「ね、ねぇ!これ本当に落ちない?」
「おう!しっかり捕まってろよ。」

ストライカーと呼ばれるこの変わった形の小さな船はエース専用のものらしい。エースの炎を動力源とするこれは1人乗り用らしく、私が乗り込むと不安定さが増したように思う。エースの真後ろに立ち緊張しながら出発を待つ。しかし捕まってろとは言うが捕まるところが無い。

「よっしゃモビーに追いつくぜ!」

そうエースが言った瞬間グンッと後ろに体が引っ張られる。

「ひっ、」

情けない声をつい漏らしながら慌ててエースの身体にしがみついた。急加速からの味わった事のないスピード、波を滑る様に走る船の揺れ、初めて触れる海の飛沫。初めての乗り物は私に未知への恐怖を与えてくる。

だから落ちない事に必死な私は、しがみついた男の反応なんて気にしてられなかった。私がしがみついた動揺で炎の出力がうっかり上がって通常よりスピードが出てただとか、暑くもないのにエースの顔に熱が集まってたなんて、知る由もないのだ。



数分か、数十分か。走り続けた船がスピードを緩やかにした。何かを考える事も出来ずに耐えていた私にはその時間の正確な長さは分からなかった。

「大丈夫か?」
「ひ、久々に死ぬかと思った…。」
「大袈裟だろ。」

いや冗談じゃなく。軍に所属していて怪我はしても死を実感する事が最近は殆どなかった。それは自分の実力もあったし周りの人間が助けてくれていたから、グラトニーの腹に居た時でさえ死ぬとは思わなかった。

緩やかなスピードになってようやくしがみついていた手を解く。1人で立っても倒れないぐらいのスピードに息を吐く。

「またスピード出すぞ。」
「エッ、」
「さっき程は出さねーよ!」

また後ろに引かれる感覚に驚いてエースの肩を掴んだ。けどさっきよりは緩やかなスピードで怯える程では無いし風は気持ちがいいぐらいだ。

「サイコーだろ!」
「うん!」

髪は靡き、波を置き去りにぐんぐんと進む。向こうにあった車ではこんな風を感じることはない。頬に当たる飛沫が気持ち良い。

あの大きな船では味わえない爽快感に身を預けながら、エースに言わなければいけない事を思い出した。

「エース、タルトありがとう。サッチさんに頼んでくべれたんでしょう?美味しかった。」
「そのままでも美味そうに食ってたからな!あー、タルトも食いてえなぁ!」

あの時私が美味しそうに食べてる様に見えてたのなら、それは。

「ならまたお願いして作ってもらおう。今度は一緒に。」

きっと昨日より美味しいと思うはずだから。

「お、見えてきたな。」

エースのその声にエースの肩から前を見ると大きな船の面影が見え出していた。あれだけ盛大に送別会をされどんな顔をすれば良いのだろうか。そんな事を考えていると突然の浮遊感と腹の圧迫感に襲われた。エースに腹から抱えられ足が浮いている。

「な、何?」
「舌噛むなよ!」
「な、何を……、」

まるで何かを投げるかのように足を一歩引いて構えを取るエース。一体何を投げるかなんて、彼の腕にあるものは一つしかない。

「待って待って待って!!」
「行くぞー!」
「嘘でしょ!?お願いまっ……!?」

身体を襲う衝撃と空気抵抗、近づく船。最初にこの船に落ちた時と違って今衝撃を和らげるものなんてない。ぐんぐんと近付く甲板に思わず目を瞑って衝撃に耐えようとするしかなかった。けれどいつまで経っても衝撃はやってこない。背中から何か柔らかいものに沈み込む。

「……?」

恐る恐る目を開けると目の前には船長さんの顔が。

「グララララッ、また降ってきたなぁ?」
「は、ははっ…。」

私を受け止めたのは船長さんの手だった。巨大な身体に見合うその大きな手のひらは、危なげなく私の体を支えていた。周りを見渡すと殆どの人が甲板に出ているのかみんなが変に生暖かい視線を向けてくる。エースか、船長さんか分からないが、私がこの船に戻る事を伝えていたのだろう。合わせる顔が無いというのに、否応無しに気恥ずかしくて暑くなる。ああ、どう言おうか。どう言ってこの船に乗せてもらおうか。エースはああ言ってくれた。けどこの船は一つの家族だから部外者である私が急に乗せてくれなんて言って受け入れられるだろうか。

「あの!船長さん、」
「ナマエ。」

渋い船長さんの声に私の言葉は遮られる。まっすぐとこちらを見る目に自然と背筋が伸びた。人の手のひらの上で正座したところで格好は付かないが。

「俺の娘になれ。」
「!」

エースが私を乗せると話をしただけで、この人はこんな事を言わない。誰でもこの船に乗せてるわけじゃ無い。そんな人が私に対してこう言ってくれると言うことが、どれだけの事か。私が自ら手放したモノをまだ求めても良いのなら。認めてくれるのなら、私は喜んでこの人の家族になりたい。

「ふ、不束者ですが、よろしくお願いします!」
「グララララッお前らぁ!喜べ、妹だぞ!!」
「「「「ウォオオオオオオ!!」」」」

乗船


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