リクエスト作品

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授業修了の合図と共に脱兎のごとく教室を飛び出す。
「ミョウジ!!!」と先生が呼ぶ声がするが無視。ごめん先生、これは私の命に関わるんだ。
とにかく次の授業が始まるまでにどこかに隠れなければならない。さもなければ奴がやってくる。奴は優等生だから授業修了前に片付けを始める私と違いきちんと最後までノートを開いていた。大丈夫、見つからなければ…


「捕まえた」

「ぐぇっ!!」


ローブの首根っこをキュッと締められ、潰れたカエルの様な声を上げてしまった。聞きたくなかった奴の声が鼓膜を通過してしまった事を悟り、一気に血の気が引く。


「れ、レギュラス……」

「ナマエがすぐ飛び出すのも慣れてしまいました!今日は3分で追いつく事ができて嬉しいです。その分ナマエと長くいられますからね!」

「ヨカッタネ」


それ君のせいだからね、とは言えず何とか震える口角を上げる。ニコニコと満面の笑みを浮かべるレギュラスは、傍から見ればとても愛らしいお坊っちゃんだ。落ちぶれた名家(笑)の私とは違い、由緒正しき魔法界の王族である。


「で、いつ婚約してくれるんですか?僕はこんなにナマエの事が好きなのに…」

「来世かな」

「来世も一緒にいてくれるんですね!嬉しいな…」

「なんでそうなっちゃうのかなぁぁ……」


そんな彼は何をとち狂ったか、毎日飽きもせずに私に迫ってくる。どこかで変な物を口にしてしまったに違いない。異常な程のポジティブシンキングで私の返答を全て自分の都合の良いように脳みその中で作り替えてしまうのだ。末恐ろしい奴である。いつの間にか繋がれていた左手(もちろん恋人繋ぎ)を見て、遂に抵抗する気力を失ってしまった。今日も敗北決定だ。
一度捕まってしまうと夕食まで行動を共にしなければならないのが苦行だが、まあ、全力で逃げ続けていつ襲われるか分からない恐怖に怯え、一日中神経を張り巡らせて疲労困憊になるよりかはマシだろう。

ルンルンとご機嫌なレギュラスと廊下を歩いて次の教室へ向かう。周りからの視線がグサグサと突き刺さって痛い。半分はリア充死ねなる嫉妬の視線、もう半分はあの女レギュラス様と馴れ馴れしくしやがっての嫉妬の視線である。残念ながらあの男可愛い女の子と歩きやがってという視線は無い。正直泣きそうだ。友人はこの状況を楽しんでいるから助けてくれるはずがない。

なんてこった。私が何をした。

ギュッギュッと力を込められたり緩められたり、生暖かい左手が憎らしい。
結局本日も夜談話室で別れるまでレギュラスとベッタリ過ごしてしまった。
主に疲労で重い身体を引きずり、自室のベッドに倒れ込む。


「今日もお疲れ様〜見てて面白かったわ!」

「笑うくらいなら助けてくれよ……」

「嫌よ、面倒だもの」

「この薄情者め…」


先に部屋にいた友人が心底面白いと言った顔で話しかけてきた。彼女はいつも私とレギュラスの関係を面白がるだけ面白がって助けてくれない。酷い話だ。


「でも、満更でもないんでしょう?」

「いやいやいや、まさか!離れてくれるなら今すぐにでも離れて欲しいくらいだよ」

「…本当に?」


ベッドの上に腰掛けた友人は、そのまま「喰らえっ」と私の上に落ちてきた。「グェッ」とその重みに奇声を上げてしまう。


「何すんだコノヤロー!折れる折れる骨が折れる!」

「本当に、レギュラスに離れて欲しいって思ってるの?」


さりげなく私の足を逆方向に曲げながら尋ねる友人。待て待て有り得ない方向に曲がっちゃうから!!


「ギブギブ!!はいはい嘘です思ってません!思ってませんから!でも私ん家とレギュラスの家、釣り合う訳無いじゃない!!」

「そんな事はないですよ、ナマエ」

「……?」

「僕はただ貴女の事が好きなだけなんです。恋に家柄なんて関係ありませんよ」

「……待て待て待て誰だ、お前は誰だ?」

「へ?レギュラス・ブラックですけど」


そう言ってふわりと笑う友人(変身したレギュラス)。

…………

…………………??????

ああ、そういう事………最初から友人はレギュラスがポリジュースか何かで成りすました姿だったって事ね……
Theダマされた大賞受賞じゃん私、オメデトウ!!ヤケクソである。


「本物は?」

「図書室に待機してもらってます」


そうか……グルか……と頭を抱える私。の、隣に腰掛ける友人(レギュラス)。ギシリとベッドが軋む音が聞こえた。沈黙が痛いぞちくしょう。
見た目は友人、中身はポジディブシンキングストーカーレギュラスだと考えるだけで頭が痛くなってくる。このベッドボロいなーと現実逃避を始めると、「ねえナマエ」と突然名前を呼ばれた。


「あっ、はい」

「僕達、両想いって事で良いんですよね?」

「あっ、えーとまー、そういう事に、なりますかねー」

「僕、まだナマエに好きだって言ってもらってないんですけど」

「ええっさっき言わなかったっけ?」

「言ってません」


グイッと顔を近づけてくる友人(レギュラス)から全力で顔を逸らし逃げると、不服そうな顔をされた。いや当たり前だろ、お前見た目友人なんだからな分かってるのか?


「明日。明日元の姿に戻ったら、言ってあげる」

「……はぁ、分かりました」


もぞもぞと布団に入り込むレギュラス。とんとん、と隣を叩かれ、流された私は一緒の布団に入ってしまう。


「どうしたの?」

「ここで寝たら朝一に言ってもらえるし、ナマエの寝顔が拝めるから一石二鳥だなと思いまして!」


満面の笑みが眩しいよレギュラス。素直に引き下がって偉い、と感心した私が馬鹿だったよ…
何度目か分からないため息を吐くと、すぅ…すぅ…と静かな呼吸音が聞こえた。
寝るの早っと目を見開くと、さらに驚くべき事が起こった。レギュラスが元の姿に戻ったのだ。
慌てて頭から布団を被せて隠す。

いや…色々まずいだろ…これ…

まあ、幸い友人はレギュラスに協力する姿勢を見せていたらしいから話せば何とかなるだろう。というか私が心配する理由が無い。うん、寝よう。そうしよう。
そう心の中で結論づけると、そういえば、とひとつ大事な事を思い出した。


「おやすみなさいレギュラス。好きだよ」


押して駄目でも押してみろ
(結局の所彼もまた誇り高き蛇寮の生徒だったのだ)

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