ナマエが船に乗り出して気付いたことがある。
「エース、ナマエちゃん探してきてくれ。」
「またかぁ!?」
「まただよ。ったく、困った妹だぜ。」
船のコックとこんなやりとりをするのも初めてじゃない。ナマエはよく飯を食い忘れる。飯だけじゃないが、本を読むのに集中すると飯とか寝る事とか、そういう生きるのに必要な事を忘れる。本人曰くこの世界の本は読んだ事が無いものしかないから面白い、らしいがその集中力は周りが騒がしくても人が近くに居ても気付かない程だ。時間も忘れて没頭するものだから本人は読み終わるまで時間の経過にも気付かない。
そして度々女の少ないこの船でコックが見かけてないと気付いて俺に探せと言うわけだ。度々何で俺がと聞くがその度に「エース以外が行っていいのか?」と笑い混じりに聞かれる意味は未だ分からない。けど、まあ、断る理由も無いから結局行くのだけど。
「おーいナマエ。」
部屋の前で声を掛けても相変わらず反応はない。集中してると余程じゃない限り呼ばれてる事に気付かないのだから困ったやつだ。ノックも意味が無いなと思いそのまま扉を開けると案の定ナマエは本を読んでいた。ただ、どうにもいつもと違う気がする。視線が文字を滑っている様な。とりあえず気付いてもらおうと肩を揺らそうとした。
「ナマエ?」
揺らそうとしたが。
「、エース。」
「お前、大丈夫か?」
俺は基本的に体温が高いらしい。それが悪魔の実故か元々かは分からないが。それに対してナマエは体温が低い。近くに居たり触れたりするとヒヤリとする程に。なのに今肩に置いた手からは冷たさは感じない。俺の体温と変わらないか、寧ろ熱い。
「何が?というかどうしたの?」
「飯、呼びに来たんだが。お前熱あるだろ。」
「無いよ。」
「ぜってぇあるって。」
「無いってば。それよりご飯なんでしょう?行こうよ。」
頑なに認めないナマエは否定しながら立ち上がった。けれど、歩こうとしたその一歩が膝から前に崩れ落ちた。
「っ、あぶね!」
なんとか前からナマエを支えるが、もう一度体を起こす気配がない。やばい。どうしよう。ナマエの体が熱い。
「ナマエ、おい、ナマエ?」
呼んでも返事がない。
「おいっ!あー、こんな時は…マルコ!」
心臓がバクバクする。あまり感じた事のない嫌な痛み。
抱えたナマエの身体は思っていたよりも小さくて、軽くて、俺が熱いと思う程で、壊れそうだ。極力揺らさない様にでも出来るだけ早く、今この時間ならマルコもきっと食堂だ。
「マルコ!!」
「そんな大声出さなくても聞こえてるよぃ。」
「ナマエが…!」
「ナマエ?」
俺がナマエを抱えてるのに気付いたのかぐったりとしたマルコがナマエの顔を覗き込む。熱が出てる事を自覚し出したのかナマエの息は少しずつ荒くなっていた。
「医務室連れて行け。」
「おっおう…!」
医務室のベッドにソッと寝かせて、俺にはマルコに診察されているのを眺める事しかできない。
「ただの疲労からくる熱だよぃ。心配ない。」
「ほっ本当か!?」
「慣れない船旅だ、疲れない方が不思議だよぃ。」
ナマエを見るマルコの顔は心配よりも何処か呆れたような安心したような顔だ。俺にはその顔の意味が分からない。逆にそんな俺に気付いたのかマルコは笑いながら言う。
「ナマエの事だ。軍人ってのもあって気を張ってりゃ体調が悪くても気付かないし誤魔化せるよぃ。逆に体調が悪くてぶっ倒れるぐらいには気が抜けて、安心したんだろうよぃ。」
「………。」
「飯取ってくるからナマエの事見といてやれよぃ。」
マルコはそう言い残して医務室から出て行く。俺よりマルコが残った方が良くないか?俺何も出来ねえのに。寝ているナマエに近寄るが起きる気配は無い。
「……さ、ん」
「ん?」
ナマエの口が僅かに動いて何かを言っている。目は覚めとなさそうだが寝惚けているのだろうか。それとも何か伝えたいのだろうか。更に近づいてもう一度言うかと耳を澄ませる。
「ぉ父、さん…。」
心臓が嫌なほど痛い。こいつが実の父親に対してそう呼べた事は実際何度あるのだろうか。幼い時、今みたいに体調が悪い時、誰が側に居てくれたのだろうか。寂しいと、言えたのだろうか。きっとナマエは言わなかっただろう。部屋で1人ただ寝て苦痛が過ぎ去るのを待ってただけなのだろう。どうしてその時俺は側に居てやれなかったのだろう、なんて叶うはずもない事を考える。布団からはみ出す手を握るとやっぱり俺より高い体温で、でも不思議と嫌じゃ無くて離す気にはならなかった。我慢を重ねて不調を誤魔化す術を覚えたナマエが、例え今苦しくても安心できたのがここで良かったと思う。俺が手を握ってやれるここで良かった。
「ここに居るからな。」
その言葉が届いたのか、手を握っているからか顰めた眉が少し緩んだ気がした。
熱
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