2017.09.21 Thu 三蔵とお付き合いしていた話
やばい。もう1日が過ぎていた、とりあえずGoogleドライブに突っ込んだまま放置していた話を上げます。起承転結の起の半分も書けていない

 もう無理だ、と唐突に悟った。
 もうこの関係を続けることは無理であると。ただ、彼のことが好きで、彼の傍に居られるだけで良かったのに。

 それだけで良かったはずだった。
 それ以上を望んでしまえば、もう彼の隣には居られない。

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 玄奘三蔵。それがかれこれ私が三年間お付き合いしてきた男性の名前である。
 イケメン。眉目秀麗。美丈夫。男前。端正な顔立ち。どの言葉を用いても道行く十人中十人が振り返るであろう彼の容姿を形容することができない。
 やや性格に難があるもののそれを覆すほどのイケメンであり、その顔面同様発する声は女性達の腰を骨抜きにすることで有名である。
 現、齢二十四歳。一流企業に勤めるエリートな彼は兎に角女癖が悪かった、否、あまり執着がないと言った方が正しいのかもしれない。来る者拒まず去る者追わずを貫く彼が泣かせた女と顔に紅葉マークをつけた数は枚挙に暇がなく。数ヶ月続けば良い方、中には数日しか保たず振られてしまうなんてこともザラであった。

 そんな、お付き合いするには本来ご遠慮願いたい彼に告白したのは私だ。私なら彼を本気にさせられるだとか変えられるだとか、そんな大層な思いを抱いて告白したのではない。
 彼の顔面が私の好みド真ん中であり、その顔を毎日近くで眺めたかった。それだけだ。
 たった、それだけの理由のために私は彼に告白し、承諾を貰うと同時に転がり込むように彼の住むマンションへ入り浸り、同棲生活をスタートさせた。

 血の繋がった家族と生活をするのでさえ時たま苛立ちを覚えるのに、赤の他人と共同生活をするなんて苦労の連続である。特に三蔵との同棲生活はそれが如実であった。
 この男、家事をしようとしない上、大層な味覚音痴だったからだ。私が作る料理に悉くマヨネーズを掛けることに最初こそ文句を言ったものの、数日で諦めた。勝手に押し掛け勝手に料理を作っていること自体、私の自己満足であったから。
 そう、この関係は私の自己満足に三蔵が付き合ってくれただけに過ぎない。彼に何かをするのも、彼に何かを与えるのも、言葉を囁くのも全て私で、三蔵から返ってきたことは一切ない。けれど、それで良かった。(彼が住むマンションに押し掛けたのは私だが)彼の帰る場所になれるだけで、彼の様々な一面を一番最初に見れるだけで良かったのだ。

「……それだけで良かったのになあ」
「良いわけないでしょう」

 私のそんな呟きは、柔和な笑みを硝子越しに浮かべる彼に一刀両断された。
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