「偵察、ですか。」
「あぁ。もう小舟で行ける距離だ。ある程度は仕方ねえがそこそこ名のある海軍や他の海賊が居たら面倒だからな。俺達が降りても大丈夫か、手配書がまだ出てないナマエに見に行ってもらうのが一番安全だよい。頼めるか?」

体調も万全になってしばらく。どうやらこの船はそろそろ島に上陸するらしい。確かにこれだけ大きな海賊、避けれる争いは避けるべきだろう。

「…それは構わないですが、エースにバレる前にコソッと行ってきていいですか。」
「エースに?寧ろ知らせた方がいいんじゃないのかよい?」
「いや、それが、どうにもこの前から少し過保護気味で……。」

熱を出した時からエースが少し変だ。今までも見かけたら近寄っては来たが最近はわざわざ探しに来る事が増えた。見かける度に顔色を窺い大丈夫か?と聞いてくる。エースが看病してくれたお陰ですっかり元気なのだが。今のままで島に1人で行くと言っても許してくれないだろうし自分も行くと言いかねない。暫くすればエースも落ち着くと思いたいけれど。

「ナマエに勝てるようになってから心配しろよぃ……。」
「って私も言ってるんですけど。」
「はぁ〜…分かった、さっさと行ってくるよい。船の操縦は大丈夫か?」
「一応航海術や船の本も読んだので大丈夫かと。いざとなったら錬金術もありますし。」
「本当に頼もしいやつだよい。」

マルコさんも最近のエースには思うも頃があったのか、見つかる前にと準備を急ぎ私は静かに船から降りた。



初めての短い航海は順調だった。後ろを振り返っても目を凝らしてようやく船が見えるかどうかという距離で港に着く。さて、情報収集となるとやはり酒場か。人が集まり酔って口が軽くなるのはどこの世界も同じだろう。そこそこ大きい島なのか人も多く賑わっているが治安はそこまで悪くもなさそうだ。島の人にいかにも旅行客ですといった顔をしながら酒場の場所を聞く。いくつかある内の一番大きな所を案内してもらったら、外からでも分かるぐらいには賑わっている。騒がしいが喧嘩などの不穏な感じは無いしこれなら入っても大丈夫だろう。

と、そう思ったのが間違いだったのか。

「…貸切だったりします?」

端から端までおおよそ島の人間とは思えない粗暴な男達。楽しそうに呑んでるから複数の海賊とは思えない。となるとここに私が入る事は許されるのだろうか…?端に居る人に恐る恐る尋ねる。

「いや?そんな話は聞いてねえな。嬢ちゃん若えのにこんな所で呑むのかい?」
「賑やかな所が好きで。私なんかが入っても大丈夫ですか?」
「綺麗な嬢ちゃんが入るならうちは誰も怒らねえよ!カウンターの方なら空いてたぜ。」
「ご親切にありがとう。」

思っていた以上に気さくな一団らしい。入る事はあっさり許されカウンターに向かいながら声は掛かるが無遠慮なものはない。なんならこの海賊達からも情報を得れるかも知れない。そう思いながらカウンターに着きこちらも気さくそうなマスターに適当にお勧めを頼む。とりあえずこの海賊達がどこの一味か、海軍は来てないかそれぐらい分かれば良いだろう。

「若いお嬢さんが来たって聞いたんだが、騒がせてて悪いな。」

海賊達の船長か副船長か、上の方が態々挨拶してくるとは。事を荒立てない為に私も挨拶をと思い声の方に振り返る。

「いえ、お気になさ、ら………ず…………。」

思わず声が尻すぼみになる。
私が船に乗って色々勉強して行く中で名のある海賊達、七武海、そして勿論お父さんに並ぶ四皇の顔は一通り頭に入れた。



真っ赤な髪に顔の左に目を横断するような3本の傷。こんな特徴的な顔を見間違える訳がない。思わず呼吸が止まったかのように言葉が出ない。だからと言って彼に向けた視線も外せない。



「どうした?俺の顔に何かついているか?」

気さくに聞いてくるがこっちはそれどころじゃない。プレッシャーを掛けられている訳では無いが背中は冷や汗が伝っている。お父さんと同じ四皇にこんな所で、しかも1人で出会うなんて思ってもいなかった。軍人としての矜持でなんとか平静を保ち返事をする。

「……顔にというよりは、ついている顔が問題ですね。」
「ほぉ?俺を知ってるか。」
「貴方を知らない方が問題でしょう…。」
「その割には逃げないんだな?なかなか肝の据わったお嬢さんだ。」

これでは情報収集どころでは無い。というか彼等が居るという事が1番の情報では?けれど私が白ひげ海賊団の1人だとバレるのもまた面倒になりそう。ならばここは穏便に済ましてそっと船に戻るのが一番良い。

「おいあんまり若い子を怖がらせんなよお頭。」
「ベック。」

ああもう次から次へと、頭が痛い。

「それがこのお嬢さん中々に面白くてな!」
「はぁ……、悪いなお嬢さん。害は与えないと約束しよう……。」
「一般市民に四皇の酒に付き合えと…?」
「言い出したら聞かないんでな。」

どこの船にもそう言う人間が必要なのだろうか?穏便に済ますなら、諦めるしかないかとマスターにもう一杯酒を頼む。彼等が居る以外の情報なんて些事だろうから無事に船に戻れさえすれば良い。

「一杯だけなら。」
「な、ベック面白いだろ!」
「あんた面倒なのに好かれやすいだろ。」
「ははっ……。」
「まあもう知られてるが、シャンクスだ。こっちがベックマン。」
「ナマエです。」
「そうか、ナマエか。ナマエは1人か?この島の人間じゃないだろう?」
「そうですね、好きに海を渡ってるただの旅人です。遠目から見ても補給出来そうな島だったので。初めて来た島で情報を得るなら、酒場かなと。シャンクスさん達もそうじゃないんですか?」
「いやあ?この島の酒が美味いって聞いたから寄ったんだ、そりゃ酒場に来るだろう!」
「この島のログは1日らしい。」

シャンクスさんの言葉の後に静かなベックマンさんの言葉が続く。今のこのやり取りだけでこの船の副船長の苦労が窺える。

「でも若い女1人の旅は危ないだろう?」
「それなりに腕っ節には自信があるので。」
「その細腕でか?」
「シャンクスさんぐらいなら余裕で放り投げれますよ。」
「ハハハッ面白い冗談だ!」
「……。」
「……冗談だろ?」

やり方によってはジョズさんですら投げれるとは言わないけれど。

「それにもう若いと言える歳でもないですよ。」
「お頭じゃないが…それこそ面白い冗談だ。」
「25です。」
「………。」
「………。」
「あの…?」
「っぷ、ハハハハハッ!!」
「驚いたな。それじゃあお嬢さんなんて呼ぶのは失礼か。」
「人の年齢で笑ってるのが一番失礼では?」

何故か爆笑してるシャンクスさんとは対照的にベックマンさんは紳士的だ。というか何がそんなに面白いのか甚だ不思議である。

「はぁ〜、本当に面白いお嬢さんだ。なあベック。」
「あぁ、その一杯はうちの奢りだ。」
「え、えぇ?はい…ありがとうございます?」
「ところでナマエ、相談なんだが。」
「?」
「俺の船に乗らないか?」
「…は?」

唐突な誘いに頭が付いていかない。何故そうなった?

「グランドラインを1人で渡るぐらいだ、本当に腕っ節が良いんだろう。俺ら相手にも怯まない胆力も良い。それに何より俺が気に入った。1人なんだろう?俺の船で旅をするのも悪くないじゃないか!」

1人で話を進めるシャンクスさんに言葉が出ない。頼りになりそうなベックマンさんも溜息を吐くだけで助けてはくれない。私はただ穏便に酒を飲んで去ろうと思っていただけなのに。

「お、お断りします。海賊になるつもりはありません。」

既に海賊だが知らない人からしたら最もらしい断りだろう。けれどシャンクスさんは私の返事に何故か笑みを深める。

「俺達は海賊だぞ?欲しい物は奪うんだ。」

そう言うや否やシャンクスさんから広がるプレッシャー。竦みそうになる足を無理矢理動かしてカウンターから素早く離れる。
ああそうだ。私が想像した海賊はそう言う物だ。

「ほぅ?」
「なあベック、本当にナマエはただの一般人だと思うか?」
「これは、思わねえなあ。まあレディなんだ。怪我はさせるなよ。」
「あぁ、分かってるさ。」

そう言いシャンクスさんが立ち上がる。まさか本当に力づくでも連れ去るつもりだろうか。冗談じゃない。こんなところで四皇と争っていられない。港までの道を思い出しながら徐々に後ずさる。船に乗ってしまえば後は錬金術でどうとでも出来るはず。

「ご馳走様でしたっ!」

それを合図に店から飛び出し全力で走る。後ろからビシビシとプレッシャーを感じるから確実に追いかけて来てるのだろう。ただの偵察が何故こんな事に。

「はぁっ、はぁっ…!」

稀にない全力での走りに息が切れる。海が見えて来たが、思ったよりも後ろが近そうで船に乗れる気がしない。乗ったとしても陸との距離を開けれないだろう。一方後ずされば海に落ちるところまで追い込まれてしまった。正面から堂々と断るしかないか。

「ん?鬼ごっこは終わりか?」
「はい。ですが何度誘われてもお断りします。私にはやらなければならない事があるので。」
「力づくでも連れて行くって言ったら?」
「……受けて立ちましょう。」

言うや否や、先程とは比べ物にならない圧。ああ、これが四皇か。なんて恐ろしい。負けたら、どこにも帰れないのだろうかなんて考えてしまう。足に力を入れて踏ん張って、打開策を必死に考える。必死で、だから、他の音が耳に入ってなかった。



「わりぃな、ナマエはうちのなんだ。」



聞こえると同時に肩に回るのは暖かな腕。

「!」
「エッ……、」

そのまま引き摺り込むように海に落ちる。と思いきや、しっかり硬い場所に足が着く。ストライカーだ。いつの間に。落ち着く間もなく掛かるエンジン。

「火拳のエース、だったか。」
「前回は弟が世話になったから挨拶だけだったが、ナマエに手を出すならうちが相手になるぞ。」
「ちょっと!」
「いやあ1人旅だって聞いたもんでな。」

旋毛に突き刺さる視線が痛い。でも仕方ないだろう。白ひげの船に乗ってるなんて言えば何が起こるか分からないのだから。

「まあいい、今日は諦めるとするか。」
「……今日は?」
「ずっと諦めてろ!ったく、ほら行くぞ!」
「あっ、うん。」

徐々に掛かるスピード、港と少し距離が出来てもシャンクスさんはそこにいた。本当に何をもって私を船に誘ったのか、私には分からない。ただなんとなく後ろを振り返り、声を上げる。

「シャンクスさん!ベックマンさんにご馳走様と改めて伝えておいて下さい!」
「おい動くな!落ちるぞ!」

ちゃんと届いたのか、緩く手を挙げ去って行くのが見えた。

「何があったら赤髪に絡まれるんだよ…。」
「私が知りたい……。ところでエース。」
「ん?」
「マルコさんにちゃんと許可取って来たんだよね?」
「…………。」
「エース?」
酒場


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