今日は至って平和な日だった。
海も穏やかで、敵船もなく、和やかに航海していた。私も今日の分の仕事をして後は何もなければと思いながら、食堂で仕込みをしてるサッチさんに今までに出会った不思議な食材の話を聞きながら読書をしていた。夜ご飯の時間にはまだ早いからエースも居らず静かで穏やかだった。
「うーん…こっちにも居ねえか。」
そう聞こえると同時に足元から何かに脅かされる様な恐怖を覚えた。それは合成獣を初めて見た時の様な、人造人間と相対した時の様な感覚だった。態度にはおくびにも出さないように気を付けながら声の主を様子見た。そうして、ああ失敗したなと彼と目が合って思った。
「よお嬢ちゃん。うちの隊長見なかったか?」
「いえ、今日は見てません。」
彼、ティーチさんは自然に問うてきたから私も自然に返した。どうにも私はこの船に乗ってから彼のことが苦手だった。別に何かされた訳でも悪い人でもない彼に勝手に苦手意識を持つのは申し訳ないが、彼を取り巻く雰囲気がどうにも苦手だった。そしてその雰囲気を感じてるのは私だけらしく、同じ隊の隊長であるエースにも言えなかった。広い船だから早々関わることはないが食堂やこういう時はどうしても避けられない。当たり障りなく、ただ時が過ぎるのを待つだけだ。
「まあいいや、飯の時間になったら来るだろ。」
当てが外れるとは思ってなかった。ティーチさんは去ることなくそのまま私の横に座る。それに気づいたサッチさんはさり気無く水をティーチさんに出している。ああ逃げられない。ここで私が席を外したらあからさま過ぎる。手元の本の文字の羅列を眺めながらどうするかと思案するが、相手はそれを許してくれないらしい。
「そういや嬢ちゃんは何でも作れるんだったな。サッチは何か作って貰ったのか?」
「俺は切れ味悪くなったナイフを直して貰ったな!今や切れ味抜群よ。」
「サッチさんは台所番ですから、良い物使って貰わないと。」
「お陰ででっけえ海王類も楽々切れるぜ。」
それは切れ味とかの話ではない気がする。
しかし上手く会話に巻き込まれてしまった。私が異世界から来たと言うのはこの船全員が知っている。そして悪魔の実とは違う力がある事も。しかし錬金術というものに関してや細かい話は隊長達しか知らない。あえて言葉にしてしまうと出来る事が明確になるから。船に乗る1人の船員として規律を乱すわけにはいかない。だから一つ一つ出来るか問われる度にそれに応えていた。
「ゼハハハハッ何でも作れるなら悪魔の実も作れるのか?」
本題は、それか。
そもそも悪魔の実が私にとっては突飛な存在過ぎて考えたことすら無かった。だが恐らく不可能だろう。悪魔の実が行ってるのは最早人体構造の組み替えに近い。人体錬成が出来ないのに出来るわけがない。
「何か欲しい物でもあるんですか?」
「いや聞いてみただけだ。」
「聞いてみただけ」、本当に?私がいない所での噂話はあるだろう。何が出来るのだろうか、今度頼んでみようか。そんな話はしてるだろう。けれど、その張本人に聞くという事は出来るならして欲しいからじゃないだろうか。本人の期待値までは分からないが叶うならして欲しい事だろう。そして私の聞き返しに対してまだ欲しい種別があるなら応えたはずだ。自然系が欲しいとか、動物系が欲しいなんて理想を言ったって良いはずだ。そこを隠すという事は明確に何か欲しい"実"があるという事。それを知られたくはないという事。物によっては図鑑に載っているのだから何なのかを言えばその"実"だと分かれば意識される。それを避けたいという事はそれだけ希少か危険か。
同じ船に乗る仲間にこんな事考えたくもないが元々苦手な相手とあって悪い方向ばかりに考えがいってしまう。それでも組織というものが一枚岩では行かないことを知ってしまっているからには、ただ1人私だけでも警戒するに越した事は無いだろう。もしこんな事を考えてるのがバレて責められたとしても。
「そもそも悪魔の実ってどう手に入る物なんですか?」
「運だな、運。」
「運。」
話を逸らしながら気になってた事を聞いて、まさか答えが運だとは。
「死んだらまた同じ能力を持った実がどこかに生まれるのは知ってるか?」
「はい。」
「その実はどっかの島に落ちてるかもしれないし、店で売られてるかもしれない。政府が回収してるかもしれないし、海賊が持ってるかもしれないし裏で売買されてるかもしれない。」
「いつどんな実に出会えるか、最早出会えないかもしれないと。」
「そういうこった。」
「この船じゃ見つけたやつの物だから早い者勝ちよ!」
「なるほど…。」
以前の戦闘後も我先にとみんなが敵船に漁りに行ったのはそういう理由もあるのか。なら求めてる"実"が手に入る事なんて早々にない、夢物語の様な物だろう。過度に警戒する必要もないだろうか。この船に、ティーチさんに、望む"実"が巡ってくる可能性なんてどれだけ小さな数字か。人間なんて星の数ほど居るのだから相性の悪い人間だって居るだろう。それが私はティーチさんだったというだけで。
「まあ、カナヅチになるのはゴメンだな。」
「ゼハハハハッ万が一手に入ったらまた考えれば良い。」
「もしもその時が来たら実物の悪魔の実が気になるので見せて下さいね。」
「その時はサッチに料理してもらうか!」
「え、調理出来るんですか?」
「流石に悪魔の実を切った事はねえな…。」
「ゼハハハハッ!」
そんなくだらない会話をした何でもない平和な一日だ。
食堂
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