「何から聞きたいですか?」

島が近付いてきたある日の夜。私はエースとマルコさんと共に船長さんの部屋に来ていた。それぞれ酒や飲み物と軽食もあり堅苦しさの無い語らいの場。それは先日約束された私の世界の話をする為に設けられた。興味本位のエースと、船員代表としてマルコさんが着いてきたことは予想外だったが。船長さんと2人っきりというのも変に緊張しただろうから寧ろ有り難かった。

「そうだなぁ……錬金術ってのは何でも作れんのか?」
「国家錬金法。一、人を作るべからず。一、金を作るべからず。一、軍に忠誠を誓うべし。国家錬金術師に定められた三代原則です。」
「そりゃぁ…。」
「金は経済破綻になりかねないが、人ってのは…。」

苦い顔をする2人とポカンとするエースに苦笑してしまう。この手の話をする時いつだって浮かぶのは、鎧の姿と鋼をぶら下げた子供達だ。

「作れませんよ。」
「ひでぇ話だが材料さえあれば作れるんじゃねえのかよい。錬金術ってのは等価交換なんだろ?」
「水35L、炭素20s、アンモニア4L、石灰1.5s、リン800g、塩分250g。」

船医と言うだけであって私が何を言ってるのか理解出来てしまうマルコさんは途中から顔を歪ませた。

「硝石100g、硫黄80g、フッ素7.5g、鉄5g、ケイ素3g、その他少量の15の元素。」
「人間の素材かよぃ。」
「はっきり言うと、ガワだけなら作れない事もないです。死体の様な、人形の様な人間では無い心臓の動かない"何か"は作れます。けれど、魂は、命は作れません。例えどんな手を使っても。人体錬成は禁忌です。その禁忌を犯した者は…、真理を見る事になりその対価を払わされる。」
「頭痛くなってきた…。」

渋面で唸るエースには確かに難しい話かもしれない。そもそも錬金術が全く無い世界で理解するのが難しい話だ。寝てないだけマシだろう。

「この世の理、この世の全て、それが真理。それを見た大抵の者は情報量の多さに気が狂うか、死んでしまいます。生きていたとしても何かを失う。……私は死んだ母親を錬成しようとして体を失い鎧になった者、右腕と左脚を失った者を知ってる。」

どれだけ大きな鎧の姿でも、重い鋼をぶら下げて居たとしても思い出す姿はいつだって笑顔の姿だ。真理なんかでは到底勝てっこ無い宝物だ。それを奪った真理を許すつもりは一生ない。体を失うと言うと途端にマルコさんの好奇心は削がれた様だった。そんなマルコさんに代わる様に船長さんは私に問う。

「そんなモンでその真理ってやつからは何が得れる。対価は払ってんだから何かしらあるんだろう、錬金術ってやつは。」

彼等は一体何を得られたと言うのだろうか。私は一体、何を。結局その手に残った物はくだらない副産物だけだ。

「本来、錬金術は錬成陣を用いて使用します。簡単に言えば錬成する為に必要な情報の数式みたいな物です。けれど真理を通った者は、それが要らなくなる。その人自身が、式となるから。」
「ん……?ちょっと待てよ。俺ナマエがそんな式みたいなの使ってるの見た事ねえぞ!」

あぁ、珍しくエースが鋭い。マルコさんと船長さんもエースに言われて気付いたのかギョッとした顔で私を見つめてくる。

「私は私自身を錬成しました。」
「ンなこと可能なのかよい…。」
「私はとある場所から移動する為に心理の扉を開く必要がありました。生きた人間をそのまま再構築しても問題ありません。そしてその扉を通って元の場所に戻るはずが、何故か世界を渡りこの船の上空に落とされたと言うわけです。」
「確かに、自分から自分を錬成すりゃあ等価交換ってやつかも知れねえ。だがさっき真理とやらを見るのにも対価が発生すると言っただろう。その対価は。」
「……賢者の石。そう呼ばれる物が存在します。」
「石ィ…?」
「エネルギーの集合体とでも言いましょうか。小さな物ですが、扉を通るのも容易くさせてしまう代物です。」
「四肢を失い、死ぬ事さえあるってのにそんな事が出来るその石ってのは一体……。」
「賢者の石の材料は……生きた人間、その魂。」
「なっ、」
「はぁっ!?」
「……。」
「賢者の石は、そのエネルギーによって等価交換の法則を無視さえ出来る。賢者の石を宿した者は不老不死に限りなく近い存在にもなり得てしまう。そんな物を生成し悪用しているのがホムンクルスと呼ばれる者たち、私の敵です。彼等は国を巻き込んだ何かを企んでいる。私はそれを止めようとしていた途中で、擬似真理の扉に迷い込んでしまった。そして扉を通る為に共に迷い込んだホムンクルスの持つ賢者の石を使った。石になった人間がもう元の姿に戻る事は出来ないから。」

目を閉じるとエンヴィーに宿る賢者の石になった人々の姿がこびり付いて離れない。伸ばされた手を、撮る事も振り払う事も出来なかった。私はどうしようもなく無力だ。

「お前さんが帰れないって言ってたのは今は対価がないからかよい。」
「はい。リスクを覚悟して戻る事も可能かも知れませんが、体の一部を失った場合仲間の足を引っ張る事になる。そうなるぐらいなら現状帰らない方がマシです。私が居なくても彼等は充分強いですから。」
「つーかよ、ナマエは軍人なんだろ?その〜…ほ、ほむ?何たらって奴らもどうにかなるんじゃねえのか?」
「ホムンクルスね。幸いにも私の周りはまともな人間ばかりだけれど、残念ながら軍の上が真っ黒なのよ。大総統もホムンクルスだもの。…アメストリスはホムンクルスの為に建国したと言っても過言じゃない。」
「そっちの世界もなかなかに腐ってやがんなぁ…。」

とうとう船長さんさえ大きく顔を歪ませて嫌悪感に染まっている。全く、何処の世界も世知辛くて仕方がない。

「少なくとも、味方は分かっていますし手も打ててます。私がこんな事になってしまってるのは……まあ計算外ですが。きっと悪の親玉だって倒せます。人々を守るのが私の仕事ですから。」
「やっぱりお嬢さん、見えなくても軍人なんだねぃ。」
「乗ってるのは海賊船だけどな!」
「痛い所を…。」

笑って明るくするエースだが言ってる事は私の見て見ぬ振りをしたい所に刺さる。そんな私とエースのやり取りを見てマルコさんと船長さんも顔を和らげた。こんな話もまだ一片だ。なんと言ったって夜はまだ長い。
錬金術


/top