※夢主がぺドで歪んでる。

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「ジョセフくんは可愛いね」


くりりとした綺麗なエメラルド色の瞳を覗き込みながら、呪いのように可愛い可愛いと繰り返す。
この親戚であるジョセフくんの、幼児特有のふにふにした肌とかビー玉みたいな可愛いおめめとか人畜無害そうなところが好きで好きで好きで好きで。
片手で数えられるくらいしか歳の離れていない、けれども彼より先に世の中の汚い部分を知った私は、綺麗で可憐なジョセフくんを私自身の手で汚したくて堪らなかった。

可愛いね。

可愛いよ。

可愛いなあ。

会った時は必ず目を合わせて私という呪いを刷り込むように可愛い可愛いと繰り返す。
次第に行為はエスカレートし、こっそり自室に連れ込んで可愛らしいワンピースを着せたり、ピンクのリボンを髪に括りつけ、みずみずしい唇に色を落とすまでになった。

彼は一度も嫌がりはしなかった。


「可愛いジョセフくん、今度はモデルさんみたいなポーズとってよ」

「うん」


彼はいつも大人しく私の指示通りに動いた。自室で行われる密会の内容を誰にも漏らす事も無かった。それどころか、彼の方から近づいてきて「今日の僕、可愛い?」と聞いてくるようになるまで成長した。
その大人の機嫌を伺うようないじらしい表情が可愛らしくて私の仄暗いところがずくりと疼く。

可愛い!

可愛い!

可愛い!

本当にジョセフくんは可愛らしかった。宝石を守るように閉じ込めて私という檻から逃げられないようにしたいと思うくらいには可愛らしかったのだ。
しかし、人間には成長期というものが存在する。
次第に大きくなり可愛いジョセフくんから見知らぬ『男』へと変貌した彼に興味は失せ、私はジョセフくんにちょっかいを出すのをやめてしまった。

そんなジョセフくんもいつの間にか私の家を訪ねることも無くなり、私もジョセフくんの事は良い思い出だったと消化して、近所のお人形さんみたいに可愛らしい金髪が素敵な男の子のハートを射止めるのに夢中になっていた。
つまるところ、私はぺドファイルだったのだ。


(そこでジョセフくんとの交流は終わりだったはずなのだが…)


「なんで私の部屋にいるの」

「可愛いでしょう?テキーラって呼んでねン♪」

「黙れ化け物!!昔の可愛いジョセフくんを返してよ…じゃなくて!勝手に他人の部屋入ってるんじゃねえ!」

「ポストの中の天井に鍵を貼り付けるなんて古典的な技やってる方が悪りィし〜」


アメリカの私一人で暮らしているアパートに、いつの間にかナヨォナヨォとシナを作り腰をくねらせるピンクの化け物が侵入していた。
ジーザス!くそったれ。あんまりだ。
成長期なんて世の中から無くなってしまえば良い。
違う、そうじゃあない。こいつが筋肉の塊になってしまった事を嘆く前に警察に通報しなければ。

そう思い携帯を取り出した私の腕を背後からぬっと飛び出した大きい手が掴み、もう片方の手によってヒョイっとおやつのクッキーを摘むように携帯を奪われてしまった。


「おーい、ナマエちゃん聞いてる?」

「聞いてない」

「聞けよ!」

「うっさい化け物…早くゴテゴテのメイク落としてこい目が腐る」

「それなんだけどさァ…ナマエちゃんが昔みたいにメイクしてくれない?俺に」


はぁぁ?何を言い出すんだこいつは。誰が195cmの巨漢のメイク手伝ってやらなきゃいけないんだよ。需要はどこだよ。
意味が分からないと眉間に皺を寄せて口をへの字に曲げてみるが、目の前の巨漢は痛くも痒くもないらしい。
昔から変わらないキラキラとしたエメラルド色にじいと見つめられてしまい、その純粋な瞳の輝きに悲しいかな、私の心が動かされてしまう。
巨体だしピンクのダサいワンピースを無理矢理着ているような変態の癖に、子供らしく小首を傾げて「ねえ、ダメ?」と聞いてくるジョセフくん。
くそ、可愛い。巨人の癖に。化け物ファッションの癖に!

バスルームからメイク道具一式を持ってきてベッドにジョセフくんを座らせると、ミシリとベッドが嫌な音を立てた。
うげぇと思いながらもまずは凶器と化した顔面の塗料を落とす為にクレンジングオイルを取り出す。
顔面に塗りたくられたチークやアイシャドウを落とし、顔を洗いに行かせた。


「ど〜お?イケメンなジョセフちゃんのすっぴん!」

「ごつい」


下らない事をぬかすジョセフくんを一刀両断し、兎に角私好みの顔になるよう無心で手を動かす。昔私が幼いジョセフくんの顔を飾り立てたように、この男も可愛らしくなってしまえば良い。
そうして何度も何度も童顔になるよう筆を上下左右に動かしたのだが。


「一応完成したけどごついのは変わらないから似合わないなぁ」

「ひっでェ〜!!!」


全体的に明るい色で纏めあげたが奇抜な衣装も合わさって完全にオカマバーか何か、所謂そっちの人だ。やはりメイクをするのも可愛い服を着せるのも子供に限る。

要件は済んだろとっとと帰れの意を込めて睨みつけてやると、何を思ったのかいきなり抱きしめてきやがった。
突然の出来事に目を白黒させる事しかできず、頭を硬い胸板に押し付ける形になるようにギリギリ締め上げられる。


「痛い痛い馬鹿野郎!!何しやがる離せ!!」

「あぁ…ナマエちゃん可愛い」


首元に顔をうずめられ、ジョセフくんの吐息が肌を掠めてむず痒い。気持ち悪い。
そのまま頭を肩に押し付けたまま動かなくなってしまい、情けない事に私の体は彼の重みと緊張でプルプル震えていた。


「昔さ、ナマエちゃんが俺にした事覚えてる?俺は全部覚えているよ」


顔を上げたジョセフくんと目が合いヒッと悲鳴が漏れる。彼の顔はメイクで面白い事になっているのに、ギラギラと鈍く輝くエメラルドが今にも私を捕食するぞと訴えてきたのだ。
そっと抱きかかえられ、落とされたのはベッドの上。
ギシリと鳴るスプリング音がこれから起こる未来を教えてくれたせいで、恐怖のあまりガチガチと歯を鳴らしてしまう。


「あ、あのジョセフくん…落ち着いて」

「可愛いなァナマエちゃん」


体の上に跨りニヤリと笑うジョセフくん。あの頃の面影はもうどこにも無い。


だから大人は嫌なんだ!

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