▽『お艦に恋したクジラの話』A▽

島から少し離れた所に、大きなお船がありました。竜骨を顕にして横たわるお船の命は残っておりません。
近寄るものも少ないその地に、彼女はひとり暮らしています。形だけのお船の傍で、同じ躰に成り果てながら、寄り添うように暮らしています。

「みんなと一緒に暮らそうよ」
「いいえ、それはできません。
彼と共に在る事は、私の決意の果ての意思であり、罰でもあるのだから」
そう答える彼女の、細く掠れた声は熱を孕み、瞳を失くした二つの穴は夜空のように輝いていました。
寂しそうで力強い姿を、わたしはいつも見つめるばかりです。


あずき と みよ

2018/04/14 おはなし 
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