「なぁ、ナマエ見てねえか?」
「いや知らねえな。」
「おいエース!今日の2番隊は掃除だぞ!」
「やべっ。」
「ワハハッサボりか?エース。」
「うるせっ!」

俺が誘ったのに。

「ナマエ、この薬品なんだがねぃ。」
「はい。」
「ナマエ、」
「ごめんエース後でね。」

俺がこの船に誘ったのに。

「どうしたんだエース、不貞腐れて。」
「イゾウ…。」
「腹でも空いたか?」
「別に。」
「ナマエもこの船の家族として馴染もうと必死なんだろうよ、見守ってやんな。」
「ま、まだ何も言ってねえだろ!」
「自分がこの船にナマエを誘ったのに全然一緒に居れなくて拗ねてるんだろう。」
「うぐっ!」
「エースは素直だねえ。」
「馬鹿にしてんだろ!」

実際、イゾウの言ってることは間違ってない。俺が誘ったと言うのにナマエはレンキンジュツとか言うのもあるせいか、皆んなから好かれてるし忙しそうにしてる。飯の時は食堂に居るけど、それもアイツは本を読んで忘れてたとか言って来ない時もある。広い船内では1日一回見かければ良い方で話せない日もそこそこあった。俺が誘ったのに。同じ船にいるのに。姿は見かけるのに話せなくて一緒に居られないのが、何か、腹の底がグルグルとする。腹は壊してないのに。でも、俺が誘ったのに俺がナマエと話せてないのがおかしいと思うのは普通だろ?

「いい事を教えてやろうかエース。」
「?」
「あの子は確かにこの船に馴染もうとしてるけど、騒がしいのに慣れないから静かな場所を探してたんだ。そこで俺が船尾の方の陰を勧めたら気に入ってさ。この時間で暇してたらそこかもね。」
「!サンキュ!イゾウ!」
「ちょっと待ちな。」
「グェッ!!」

イゾウがいい事を教えてくれたから早速ナマエの所に行こうと走り出した瞬間帽子の紐を引っ張られた。思いっきり首が締まったんだが。恨めしくイゾウを睨むが気にした風も無い。

「おい!」
「まあ落ち着きな。」
「お前のせいだよ!」
「最後まで話を聞きなって言ってんだ。ナマエに嫌われたくないだろう?」

まあナマエの話なら、聞くか。

「いいかい、エース。彼女は船尾の方で静かに過ごしたいんだ。本を読んでるかも知れない。」
「おう。」
「だからナマエが居ても大声出して騒ぐんじゃないよ。無理矢理連れ出そうなんて以ての外だ。」
「……おう。」
「静かにしてたらナマエも一緒に船尾で過ごしてくれるかもね。」
「分かった。」

イゾウに穏やかに諭されなかったら俺は考えなしにナマエの所に行って邪魔をしたのだろうか。きっとしたんだろうな。イゾウのお陰で落ち着いたしナマエの邪魔をしないって意識出来てる。船尾に向かうに連れて甲板の喧騒は遠くなる。

「手間の掛かる弟だねぃ。」
「聞いてたのか。」
「まあねぃ。隊員としてはウチが取ったから気にはしてたさ。」
「その割には仕事を振ってないか?」
「………。」
「優秀なのも問題か。」
「違いねえよぃ。」



船尾の陰は日を遮り程よく涼しく風が気持ち良かった。少し遠くに聞こえる皆んなの声は楽しそうで、何か、笑ってしまう。縁に背を預けて座るナマエはイゾウの言ってた通り本を読んでいた。集中してるのか俺には気付いてなさそうだが口元はちょっと笑ってて楽しそうだ。ナマエも皆んなの声を聞いて笑ってるんだろうか。騒ぎの中に混ざらなくても何か楽しい、なんて今まで知らなかった。
風が吹くとナマエの髪がキラキラと靡いた。けどナマエは気にせず本を読んでいるから、イゾウに言われた事を思い出しながら静かに横に座った。それでもナマエは俺に気付かない。けど、この場所もこの場所にいるナマエの横も悪くなくて。いつになったら気付くかなってワクワクしながら、段々と瞼が落ちてきた。まあ腹が減ったら目が覚めるだろ。そうしたらナマエと飯を食いに行こう。遠い喧騒と横でナマエがページを捲る音を聞きながら俺は抗わずに目を閉じた。



「……。………ス。」



「エースってば。」



「んぁっ。」

体に当たる軽い衝撃に目を覚ませば目の前にはナマエが俺を向いていた。

「いつから居たの?」
「!じゃ、邪魔したか!?」
「全然。寧ろ暖かかったから丁度良かった。ごめんね気付かなくて。」
「良いんだ、俺が居たくて居たから。」

気付けば日は落ち始めて、本を読み続けるには難しそうだ。そんなにずっと一緒だったわけじゃないのに、目の前にナマエが居ることが随分久しぶりに感じる。ナマエの青い目が夕日を反射して煌めいてる。今その目に寂しさが無い事に安心した。

「またここ来ていいか?…静かにしてるし。」
「ふふっ、好きにしていいのに。」
「邪魔にならねえ?」
「ならないよ。エースも気に入った?良いでしょここ。イゾウさんに教えてもらったんだけどね。皆んなの声が離れてても聞こえるから、何してるのかなあって考えながら聞くのが楽しくて。」
「…分かる気がする。」
「本当?」
「あぁ。」

イゾウは馴染もうとしてる、なんて言ってたけどもう馴染んでるんじゃないだろうか。元々、仲間になる前から船に乗ってすぐ頼られて慕われていたし。心配するまでもなくナマエはこの船の、家族の1人になっている。ナマエをこの船に誘ったのは間違いじゃなかったらしい。

「腹減ったな。」
「うん、ご飯行こう。」
「今日は何だろうな、良い匂いしてきた!」
「サッチさんのご飯は何でも美味しいからね。」
「違いねぇや!」

この船が。この家族が。きっとナマエの居場所になるように。いつかナマエが堂々と家族と呼べる存在になれるようになればいい。ナマエが今俺の隣を歩いているのがきっとそこまでの第一歩だ。


/top