドから突き付けられた事実に、自分が選んだこの道を激しく後悔しそうになる。私はエドの、彼等のなんでもない。それを選んだのは私だ。突き放されて当然なのに泣きそうになるのは狡いだろう。
「泣くな、泣くな、私。」
次顔を見せる時はいつも通り、笑うから。
「知り合いだったのか。」
国家錬金術師の試験に合格し、証書や銀時計を受け取りに東方司令部に訪れた。ナマエに相談する事なく資格の取得を決めた。その結果、初めてナマエが俺に怒鳴るのを聞いた。
昔、ナマエが家に居ないことに文句を言った時だって、兄弟喧嘩をした時だって、勝手に師匠の所で修行し出した時だって、人体錬成をした時でさえ、俺達を怒鳴るなんて事は無かった。いつも俺達のする事を心配はすれど、受け入れてくれていた。そんなナマエがまさか怒鳴ってまで国家錬金術師になる事を反対するなんて思ってもいなかったのだ。
どうやらナマエは今日、俺がここに来るまで大佐から新しい資格者への授与としか聞いていなかったらしく。俺がその授与対象だと知るや否や、「今直ぐ辞退しなさい」「何で相談してくれなかったの」「危ないから辞めて」「賢者の石の事は私が調べるから」と否定の嵐だった。それに負けじと俺も反抗してしまい、売り言葉に買い言葉。恐らく言ってはいけない言葉をぶつけてしまった。ナマエが俺達に関係ない事なんてあり得ない。分かっていたのに。姉弟でもないのに、他人なのに、帰ってこなかったくせにと血が上った頭では口を止める事ができなかった。
「親戚だよ、俺らが小さい頃に親父が連れてきたらしい。」
「親戚?姉弟じゃないのか。」
「よく言われるけど違うよ。」
俺とナマエでは似ても似つかないだろうに何故会う人会う人そう言うのだろうか。本当に姉弟であればいいと思った事は何度もある。本当に姉弟であればナマエを責めることも無かったかもしれないのに。
「ナマエがああも取り乱したのは初めて見たよ。余程君達のことが心配らしいな。」
「俺も、初めて見た。」
ナマエは優しいから。大佐の言う事はきっと間違ってない。軍の狗になるのを心配しない人では無い。それでも、ナマエなら何も言わないと思ってたのだ。俺達のする事を全て許すと何処かで甘えていたのだ。結局俺がまだ子供なのだと思い知らされる。
「勧めた私が言えた義理では無いがな、ナマエも軍に入って長い。見たく無いものも沢山見たからこその心配だ。あまり責めてやって欲しくはないんだがね。」
「やけにナマエの肩を持つな、大佐。ただの部下だろ。」
「士官学校からの仲の大切な部下だ。だから彼女が謂れもなく責められてるのは見てられない。」
「…言い過ぎたとは、思ってる。」
ナマエは何でも隠すから、傷付いた顔は俺の記憶には殆どない。だから俺の言葉は今までで1番ナマエを傷付けたのだろう。俺達をずっと近くで見守って来てくれたナマエは、絶対他人なんかじゃないのに。ただただ、今になって後悔が押し寄せる。アルが居たら殴られてたかもしれない。ウィンリィにもきっと怒られる。
「はぁ……そんな顔をするぐらいならもう少し考えてから喋りたまえ。」
「…俺、今どんな顔してんの。」
「辛気臭くて鬱陶しい顔だ。目障りだから顔でも洗ってきたらどうだ?給湯室なら出て左の奥だ。」
大佐にここまで言われて、なんて情けない事か。大佐に反抗する気も起きず言われた通り部屋を出て左に向かう。
黙々とコーヒーを淹れてるであろうその背中から、何を考えてるか分からず声を掛けるのを躊躇ってしまう。
「ナマエ、」
「どうしたの、エド。」
なんて事無いように、何も無かったように、ナマエは振り向いた。只でさえ何も言わないナマエに決定的な壁を俺は作ってしまったのか。きっとナマエはもう何も俺達に言わないんだろう。俺が言ったから、関係無い様にするんだろう。そんな事望んで無いのに。
「悪かった、言い過ぎた。」
「ううん、私が出過ぎた事を言ったのよ。だから謝るなら私。」
「違う、思ってねえよ関係無いなんて。俺が悪いんだ。ずっとナマエに助けられて来たのに、関係無くなんかない。」
「…本当に?」
どうしてそんなに不安そうな顔をするのだろうか。ナマエが1番分かってるはずなのに。俺達のずっとそばに居た他人なんかじゃ無いと分かるはずなのに、何故。
「当たり前だろ。ナマエがここまで俺とアルの面倒見て来てくれてんだから。さっきのは、アレだ…ついカッとなって…。」
何を言っても言い訳臭い。
「っだーーー!!とにかく、俺が悪いんだよ。ナマエに相談すべきだった、大事な事は尚更。」
「吃驚したの。」
「え?」
「エドが、急に国家錬金術師だなんて言うから。」
「あ、あぁ。」
「もし急に国家錬金術師として仕事をさせられそうになったら、急に、」
「?」
「戦争に行く事になって、急に、急に、……。」
大佐は、軍人だから。俺より余程ナマエが怖がる何かを知っていた。ナマエの心配は俺が思ってるよりずっと重い。
「上手い事呼ばれないよう逃げ回るさ。素早さには多少自信あるからな!」
「……無茶は、しないで。」
「あぁ。」
「何かあったら直ぐに言って。これでもそれなりに権力利くから。」
「濫用していいのかよ…。」
「私も調べれる事は調べるから。ホテルの場所は教えて、連絡を頂戴。ウィンリィにも連絡しなさい。」
矢継ぎ早に息を吸う事無く連ねるナマエはまだ言い足りない事があるらしい。最後に大きく息を吸ってから言われた言葉は約束出来ない。
「怪我、しないで。」
ナマエだって、一切無傷でいるなんて事無理だって分かってるはずなのに。今までだって大なり小なり傷の多い人生だった。
「嘘でも、うんって言うところよ。」
「だって、無理だろ…怪我は。」
「それでも。して欲しくないものはして欲しくないのよ。だから努力して。怪我しない様に。」
「……デキルダケ、ガンバル。」
「出来るだけじゃなくて、滅茶苦茶頑張って。」
呆れた様にしていながらもいつもの笑みを見せてくれて漸く俺とナマエの初めての喧嘩は終結したらしい。
喧嘩
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