バン!バン!とお洒落なジャズが流れるあえて照明を落とし薄暗くムーディな演出がされたバーには似合わない発砲音が響く。
テーブルを盾にし背中を預けている私はチッと舌打ちをして相棒に弾丸を詰め込んだ。


「折角の休みというイィ気分を台無しにしやがって!死ねイ○ポ野郎共ォォォ!!」


対象は三人。銃を構え立ち上がり、きっかり一発ずつ相手の眉間にお見舞いしてやる。床に座り込んでいたせいで汚れたパーティドレスの裾をパッパと手で雑に払いながら、ああまたやっちまったなぁと血肉の塊と散乱した家具に目を向けた。





「貴女はどうしてこう…酒が入ると暴れて店を潰してしまうんですか!!飲酒禁止令この間出したばかりでしょう!」

「ごめんってボスゥ〜!」


顔の前で両手を合わせ我らがボス、ジョルノにペコペコ頭を下げる。歳下に怒られるのはどうかと思うがジョルノは私より何倍も頭がキレるから仕方がない。
どうも私は酔いやすい体質らしく、ひとたび酒を煽れば些細な事でプッツンしてしまうのだ。その度に店を半壊させてしまい、数々のバーで出禁を喰らっている。今月破壊したのはこのバーで三件目。私が店を壊す度にわざわざボス直々に後始末に来てくれるから偉いなァと思う。


「で、今回の原因は何ですか」

「聞いてよボス!そこでくたばってる奴らがさァ、『パッショーネの新しいボスは淫売で成り上がったクソビッチの玉無し』って言ってたから私ムカッて来ちゃって!『うちのボスはしっかり玉着いてるわよクソ下衆野郎共!』って文字通り玉をぶち込んでやったわ」

「はぁ…そんなくだらない事で店を壊さないで下さい」

「分かってないわね、全然くだらなくないんだから!私の大好きな人侮辱されて黙っていられるほどイィ女じゃあ無いのよ私!!」


思い出したらまたムカムカしてきた。本当は久しぶりにもぎ取った休日の夜をお酒で締めようと思っていたのに。地獄まで追いかけて慰謝料請求してやろうかしら、と地面と仲良くしている死体をピンヒールでグリグリ踏みつける。もちろんナニを。
気が済むまでグリグリしてやってからふと、ジョルノが静かになってしまった事に気付き、死体からジョルノに顔を向ける。


「っ…」


なんと、耳まで真っ赤にしたジョルノが口元に手をやりながら赤い顔を隠そうと俯いていた。まァ可愛い。


「あれ、照れちゃった?貴方気づいてないかもしれないけど私達部下はみぃ〜んな貴方の事好きで好きで堪らないんだからね!」

「地球より大きいわよォ私の愛は!!重すぎて受け止められないっていっつも男に逃げられちゃうんだけどさァ!!」

「まあボスの体じゃ小さくて受け止められないかもしれないわね!私が大事に持っとくわ!!」


自分でもなんだか可笑しくなってゲラゲラと腹を抱えて笑う。大きなハートにプチッと蟻のように潰される小さなジョルノ。傑作だ。マヌケ過ぎて笑える。

ヒィヒィ笑っていると、いつの間に復活したらしいジョルノに腕を掴まれ、ぐいぐい引っ張られて店外へと連れ出されてしまった。

「えっと、ボス?」と顔を覗き込んでやべ、と思わず呟いてしまう。無表情で目に光が無い。完全にご立腹だ。

(『小さい』はNGだったか…)

あちゃー、と自由な方の手で額を抑える。
こりゃ明け方まで始末書作成とお説教のコースだな。


店の脇に駐車されていた車の前まで来ると、乱雑に助手席の扉が開かれ中に無理矢理押し込まれてしまう。
ゴン、と天井に頭をぶつけてヴッと呻く。
ギャングでも一応紳士ないつものジョルノと様子が違う、気がするようなしないような。


「痛ったァァ!何するのよ!」

「アンタの地球より大きいハートってやつをこの僕が受け止めるなど造作もないという事を証明しようかと思いまして」


ニンマリと悪い笑みを浮かべたジョルノはバタンとこれまた雑に扉を開けるとドカリと音を立てて運転席へ座った。
急に男らしくなっちゃって…と唖然とする私をよそに慣れた手つきでキーを回し、エンジンをかけるジョルノ。


「えっとボス…何処に向かうつもりなんでしょうか…アハハ…私の家に送ってくれるんですか?なんちゃって…」

「ナマエの家でですか?僕は別に構いませんけど」


情熱的な部下を持つというのは大変ですね、と耳元で囁かれ、背中に何かゾクゾクしたものが走る。

快感じゃない、これは悪寒だ。

私が壊したバーの後始末は、とか別にアンタの事好きって言ったのは親愛の意味で深い意味は無い、とか喚いてみたが全て無視されてしまい、そうしている間に車は迷う素振りを見せる事無く確実に私の住んでいるアパルトメントに向かって夜のネアポリスを進んでいった。


You are the love of my life!
(でもそれって親愛の意味よ!)

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