if生存院

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「い゛、生ぎでるぅぅぅ」

「はいはい、生きてるよ」


「花京院が生きてるぅぅぅ」と涙で顔をぐしゃぐしゃにした彼女にドスッとタックルされ、反動で半歩後ろに下がりながらも何とかそれを受け止める。


「お前ら、そのやりとり何回すれば気が済むんだ」

「だって、承太郎、だってぇぇ」

「もう僕退院してから半月経つんだけどね…」


はぁ、とため息を吐いた承太郎は「いい加減鬱陶しいぜ」と言い煙草に火をつけた。

ビュウビュウと音を立てて肌を刺すような冷たい風が吹き荒れる屋上で、しがみつく名前を引き剥がして座らせ、今日の数学は難しかっただの、教師から怒られただのとささやかな談笑をしながら昼食を取る。
毎日屋上で僕に会う度にビュッと涙が噴き出す名前の涙腺は馬鹿になってるに違いない。
でもそれを鬱陶しいとは思わず、それどころか嬉しいと感じてしまう僕がいる。本人には伝えていないけど。


DIOに腹部を貫かれたせいで一時期生死をさ迷っていた僕だったが、名前のスタンド能力のお陰で何とか一命を取り留める事ができた。
1ヶ月ほど入院し、リハビリを重ね無事退院できたのが2週間前。
2月に入っていたので3年生は自由登校期間で、承太郎と名前には休みの日にでも会いに行こうと思っていたが、まさか昇降口で出会うとは思っておらず。
わんわん泣きながらぎゅうぎゅう抱きしめてくる名前と、泣いてはいなかったが心底安心したような顔の承太郎の2人に屋上まで拉致され(その日は授業に出られず3人揃って教師に大目玉を食らった)、以後昼休みは屋上で昼食を取るのが日課となったのだ。
承太郎と名前が自由登校期間中に学校にいたのは驚いたが、エジプト旅行のせいで出席日数が足りなくなったと聞き思わず笑ってしまったのは良い思い出だ。承太郎もちゃんと高校生だったらしい。


「それでね、って花京院聞いてる?」

「はいはい、聞いてるよ」

「嘘だ、絶対別の事考えてた。どうせまたチェリーの事考えてたんだ」

「チェリーの事は考えてない!…2人の事を考えてたんだ」

「えっ愛の告白?しかも同時?どうしよう承太郎」

「何言ってんだお前」

「なあ承太郎、それどっちに言ったんだい?名前だよな?名前にだと言ってくれ」

「花京院にだぜ」

「誤解だ!!それは酷い誤解だ!!」


プ、と最初に吹き出したのは誰だったか。
屋上にクスクスと声が響き、次第に大きな笑い声へと変わっていく。


「あは、あはは!私も花京院と承太郎の事好きだよ!」


バシバシとおっさん臭く膝を叩きながら名前がにぃ、と笑った。


「私だってお昼食べながら2人の事考えてたし、ジョースターさんやアヴドゥルさん、ポルナレフとイギーの、星屑十字軍の事ずっと考えてた。か、花京院が生きていてくれて、本当に良かったぁぁ…」


ぐす、と鼻を啜る音と共にポロポロと涙を零す名前。ああもう、道中は一度も泣かなかったくせに、一体いつから君は涙脆くなってしまったんだい?

どうにも困ってしまい、助けを求める為承太郎に視線をやると、はぁ、とため息を吐かれてしまった。


「おい名前、いつまでグズグズ引っ張るんだ。今日こそビシッと決めろ」

「ええ、えぐ、無理、ぐす、無理ぃ」

「うるせぇ。俺は先に教室に戻るからな。事が終わるまで帰ってくんじゃねえ」

「えっ!ちょっ、ずび、待っ」


痺れを切らせたらしい承太郎が席を立ち、そのまま扉を開けて出ていってしまった。残された僕とオロオロして視線を忙しなく動かす名前。


「えっと…大丈夫かい?」

「あっ、うん!元気!…うん…大丈夫」


青くなったり赤くなったりしながらしどろもどろに話す名前の様子に困惑していると、突然名前がすくっと立ち上がった。


「漢名字名前!!今日こそ決めます!!」

「君女の子だろう!?」

「うるさい!!」


大丈夫、大丈夫と呪文のように小声で呟く名前に僕は不安になった。一体何が始まるというんだ。


「花京院典明!!」


僕を指さして大声で叫んだ名前。
顔を真っ赤にさせて、ああ、まさかこれは。


「ずっと前から!!具体的に言うとエジプトに着く前くらいから優しい貴方が好きでした!!付き合って下さい!!てか付き合え!!」


未成年の主張よろしく声を張り上げて叫ぶ名前に、カッと顔が熱くなるのを感じた。

毎日毎日僕と会う度に泣いていたのは、僕の事が好きだったからなのか。
今までそんな素振りは見せなかったじゃあないか。
いや、僕が気づいていなかっただけなのか?

ドッドッと馬鹿みたいに鼓動が聞こえる。
血液が恐ろしい速さで全身を巡っている。
これは、これは、この感覚は。

一度グラウンドに目を移し、一呼吸置いてもう一度名前と視線を合わせる。
その視線は「返事はまだか」と熱烈に訴えかけていて、すぐ返事を貰おうという潔さが彼女らしく、クスッと笑ってしまった。

さあ、今目の前でプルプル震え目元に涙を滲ませている彼女に一刻も早く返事をしてやらなければ。
そう思った僕はゆっくり立ち上がり、自分より小さい名前をぎゅっと抱きしめた。


返事は勿論決まっている

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