目が覚めたら見知らぬアパートの一室だった。部屋の主は居なかったが、隠しもせずに置かれた写真立てを見れば直ぐに分かる事だった。撃たれた傷は痛むが錬成痕が残っているのを見た限りきちんと処置されているのだろう。
そしてまたこれ見よがしに置かれた手紙には事の顛末が書かれていた。どうやら俺は彼女に命を救われ軟禁されているらしい。まあ手紙を読めば軟禁も仕方なく、全てが終わるまで大人しくしているのが吉なのだろう。こうでもしなければ俺は直ぐにでも殺されるだろうから。
世話になってるこのアパートの大家曰く、ここは彼女が幼少期に父親と住んでいたそうだ。今もそのまま契約し続けている部屋でごく偶に逃げる様に帰って来るらしい。独りで色々と背負ってしまう彼女の最後の逃げ場だそうだ。だから今も職場の誰にも弟達にさえこの部屋の事は教えておらず誰にも、敵にさえバレて居ないここは今の俺にとって最高の隠れ家になっている。
止められはしなかったが家主の居ない家の中を漁る気にはなれず、また殆どが錬金術についての本で俺にはさっぱりだから特にする事も無かった。
大家から貰う新聞を見ると少しずつ情勢は動き、大きく世界が揺らぐのも遠くは無いのだろうと感じながら焦燥を覚える。皆んなに俺の意思が通じて敵の企みを阻止してくれるだろうと信じるしか無いのが歯痒い。しかし部屋のスペースを少し拝借していつ何があっても良い様にリハビリとして筋トレだけは欠かさなかった。
傷も癒、動ける様になった頃には髪も伸び外に出ても俺が俺だとバレる事は無いだろうと大家と相談し少しずつ外に出だした時だ。朝早くにアパートの横の路地から人の足が飛び出していた。驚きながらも軍人として様子を伺うと、そこには長身の男が倒れていた。金髪に派手で大道芸人の様な化粧を施し、これまた派手な黒い羽で出来たコートを纏っていて如何にも怪しい男だ。放って置けなかったのはその男が怪我をして居たからだ。それも銃創や切り傷など余程一般人がこんな街中で持つはずの無い傷で。幸いにも致命傷ではないこの怪我人の身元の怪しさと俺自身身元を隠したいせいで、病院の選択肢は無くナマエの部屋に連れ帰るしかなかった。
大家に手伝ってもらいながら手当を終え暫くすると男の目が僅かに開いた。軍人である俺だから気付くだろう仕草。意識を回復し直ぐに動くのでは無く周りを、安全を確認するそれは一般人ではあり得ない。大道芸人なんて者でも無い。
「目が覚めたか?」
「!」
「ここのアパートの横で倒れてたんだ、覚えてるか?生憎ちょっと病院には行けない身でな、ここで手当させて貰った。」
そう言うと一瞬驚かれたもののガバリと起き上がり頭を下げた。お礼の様だがこの男もしかして。
「あんた…もしかして喋れないのか?」
コクコクと頷く男に敵意は無さそうだから身近にあった紙とペンを貸してやる。すると何か言いたい事があったのか焦る様に何かを書いていた。
「『側に女が居なかったか?』いや、居なかったが。血痕もあんたのだけだった。」
『妹が一緒の筈なんだ怪我してる』
「一緒の筈って俺が見付けたのは確かにあんただけだ。」
『そんな筈ない!妹に連れられてドアを通ったんだ!』
焦って所々不恰好な字になっているがなんとか伝えようと必死な男。だがどれだけ聞かれてもこの男しかあの路地には居なかった。血痕が擦れた後も靴跡も無い。それを思い出すとこの男があそこでどう傷を受けあそこに居たのか矛盾がある。他の人間の靴跡は早朝な事もあって真新しい物は無かった。争った形跡もない。あの場所では、まるでこの男が何処か別の場所で傷を受け突然あの場に現れた様だった。そんな事、錬金術でも出来る気がしない。
「お前、一体何者だ…?」
この日、突如現れたこの不審な男と俺の奇妙な共同生活は始まった。後に男はこう言う。「俺は違う世界から来たんだ。」と。
一室
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