ボーダーをね、辞めようと思っているの。何故か、って？ いやだなあ、分かってるくせに。私たちは今年でいくつになると思ってるの？ 二十一だよ、二十一！ トリオン器官の成長がそろそろ止まる年齢！ ……あのねえ、君はトリオン量多いからまだ大丈夫かもしれないけどさ、私は平均以下なの平均以下。オペレーター勧められたけど無理言って隊員になったの、指導してくれた君なら分かってるでしょ？ …………、その節はほんっとうにお世話になりました、君には感謝してもしきれないです！ 今度カレー奢らせてください畜生！ 高給取りなんだから逆に奢ってくれたっていいじゃん、私は出来高制なんだから。……いえ、何も言ってないです。そ、それよりどこのカレー屋行こうか！ 君って意外と子供舌だからって──冗談！ そのスコーピオンしまって洒落にならないから！ はあ、君って寡黙で知的そうに見えるし実際そうだけど意外と茶目っ気あるよね。子供料金で乗ってたの気付いてなかったし食べる時なんて頬膨らませてるからリスみたいだし、って悪かった！ 謝るからスコーピオン構えるのは止めようか！ で、で！ どこのカレー屋がいい？ 最近のお勧めはある？ ……話逸らそうとなんかしてないよ、本当本当。君の選ぶカレー屋は間違いないから楽しみだなあ！！ えっ、三門市じゃないとこなの？ いや、なんというか、意外。君、非番でも何かあればいつでも駆け付けられるようにって三門市から出たことないじゃん。……へえ、隣町のカレー屋の評判が良いんだ。以前から気になってた？ 分かった、じゃあそこ行こうか！ 約束だし奢るよ、好きなものばんばん食べて！ あ、隣町まではどうやって行くの、電車？ え、車を出す！？ い、いや運転出来るんだーって驚いて。あはは、ボーダー屈指の人気者の車に乗れるなんて恐れ多いなあ。……他に行きたいところ？ ううん、特に思い浮かばないや。君に任せるよ。最後だしパーッと盛り上がるようなところにしてね！ ん？ 最後でしょ、だってボーダー辞めたら記憶消されちゃうし。皆と過ごした時間がなくなっちゃうのは嫌だけど、情報が流出しない為には記憶消さないといけないの分かるし仕方ないよ。 エンジニアはどうか、って？ 私の座学の成績知って言ってるの、それ。……まあ、本部運営に転属するか迷ったけどボーダー以外の世界も知っておかないとこの戦争がなくなった時に生きていけないなって思って。それに最近、トリオン減るの早くなってきたからそろそろ限界なんだよね。
……君には本当にお世話になったよ、出来の悪い同期で申し訳ないと思ってる。君って言葉は冷たいし辛辣だし思ったこと遠慮なく口に出すけどそれは相手の為だって知ってるから。だから君のスパルタに耐えることが出来た。君と同じ、A級にいくって約束守れなくてごめんね。あはは、そんな辛気臭い顔しないでよ！ 単純に私の実力不足なだけだしさ、ほら、隣町までカレー食べに行く話を続きしよう。いつが暇？ え、今から？ ちょっと、防衛任務があるんじゃ──代わってもらう！？ 横暴な隊長だな！ 菊地原くんに文句言われるよ、……ってはいはい、分かった分かった、行こう。安全運転でよろしくね。……なんだか感慨深いな、最後に忘れる思い出を作るなんて。怒らないでよ、でも本当のことでしょう？ こうして話したことも、一緒に食べたカレーの味も、私が君にボッコボコされたことも、どうせ私は忘れちゃうんだし。片方は忘れてるのにもう片方は覚えてるってしんどくない？ だからさ、皆に伝えといてよ。いなくなった人間は忘れてねって。……君も例外じゃないよ、風間くん。私がボーダーからいなくなったら、
'16.6.20
それは無理な話だ。