「親父聞いてくれよ!」
「なあ親父ィ!」
「やったぜ親父!」
「なあなあ見てたか!?親父!」
「はぁ〜……。」
「どうしたんだ?」
食堂で昼ご飯を食べながら最近の悩み事について考えていたら、大量の食べ物を手に持ったエースが横の席に来た。全く、タイミング悪く溜息を聞かれてしまった。私としては解決の糸口が見えない厄介な悩みだが、人に言うのは憚られる悩みなのだ。
「何か悩んで、ムグッ、のか?話聞いて、
モグモグ、やろうグーーーーッ……。」
「………。」
勢いよく乱入してきたが聞く気のない相談役に思わずまた溜息が溢れそうになる。私にもこれだけの勢いがあればこんなにも悩まなくて済んだのだろうか。
そう、私の目下の悩みは、この船の長である"親父"殿を何と呼ぶか。この世界の人間でさえない出会ってばかりの私を船に乗せてくれるだけに留まらず、娘と呼び家族として接してくれるあの人を私も相応のモノを返したい。以前の様に船長さんと他人行儀に呼ぶ事は家族として乗る以上相応しくない。そしてみんなの様に"親父"と呼び付ける度胸も私にはない。
何よりも、私には"お父さん"と呼んだ人がいる。例え今呼ぶ事が出来なくとも、あの人は私の父親だ。彼らの元に帰る事だって諦めた訳じゃない。だから、この船であの人を"お父さん"とは呼べない。結局ほんの些細な違いとは言え呼び方は必然的に絞られている訳で。
まあ、簡潔に言うと家族というモノに不慣れな私は家族を表す言葉で人を呼ぶのが気恥ずかしいのだ。そんな事をわざわざ誰かに相談も出来ないから結局ぐだぐだと悩んで溜息を吐き続けている。その内それとなく呼ぶ事が出来るだろうか、そう未来の自分に期待を投げる。
「ん?騒がしいな、外。」
悩みながらスローペースで食べていたら不意に近くに居た誰かがそう言った。そう言われ耳を澄ますと確かにバタバタと走る音と何か叫んでる声が聞こえる。どうしたのかと食堂の人間が思うと同時に扉を開けた人間が答えを持ってきた。
「敵船だ〜!」
その一言にみんな揃って残りのご飯を掻き込み慌てて食堂から出て行く。敵襲。私が船に乗って今まで無かったが、ここが海賊船であれば海軍も他の海賊船も出会えば大体は敵で戦闘になるのか。私もこの船の一員なのだから戦闘に加わるべきだろう。
「エース、起きて!」
「んぁ…?」
「敵船だって。」
「何!?」
未だ寝ていたエースを起こすと直ぐに残っていたご飯を掻き込んでいく。最早そのスピードと勢いは曲芸の域だ。途轍もないスピードで食べ終わるとそのままの勢いで食堂を飛び出して行った。私も慌てて後を追う。甲板に近付けば戦闘の音は次第に大きくなる。扉を開ければ外、というところでその前にはマルコさんが居た。マルコさんも丁度外に出ようとしていたところだろう。
「マルコさん。」
「ナマエ、中にいたか。丁度良かったよい。」
「どうしました?」
「お前さんはしばらく表立って戦闘するのは控えてくれ。」
「…何でですか?」
「あぁ、悪い、女だからとかじゃねえよい。まだナマエの手配書は出てないからねい。手配書が出てないうちは島の偵察とか色々してほしい事があるんだよい。だからわざわざ見つかるような事は控えてくれ。」
「そういう事なら、分かりました。」
「普段なら親父も中に居るから中でいいんだが、今日は外にいるみたいでな。大丈夫だとは思うが親父の側に居てくれるか?親父の側なら陰にも隠れられるだろうしねい。」
四皇と呼ばれる白ひげ海賊団ともなればそれなりに顔も割れ確かに不自由なこともありそうだ。それが今の私にしか出来ないと言うのならば快く受け入れよう。話が決まったところで外の音がより一層激しくなり始めていた。マルコさんと揃って外に出て、私は大きな彼を探した。
「なんだァ?あっち行かねえのか。」
「マルコさんに側にいるようにと。手配書が出てない私を有用に使いたいそうで。」
「そうか。」
彼の側はみんなが近寄らせないからか比較的静かだった。この船に初めて乗った時や手合わせの時を思えば彼等が苦戦する様な事はそうそう無いだろう。彼もそう思ってるからか立つことすらなくどっしりと構えて悠々とみんなが戦っているのを眺めている。その少し後ろから隠れる様に私も周りを眺める。無秩序ながらも息の合ったみんなの動きは最早遊び回ってるみたいで楽しそうですらある。適度に警戒していると視界にキラリと何かが反射した気がした。目を凝らすと切先をこちらに向けた剣が素早く飛んできていた。私が手を出さずとも大した怪我にはならない事は頭の隅では理解していた。けれどこれは咄嗟で。錬成しても間に合わない事は分かっていたから。
「父さん!」
声を上げるのと体が動くのは同時だった。飛び上がって足で剣を蹴り落とし、また私の身体が隠れる様に大きな影の横に着地する。慌てて周囲を確認するが私の事は目立たず気付かれなかったらしい。良かった、怪我をさせずに済んだ。そう一息ついて。ああ、やってしまった。咄嗟で思わず呼んでしまった。散々悩んでいたのにこんな時に。じわじわと顔が熱くなるのを感じる。どうか本人に聞こえてません様に。
「グララララッ!」
なんてそんな上手い話もなく。
「今日はいい日になった!今夜は宴だぁ!」
「そんな大袈裟な…!」
突然大笑いし出した父さんはご機嫌に敵を薙ぎ倒し始めた。それはもう今までの戦闘が何だったのかと言うぐらいに。みんなも父さんの勢いに釣られた様だった。敵船から調達した酒と食料でこの日の宴はそれはもう豪勢だった。私のテンションは上がりきらなかったが。
「グララララッ今日は酒が格段に美味いな!」
「やけに機嫌が良いが何があったんだよい?」
「急に宴って出だしたもんなぁ。」
「親父にしては珍しいね。」
「うぅ……。」
「どうしたんだナマエ。」
「娘が父さんって呼んでくれれば酒も美味くなるもんだァ!」
「もうやめてくれませんか…!?」
酒を飲むたびに父さんがしばらくそう言い続ける事を私は今はまだ知らない。
悩み
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