「島だー!」
「島が見えたぞ!!」
甲板から叫ぶ声は船室に居た私にも良く聞こえた。この世界に来て何日経っただろうか。ようやく船は陸地に着くらしい。つまりこの船とも。
「ナマエ!島だぞ!!」
「エース、ノックはして。」
「ああ!悪い!」
船と、エースともお別れだ。
「この島は比較的に平和だから商船も通ってるし海軍の船も定期的に来る。まあ海賊がゼロって訳でもねえから気をつけな。」
目と鼻の先に陸地が見えいよいよ上陸の準備をする。借りていた部屋に作って置いた家具は今後も使うからとそのままだ。集めた廃材で作った鞄と多少の荷物は身軽だった。商船に乗せてもらって乗り継いでいけばそれなりに移動も出来るそうだ。海に慣れれば船を作るのもやぶさかでは無い。これから先どうなるか未知数だがそう不安が無いのも、この船の人達のお陰だ。
「ありがとうございました、大変お世話になりました。」
「まあ待て、ログポースが溜まるまでは2日掛かるからな。俺達は3日後の朝には出発だ。」
「明日に送別会をやるからお別れはもうちょっと取っておいてくれ。」
そう言われては好意を無碍には出来ない。私も、名残惜しくはあるから。
「……ナマエ。」
島が近づいた時は元気に知らせて来たのに、今私を呼びかける声は静かだった。
「何?」
「このまま、モビーに乗らねえか。」
ぽつりと落ちた言葉を吐き出した本人とは目が合わない。まさか、誘われるとは。普通、2週間以下の付き合いの人間などどうでも良いだろう。本当に人が良過ぎる。
「乗らないよ。これ以上この船の人達に迷惑かける気はない。」
「迷惑って、お前なぁ!」
「まあまあエース落ち着けよぃ。船が出るまで時間はあるんだから、心変わりするかもしれねえだろ?なぁお嬢さん。」
「いや、しないですけど…。」
愕然とするエースと面白がってるマルコさんに捕まっては上陸出来ない。さっさと降りようと船に掛かる梯子に足をかけた。
「いいかエース、オトせば行ける。」
「?お、おう!」
「聞こえてますけどー!」
当の本人には伝わってませんよマルコさん。
「おー!そこの嬢ちゃん美人だねぇ!果物買ってくかい?」
「へぇ、美味しそう。1つください。」
「基本的にゃ甘えんだかたまに凄く苦いのが混ざってるから気を付けな。50ベリーだが美人にはおまけでもう2個付けてやろう!」
「ありがとうございます!ついでにこの島の事教えてくれませんか?今日着いたばっかで。」
「なんだい、その成りで旅人かい?危ねえから気ぃ付けな。」
「腕には自信あるから大丈夫。でも極力危険は避けたくて。」
「なら嬢ちゃんはタイミング悪い時に来たねぇ、さっき大物海賊が着いたって島中噂してるよ。」
その噂ならきっと私が乗ってきた海賊船だろう。
「ログポースが溜まるまで2日掛かって大体どの海賊船もそれに従って北側に行くんだ。南に海軍の駐屯地があるからこの島を経由して北に海賊を捕まえに行く。だからこの島は活気もあるしそれなりに治安もマシってワケよ。島を出るなら商船に乗って南側へ行くのがお勧めだぜ。何かあれば海軍が守ってくれっからよ。」
「成程、参考になります。」
「宿探すなら広場の方に行きなー。」
「はーい、ありがとうございました!」
おまけで増えたフルーツを抱えて言われた通り広場を目指す。今日はまだ船の部屋を使わせて貰うが、送別会をするなら明日の晩は外で泊まる方が良いだろう。
「明日の晩、一室空いてます?」
「明日かい?空いてるけど今日は良いのかい?」
「えぇ、明日だけで大丈夫です。」
海賊が立ち寄り、海軍が立ち寄り、人の往来が多いせいか宿の数が多かった。隙間風が吹きそうな安そうな宿からしっかりとした造りで重厚感のある宿まで多種多様だ。船で物を直して小銭を稼いでいたお陰でそれなりに良い宿を抑える事が出来た。久しぶりの陸地で落ち着いて寝る事が叶いそうで良かった。
「あっ!!ナマエ!やっと見つけた!」
さて船に戻るかと広場から来た道を戻ろうとしたら明るい声が背中反対の道から聞こえた。少し怒ったような顔をしながら近づいて来るのはエースだ。
「どこ行ってたんだよ?」
「島のこと聞いたり、宿取ったりしてた。」
「宿ぉ?」
「明日の夜はそっちに泊まろうと思って。」
「……。」
「あ、これ食べる?美味しそうだから買っちゃった。」
「…貰う。」
「たまにハズレでね、」
「っっっっ!?にっ……!!!!」
「苦いのが有るんだって。」
間に合わなかった警告に怒りながら苦みに耐える顔は赤くなったり青くなったり忙しい。それを見ながら一つを齧る。瑞々しくて、初めての味だが甘さがありサッパリしていて美味しい。
「おっまえ!そう言うのは早く言えよ!」
「まさか当たるなんて思わなかったんだもの。」
食べ物一つでも、この世界に来てから毎日新しい発見がある。それは私の知的好奇心を満たすのと同時に、他にどんなものがこの世界には有るのかと好奇心を増幅させてくる。勿論帰る手立てを探す事が最優先だが、世界を見て回る事も楽しみなのだ。
「んじゃそっちもくれ。」
「あっ、」
止める暇も無く伸ばされた腕に残りの1つが取られる。さっきハズレを引いたにも関わらず躊躇わずにその実に齧り付く。
「んっ!!うっめえなコレ!!」
さっきの渋面はどこへ行ったのかキラキラと目を輝かせて食べる姿は微笑ましい。きっとこれまでも、新しい発見がある度にコロコロと表情を変えて楽しそうにしてるのだろう。エースと出会った時、初めて見る錬金術に輝かせた目が忘れられないでいる。エースが見る世界はどんな色をしているんだろうか。世界を見て、エースはどんな顔をしているんだろうか。それを見ていたいなんて欲に重く重く蓋をした。私には帰るべき場所がある。
「そろそろ船に帰ろうぜ。」
「…うん。」
私には、帰るべき場所がある。
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